vs天よ、星よ、流星よ


 タルボサウルスにそっくりな見た目をしつつも、その体格はまるでそっくりではない化け物が本気を出す。


 一丁前に俺の力量を測っていたこの魔物は、俺が驚異であると判断すると本格的な攻撃を始めた。


「グゴオァァァァァァァ!!」

「物量による足止めがメインか?さっきの隕石と何も変わらないが、それに合わせて突っ込んでくるつもりか」


 観音ちゃんの動きを封じるために、その力を使って隕石を降らせるタルボサウルス。


 タルボサウルスからすれば、この神々しくも禍々しい姿をした観音ちゃんが最も脅威に見えているのだろう。


 事実、観音ちゃんはとても驚異である。触れたらその時点で勝ちとか言う理不尽ゲーを仕掛けてくるだけではなく、その無数の手が相手の行く手を阻むのだ。


 しかし、観音ちゃんだけが脅威と思われるのは頂けない。あまり俺を舐めてくれるなよ魔物風情が。


「俺を見ろよ。俺は脅威になり得ないってか?」


 パチンと指を鳴らすと、空がさらに暗くなる。


 第八級黒魔術“黒き海”。


 広域破壊系の魔術として開発し、その上位互換が生まれた為にあまり使われなくなった魔術。


 未だに広範囲破壊を主軸とする天魔くんちゃんには搭載されているこの魔術だが、俺自身が使うことはめっきり減った。


 しかし、この魔術は相手の意識を上に向けさせることが出来ると言うメリットがある。


 当たり前だ。急に空が真っ暗になれば、誰だって何があったのかと視線を一瞬でも上に向ける。


 それが自分を殺しうるものなら尚更。


「グゴァ?!」

「表情豊かじゃないか。ほら何とかしないと痛手を負うぞ?」


 降り注ぐ隕石の中に紛れる黒い海。


 もちろん俺も巻き込まれるが、俺は心理顕現によって発現している絶対的な領域が存在しているのでダメージを負うことはない。


 自分は安全だけど、相手は痛い。


 このレベルの戦いになると、本当に理不尽の押しつけあいになるんだよ。


 理不尽をさらなる理不尽で踏み潰せるかどうか。それが、俺達の戦いである。


 タルボサウルスが海をどうするのか見ていると、タルボサウルスは大きく息を吸って咆哮を上げる。


「グゴガァァァァァァァ!!」


 魔力を伴った咆哮。その叫び声は海を割り、隕石を砕く。


 すげぇな。咆哮による音の振動に魔力を乗せて増幅させることで、衝撃波のような一撃を繰り出してやがる。


 漫画で叫ぶだけで相手が吹き飛ぶみたいな描写を見た事があるが、まさかそれを本当に実現させる奴がいるとは驚きだ。


「俺も作ってみようかな。似たようなのはあったはずだけど」


 俺はそう言いながら、既に準備していた魔術を行使。


 タルボサウルスはそれに気が付き、自分の命が終わる瞬間を察知したのか俺を食い殺そうと飛び掛ってくるが、それは観音ちゃんによって防がれた。


「........(パンチ)」

「グベッ!!」

「ナイス観音ちゃん。じゃ、おつかれ。今度は素早さも求めてみるといい。この広範囲攻撃から避けられるかもしれんぞ?“静かなる暴風サイレント・エア”」


 そして対生物決戦魔術を行使する。


 海の対処でこの魔術を生成していたことに気がつくのが送れたなぁ?しかも、エレノアのように爆速で移動できるほど足は早くなく、そして真空に対する答えを持っていない。


 魔力から空気を生成できるだけの能力を保持しているなら別だが、今の反応を見るにお前はこの魔術に対する対策が何も無い。


 つまり、俺の理不尽を踏み潰せなかったという訳だ。


 パチンと指を鳴らすと、第八階層の一部の空気が消えてなくなる。


 タルボサウルスは観音ちゃんに殴り飛ばされたことにより、魔術の効果範囲外に逃げる選択を取ったようだが、あまりにも判断が遅すぎた。


 頭はいいけど戦闘経験が少なすぎて、いい判断は出来なかったみたいだ。


 そりゃそんなでかい身体に、あんな隕石を降らせる能力まで有していれば向かうところ敵無しだっただろう。


 自分と同格、又はそれ以上の相手と戦った経験が少なすぎるから、強敵を相手に誤った判断をする。


 俺はエレノアとか言う人間やめちゃってる奴とか、師匠やウル等自分よりも強かったり性格が悪いやつと戦ってきたお陰でそれなりの経験があるのだ。


「─────!!」

「勝敗の差は経験だな。後、単純に理不尽度が足りない。隕石を降らせるだけなら俺の相棒の方が得意だぞ?次はエレノアとやり合うだろうし、ぜひ本物の隕石を体感してくれや」

