天魔くんちゃんは可愛い


 新たに創造した天魔くんちゃんは、馬鹿げたみたいに強かった。


 いや、強くなるように作ったのだから強くなくては困るのだが、想像以上の戦闘力と火力を持っていた。


 絶望級魔物の中でも強い部類に入るであろうあの伯爵級悪魔を、ここまで一方的にボコしているのだから。


 もう少し苦戦するかと思ったのだが、これ程までに強いとは。俺の作った魔術の中でも最高傑作である。


 そんな訳で、天魔くんちゃんの歓迎パーティーを開いた翌日。


 俺達は、人類大陸にある我が家で天魔くんちゃんとコミュニケーションを取っていた。


 自分が作った魔術とはいえど、自我が宿るこの魔術。性格をちゃんと把握しておかないと、いざと言う時にやらかす可能性も有り得るからな。


「ふふっ、天魔くんちゃんも可愛いわね。とっても愛らしいわ。ちゃんと頬っぺたもムニムニで、揉みごたえがあるもの」

「........(ふわぁぁぁぁ........エレノア姐様のお手て気持ちいい........)」


 そんな訳で、天魔くんちゃんを知ろうとコミュニケーションを取っているのだが、天魔くんちゃんはエレノアに甘やかされて蕩けきっていた。


 凄い。滅茶苦茶顔がだらしない。


 天魔くんちゃんに限った話では無いが、俺の作った意志のある魔術には幾つかの特徴がある。


 1つは、俺を第一として俺を優先すること。


 これは当たり前だ。俺の魔術なんだから、俺に従ってくれないと困る。


 偶にその場のノリで“ウェーイ”することはあっても、基本的にはどの魔術も戦闘時にならばちゃんと真面目に戦ってくれるのだ。


 そしてもうひとつの特徴が、エレノアに対してかなり懐いている事。


 多分、主人である俺の相棒だからなのだろう。この意志のある魔術は、エレノアに対して滅茶苦茶甘い。


 模擬戦をする時なんかはちゃんと戦うが、それ以外の時は割とエレノアの我儘やエレノアに甘えることが多いのである。


 特にメイドちゃんがエレノアに懐いているんだよな。一緒にお風呂とか入った時は、大抵エレノアをガン見して近くに寄っている。


 エレノアもメイドちゃんを妹のように可愛がるから、メイドちゃんちゃんは大喜びだ。


 真面目な雰囲気で我慢しているが、魔力で繋がっている俺には分かるぞ。メイドちゃんが内心狂喜乱舞して喜びまくっているのが。


 そして、天魔くんちゃんはどうかと言うと、見ての通りエレノアの事が大好きであった。


「完全にエレノアに飼い慣らされてるな。一応、俺の魔術なんだけど」

「メイドちゃんさんと同じ雰囲気を感じますね。ですが、メイドちゃんさんよりはなんというか........こう、理性があるように感じます」

「メイドちゃんはエレノア信者だからね。しょうがないね」

「いいんですか?それで。ジークさんの魔術なんですよね?」

「やるべき時にやってくれればそれでいいさ。それに、本人達が楽しいのが1番だろ?」

「そういうものなんですかね........」

「........(エレノア姐様!!つぎは頭を撫でてください!!)」

「ふふっ、仕方がないわね」


 頭をなでなでされて、大変ご満悦な天魔くんちゃん。


 言葉は出せないし、ジェスチャーもしてないが、魔力から天魔くんちゃんの歓喜が伝わってくる。


“ふぁぁぁぁぁぁ!!”って言う大歓喜が。


 メイドちゃんはあまり自分から甘える性格ではなかったが、天魔くんちゃんは積極的だな。悪魔くんの性格も混ざっているからか?真面目な時は天使ちゃんの雰囲気を感じて、ノリがいい時は悪魔君を感じるんだよね。


