今時の子はイカれてる
偉大なる存在
弱点と言うよりは、改善した方がいい場所と言った方が正しいが、どちらにせよ今の俺達に足らないものが発覚したのは間違いない。
心理顕現による長時間の戦闘経験の不足。
寝ている時以外は基本狩りをするような俺とエレノアの生活(放置ゲーは除く)の中で、心理顕現を用いた持続的な戦闘の改善は早急に取りかかるべき内容であった。
「........すまない。私の聞き間違いかもしれないから、もう一度言って貰えないか?」
「寝ている間も心理顕現を使って戦闘ができるようにする為に、ちょっと暫くダンジョンに籠るね」
「........ごめんもう1回言って貰えるか?」
「寝ている間にも心理顕現を使って戦闘ができるようにする為に、ちょっと暫くダンジョンに籠るね」
「すまない。やはり私の耳は────」
「────聞き間違いじゃないわよウル。今から私とジークは、心理顕現を用いた長期戦闘を可能にするために訓練してくると言っているのよ」
心理顕現はあまりにも強大すぎる力である。
当たり前だが村の中で観音ちゃんを本気で出現させたことは無いし、出現させたとしてもミニ観音ちゃん程度しか出していない。
手の平サイズの観音ちゃんを自由に動かす訓練は沢山したからね。村の悪魔達も、観音ちゃんの姿は知っている。
ちなみに、最初の頃は寡黙だった観音ちゃんも今じゃ大分表情豊かになり、悪魔達からも“観音ちゃん”と呼ばれて親しまれていたりする。
観音ちゃんも可愛いからね。名前を呼ばれる度に手を振ってあげたりポーズをとったりと、ファンサービスもしっかりしているのでとても人気者なのだ。
が、本気で顕現させればこの村を破壊しかねない。
そもそも観音ちゃんのサイズは50mを超える巨大であり、その掌1つで村を消せるほどには大きいのだ。
エレノアと手合わせする時、エレノアは毎回空を見えげる事になるので“首が痛い”とクレームが入る程には大きいのである。
さすがに村での修行は無理だ。
となれば、ダンジョンに寝泊まりするしかない。
最近は転移と言う楽に移動できる手段を得たので、ダンジョンにお泊まりという機会はかなり減ってしまったがここに来てまたお泊まりが発生したという訳だ。
「ジーク、エレノア。心理顕現はそんな寝ている間にも使うものでは無いぞ?精神力が凄まじい勢いですり減るのだからな」
「その精神力を鍛えるための訓練でもあるよ。五時間ぐらい割と本気の心理顕現を使ってたら、疲れちゃったからさ。それを克服するためにやるんだし」
「そうね。五時間しか持たないのは問題よね。一撃ドカーンで終わるといえば終わるけど、私達は常に安定的で持続した力というのが必要なのよ」
「........そ、そうなのか」
何やら顔が真っ青なウル。
変なこと言ったか?持続的に戦えないのであれば、持続的に戦う修行をするのは当たり前だろうに。
「ま、そんなわけだから、暫く村を離れるよ。何かあったら天魔くんちゃんを置いていくから、あの子に話しかけてあげてね」
「デモットには既に話してあるわ。出来れば手合わせぐらいはしてあげて欲しいの。自分勝手な師匠でごめんねとは言ったのだけど、物分りが良すぎる弟子を持つと心が痛むわね」
「デモットも俺達がまだまだ道の途中であるのは理解しているしな。少しぐらい我儘を言って欲しい気持ちもあったけど........」
「師匠もこんな感じだったのかしらね?」
そして、今回はデモットと離れる事となった。
当たり前だが、デモットが心理顕現の世界に耐えられるわけが無い。
連れていくと間違いなく死ぬので、デモットには申し訳ないが1人での修行をお願いしておいた。
魔界に来てからなんやかんやずっと一緒にいたデモット。最初の頃のチンピラ悪魔はどこへやら、今となっては可愛い弟子となったデモットとも、少しのお別れである。
少し寂しそうにしながらも笑いながら“お二人が帰ってくるまでにはもっと強くなってみせます!!”と言っていたデモットに俺とエレノアが耐えられず、2人でデモットに抱きついたり撫で回したりしていた。
多分、弟子よりも師匠である俺達の方が離れるのが難しい。
困った弟子だ。師匠をこんなにも思ってくれる出来た弟子すぎて、もうマジ無理(語彙力)。
「じゃ、行ってくるよ。多分数ヶ月ぐらいで帰ってくるはずだから!!」
「それじゃ、暫く行ってくるわね」
「あ、あぁ。気をつけてな」
こうして俺達は、久々にしっかりとした修行に入るのであった。
心理顕現を用いた持続的な戦闘の強化。これが出来るようになれば、俺達はさらに強くなれるだろう。
【心理顕現の持続時間】
ウルを基準に言えば、最大出力で大体30分ほどが限界。現在ジークとエレノアは1時間程度、出力を抑えつつ戦えば5時間までは伸ばせる。
言っておくが、この時点で十分どころか割とおかしいレベルで心理顕現が使えている。ジークとエレノアの求めるものが高すぎるだけなのだ。
転移魔術によって村から姿を消したジークとエレノアを見送ったウル。
ウルはそんな2人な元気そうな姿を見て頭を抱えていた。
「心理顕現を使った持続的な戦闘を可能にするために修行する?何を言っているのかさっぱりだ。既に十分な顕現時間を確保しているだろう?」
心理顕現は相当な精神力を消費する。
魔力や体力とは違った魂の持つ力“精神力”。二人はそれを鍛えるためにダンジョンに修行に行くと言っているのだ。
精神力の事をウルは集中力と同じであると考えている。もちろん、多少異なる事はあるが、それでも似たようなものだと言えるだろう。
体力は走ればある程度身につく。筋力も同じく、鍛えればある程度強くなれる。
魔力も使って回復させることで、ある程度はその容量が大きくなるだろう。
精神力も同じことが言えるが、やはり限界はある。
集中力に例えれば分かりやすいだろうか。
集中力を鍛えるために、まずは5分だけ集中力を維持する。それができるようになれば10分20分と時間を伸ばす。
しかし、人間の集中力には必ず限界がある。
現代の研究では90分程が限界だと言われているのだ。
それを無理やり引き伸ばす。ジーク達のやろうとしていることは、明らかに限界を超える異次元の修行なのである。
集中力で例えたが、精神力も似たようなもの。やはり、限界は必ず訪れるし、ましてやそれを寝ながら使うことで引き伸ばすだなんて考えもしない。
寝ながら集中します!!などと言われても、多くの人は鼻で笑うだろう。ジークはそれをやろうとしているのだ。
「ノアが“ジークは特に頭のネジが外れた規格外であり、私たちのような凡人には理解できない”と言っていたが、間違いではないようだな。かつて多くの変人達を見てきたが、ここまで頭がぶっ飛んだやつは居なかった」
ジーク達の師を務めるノアが、誇らしげにジークの頭のぶっ飛び具合を話していたが、今になってようやくウルはそれを理解した。
常人ではできない発想と行動力。それが現在のジークの強さを示しているのだろう。
そして、その背中を追いかけるエレノアも、自然とジークと同じ領域に立つ。
ただ恋をしただけの乙女に、こんなことは出来ない。人生の全てを捧げる覚悟を持ってして、エレノアはジークと共に歩むことを選んだのだ。
どちらもイカれている。
ウルは人類大陸にいるであろうノアに向かって、こう呟くのであった。
「人類大陸に存在する今どきの子は、こんなにも頭がイカれているのか?だとしたら魔界よりも魔境だな。私は魔界に生まれてよかったよ」
と。
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