「─────........」


 真空の中では声は届かない。俺は魔術で空気を生成しているから無傷だが、やつはそうではない。


 声にならない声を上げていたタルボサウルス。それだけの巨大だと、生命を維持するための空気の量尋常じゃないだろ。


 タルボサウルスは、結局真空の中を1歩も歩けずに息絶えた。


「お疲れ様ジーク。余裕だったわね」

「まぁ、師匠とかウルの方がやりづらかったな。魔術に対する知識があるか無いかは、かなり重要だと言うのがよく分かるよ。やつが俺の魔術を知っていたら、最後の場面で食い殺しには来なかったはずだし」

「そうね。私なら妨害しに行くから同じような選択を取るでしょうけど、そもそも黒き海を消さずに突っ込むわね」


 でしょうね。


 エレノアなら俺が自分を巻き込む魔術を使ったと判断して、俺に守ってもらうつもりで突っ込んでくるだろう。


 俺の無の領域は、俺だけに適応されるものでは無いのだ。その範囲全てに適応されるものなのである。


 多分“私も入れてよ”ぐらいのノリで突っ込んでくる。トンファーを携えながら。


「頭は良さそうだったし、かなり強い存在であるのも間違いない。あんな馬鹿げた能力を持った魔物はほぼ見かけたことがないしな。だが、同格やそれ以上の相手との戦闘経験や、魔術に対する対処の仕方を知らなかった。それがやつの敗因だ。エレノアでも割とあっさり勝てると思うよ」

「でしょうね。ジークは今回ある程度安全に行くために最初から仕掛けてなかったけど、本気でやってたら観音ちゃんだけで終わってたわよ」

「........(えへん。私達強いから)」


 エレノアに褒められ、鼻を高くする観音ちゃん。


 まぁ、最大出力は出してなかったし、最初から相手の様子を見ることもせずにやってたら一瞬だったろうな。


 手痛いカウンターとかを警戒して、初見の相手は様子見から入ることが多いけど。


 師匠に言われたのだ。


“初めて戦う相手ならばまず情報を引き出せ”と。


 相手に何もさせずに勝つやり方は合理的であるが、場合によってはとんでもない悪手になり得る。


 カウンターのすべを持っている相手や、完全な初見殺しの一撃を隠し持っているような相手もこの世界にはゴロゴロと溢れているので、しっかりと情報を得てから対策を立てて詰めていきましょうと言うのが師匠から教わったやり方だ。


 なお、その後“もちろんそれが悪手となることもあるが、逃げられる可能性は高い”とも言っていた。


 師匠は、俺達のような可愛い弟子ができる限り死なないように、安全な戦い方を教えてくれていたのだろう。


 事実、俺達もデモットに初めて戦う相手に突っ込むなと教えている。


 やはり師匠は俺達の基礎を大きく形作ってくれた人なんだな。骸骨だけど。


「さて、それじゃしばらくレベリングしますか。レベル400まで後少しだしな」

「あら、今回ので上がった訳では無いのね」

「上がるかと思ったら、そんなに現実は上手くいかないらしい。多分後1~2体倒せば行けるんじゃない?」

「そう。なら復活時間を調べながら、第七階層で暴れましょうかね」


 こうして、俺とエレノアは第八階層を後にする。


 なお、その後エレノアvsタルボサウルスの勝負が行われたのだが、エレノアが本物の隕石という物を見せてフルボッコにしていた。


 理不尽で押しつぶさされるタルボサウルスは、少しばかり可哀想であった。




 後書き。

 理不尽度って何だよ。

 書籍発売まであと六日‼︎ちょっとソワソワしちゃうね。

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