 俺はそう思いつつ、もう一体の天魔くんちゃんを召喚してみる。


 呼び出された天魔くんちゃんはぺこりと頭を下げると、俺の横にちょこんと座った。


「天魔くんちゃんはどっちが主体なんだ?」

「........(時と場合によります。私達が同時に出ることもあれば、私が出ることも彼が出ることもあるのです。ちなみに今は天使ですよ)」

「へぇ。性格を混ぜるとこんな感じになるんだな。ちなみに、あんな風に撫でて欲しかったりする?」

「........(当たり前です!!撫でてください!!さぁ!!今すぐに!!)」


 ちょっと面白半分で聞いたら、ガチな反応を返された。


 両手をバッと広げて、“何時でもどうぞ!!”と言わんばかりに自分を撫でて欲しい天魔くんちゃん。


 昔みたいに、あたふたしながらジェスチャーしていた天使ちゃんや堕天使くんが懐かしいよ。今となっては、立派に親に甘えることを覚えてしまったようだ。


 可愛いからいいんだけどね。


 俺は、今か今かと期待する天魔くんちゃんの胸の中に飛び込むと、そのまま抱きついて頭をなでなでしてやる。


 天魔くんちゃんは結構身長が大きいから、傍から見るとショタが甘やかすという極一部には需要しかない素晴らしい光景に見えるだろう。


「天魔くんちゃんよしよし」

「........(ふぁぁぁぁぁ!!最高!!主人のナデナデ最高!!)」


 俺に撫でられたことにより、天魔くんちゃんのテンションがおかしくなる。


 興奮しすぎだよ天魔くんちゃん。


 天使ちゃんの甘えたがりな性格と、悪魔くんや堕天使くんのノリの良い性格が合わさってしまった結果、限界オタクが誕生してしまったらしい。


 まぁ、やる時はちゃんとやってくれるから良いんだけど、今後が心配になるぞこれは。


 でも、可愛いからもっと甘やかしてしまう。


 残念なことに、俺は自分の手で生み出した魔術に愛着がとても湧いてしまうタイプなのだ。


「何を見せられてるんですかね。これ」

「........(そんなもんだよ。主人もエレノア姐様も、結構甘い人だからね)」

「あ、執事さん。おはようございます」

「........(おはようデモット。君も混ざりたいのかい?)」

「いやぁ、流石にあそこまで自分を捨てるのはちょっと........それに、俺には狼君がいますし」

「........(ハハハ!!そうだったね。主人達はもうしばらく帰ってこられそうにないし、デモットも狼くんを出して遊ぶといいよ。ご飯が出来たら呼ぶからね)」

「分かりました。ありがとうございます」


 魔術に抱きついて甘やかしまくる師匠の姿を見て呆れ果てるデモット。


 そりゃ、自分の尊敬する師匠がこんな頭のおかしな人だったら呆れるわな。


 しかし、俺もエレノアもそんなこと知ったこっちゃないのだ。


 俺達の師匠が言ってた。慣れろって。


 だからデモットも慣れてね。俺は特にサメちゃんやら鳥ちゃんを定期的に呼び出しては甘やかすけど、慣れるんだ。


 その度に毎回呆れた視線を送っても、意味が無いぞ。


「俺も遊ぼうかな。ジークさんの魔術があれほど凄いのは、もしかしたらこうしたコミュニケーションにあるかもしれないし」


 デモットはそう言うと、闇狼(自我アリ)を呼び出して地面に座り込む。


 呼び出された闇狼君は、デモットの足の上に乗るとそのまま丸まって“好きに撫でていいよ”と言わんばかりにモフモフの毛を見せつけていた。


「スゥーハァー。やっぱり闇狼くんは癒されるね。もっふもふで気持ちがいいや」

「........(それは良かった)」

「うんうん。君は俺の最初の友達だからね。やっぱり友人は心地がいいよ。あー可愛い。やっぱり闇狼君は可愛いなぁ」


 そう言いながら、モフモフを全力で堪能するデモット。


 途中からデモットの様子を見ていたのだが、完全に俺らの事は忘れて闇狼くんに熱中してしまっている。


 デモット、お前も人のことは言えないぞ。お前も立派な俺達の弟子だ。


 何せ、魔術相手にこれ程まで楽しくなってるんだからな。


 俺は、弟子が自分達に似てきていることを察しつつも朝食ができるまで天魔くんちゃんと遊ぶのであった。


 今日から狩りは君達に任せる。伯爵級悪魔以下の街は全部滅ぼしていいよ!!




 後書き。

 これにてこの章はおしまいです。いつも沢山のコメントありがとうございます。全部読んでるよ。

 というわけで、新キャラ天魔くんちゃんの登場でした。私の中でのイメージは、渾沌ゴアマガラの擬人化だったり。

 天魔くんちゃん可愛いやったー‼︎

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