簡易顕現
心理顕現は自分の世界の押し付け合いだ。
エレノアは炎の世界を押し付け、俺は虚無にして万物の世界を押し付ける。
対するウルは世界の流れを押し付けて対抗する。
それが心理顕現での戦い方。小手先の技術も必要だが、それ以上に力押しと能力相性が必要なのだとこの戦いで感じた。
悟りを得たばかりでまだ自分の力を分かっていない赤子と、力の使い方を熟知している熟練者とでは当たり前だか出力が違う。
いい感じに戦えてはいたが、やはりまだウルの喉元を食いちぎるのは遠かった。
しかし、勝てない訳じゃない。
以前ならばどう考えても勝てないと思ってしまっていたが、今なら“勝てる”と希望が見える。
それだけでも大きな進歩と言えるだろう。
ここからさらに強くなれると思うと、すげぇワクワクするな。
「........若者の力は凄まじいな。いや、才能があると言うべきか。私が初めてこの力を使った時、ここまでの制御と応用など出来なかった。あのノアが一切の疑いの余地もなく君達を褒めていた気持ちがよく分かる。正直、ここまで戦えるとは思ってなかったよ」
「そうか?個人的にはもっと上手くできたと反省しているけどな。ゴリ押しだけじゃなくて、もっと頭を使わなきゃいけなかった」
「そうね。制御に意識を持ってかれ過ぎたわ。もっと息をするかのように使えないと、実践では使えないわね」
「最低でも魔術と同等ぐらいまで使えるようにならないとな」
この力は確かに強い。並大抵の相手ならば、世界を顕現させるだけで簡単に勝ててしまうだろう。
しかし、自分と同等かそれ以上の相手になれば如実に練度の差が出てくる。
魔術にも言えることだが、自分たちよりも強い相手に対してどれだけ戦えるのかが重要なのだ。
雑魚を蹴散らせる力が欲しい訳じゃない。そんなのはおまけだ。
「ふむ。基本的に新たな力を手に入れた場合は自分の力を過信するものだが........ノアはいい教育をしている。あのバカにそんな常識が備わっているとはな」
「毎回伸びた鼻をへし折ってくれたからね。今でもそれには感謝しているよ」
「あの頃は頭では分かってたけど、全く警戒や対策をしてなかったものね」
「まぁ、対策のしようが無い部分もあったけどな........」
師匠に目をつけられた時点で割と詰んでた感はあったし。
心理顕現をも凌駕する力を持った化け物相手と、進化前レベル40前後で戦ってたって事だろ?
まだレベル1で魔王に挑んだ方が勝ち目がありそう。
そのぐらいには、格が違う。天変地異が起きて、天地がひっくり返り、神々がありとあらゆる加護を施してくれたとしても、多分覆せないぐらいには。
「それで、心理顕現はどうやって鍛えたらいいんだ?」
「方法は幾つかあるが、まず絶対にみにつけた方がいい技術を教えてやろう」
ウルはそう言うと、ありとあらゆるものが滅んだダンジョンの中をウロウロと歩き始める。
ウル、先生モードになると大学の教授みたいにウロウロと歩く癖があるよな。ちょっと可愛い。
「心理顕現は自らの世界をこの世界に顕現させる力と教えたな」
「そうだな。正確には魂の具現化と言った方が正しいと思うけど」
「そうね」
「しかしだ。私達の魂は私達の体の中にある。自らの中にある力を使えない道理は無いとは思わないか?」
「........?ごめん。よく分からない。もう少し噛み砕いて話して欲しいかも」
「簡単に言えば、この世界に具現化という手段を用いずとも魂の力はある程度引き出せるのではないか?という事だ。私で例えるならば、雨を振らさずとも世界の流れをある程度は操れるのではないか。と言えばわかるか?」
なるほど。要は、心理権限を簡易的にした力が使えないかということか。
人の魂に悟りは宿る。その悟りを毎回毎回具現化させていたら、魔力も精神も疲れていく。
できる限り消費を抑えて、力を行使できるんじゃないか。そういうことが言いたいのか。
「できるの?」
「結論から言えば、できる。私はその力を簡易顕現と呼んでいる。簡易的な顕現だから簡易顕現。単純だろう?」
ウルはそう言うと、スっと腕を動かして風を腕で弾いた。
すると、風は刃となり凄まじい速度で俺とエレノアと横を通り過ぎていく。
その風は、間違いなくウルの心理顕現の力を使って放たれたものだった。
「このように、自分の世界を出さずとも力を引き出す。これができるようになると心理顕現の練度も上がる。手合わせの時も何度か使っていたぞ」
「........あ、不意打ちした時の防御がこれか」
そりゃ攻撃が当たらなかったわけだ。こんな馬鹿げた力で受け流されてんだから。
と言うか、あの世界の中でウルに攻撃を普通に当ててた師匠がおかしい。
ウルの強さが浮き彫りになるにつれて、師匠のヤバさがよくわかる。
あの人、実はこの世界でもかなりバグってる人種なのでは?
「簡易顕現が使えるようになれば、次の段階に進めるってことね?」
「次の段階というか、次は自分の世界における必殺技とかを考えるぐらいしかやることは無いがな。心理顕現とはそれひとつが完成された力だ。後は自分なりに色々と試してみるといい。魔術とは違い、魂の在り方に答えはないからな」
ウルはそう言うと、急に演武を始める。
ゆらりと川の流れのように全身が動き、一つ一つの動作が流れとなって周囲の風を操り始める。
風は集められ、徐々に徐々に大きくなり、やがて天に昇る龍へと姿を変えた。
空気は目に見えないはずなのに、そこに龍がいるとハッキリとわかる。
これが心理顕現の極地。悟りを得たものが最終的に辿り着く、ひとつの終着点か。
「風龍竜巻」
風の龍はその巨大な体を巻き上げながら、竜巻へと姿を変える。
何も無いダンジョンの地面がえぐり取られ、竜巻が周囲のものを巻き込もうとしていく。
「すごいな........この領域に立つにはそれなりの時間が必要そうだ」
「悟りを開いてゴールではなく。悟りを開いてからがスタートなのね。これが、極地........」
心理顕現の極地を見て、俺とエレノアは自分達はようやくスタートラインに立ったのだと言うことを理解した。
悟りは終わりではなく始まり。俺たちはまだ、心理顕現のほんの僅かしか見ていない。
まだまだ先が遠く、奥が深い力。魔術、武術そして、心理顕現。
言うなれば、魂の武術“魂術”とも言える一つの術であった。
「簡易顕現でも、それなりに練習すればこのぐらいはできるようになる。やり方次第では魔術の方が効率がいいだろうが、実践で使える技も多く作れるだろう」
「魔術と並行して頑張るか。暫くはレベリングと簡易顕現の修行だな」
「ここからが、修行の始まりね。楽しくなってきたわ」
「ハッハッハ!!いい顔をするじゃないか。心理顕現はその者に合った戦い方を要求される。私が教えられることは多くは無いが、相談ぐらいならば聞いてあげよう。悩んだ時は遠慮せずに聞くといい。時には悩むことも必要だけどな」
ウルはそう言うと、パチンと指を鳴らして荒れ狂う竜巻を消し去る。
心理顕現の簡易版簡易顕現。
更には進化によって得た体の具合の確認や、魔術の研究。そして、いつものレベリング。
やることが増えたな。
先ずは簡易顕現をできるようにしよう。
「ちなみに、いい練習方法とかあったりする?」
「簡易顕現のか?それなら一つ私がやっていた方法があるぞ。限界まで小さくした心理顕現を使うんだ」
「小さく?」
「そう。できる限り最小限の世界を作り出して、それを維持し続ける。力を使う上で必要な技術が磨かれるから、簡易顕現の取得にも繋がるぞ」
ほぼ魔術圧縮........なんだ?最近の修行方法は小さくするのがトレンドなのか?
俺はそう思いながらも、素直にアドバイスを聞いて小さな世界を作ることから始めるのであった。
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