リベンジマッチ2


 心理顕現を得てから2度目となる戦闘。


 正直草食恐竜のダンジョンは蹂躙していただけだったので、真面目な戦闘はこれが初めてだ。


 今俺は、すごくワクワクしている。


 初めて放置ゲーに挑んだその日や、第七級魔術を作り出したその日と同じぐらい今の状況が楽しくて仕方がない。


 苦労して作った装備や武器の試し打ちや、新たなスキルを覚えた後の試し狩りと似たような感覚だ。


 苦労した分だけ、その後のお楽しみには期待が伸し掛る。


 まぁ、大抵の場合は“なんか違うな”感が強くてガッカリしてしまうのだが、今回はそんなことにはならないだろう。


「先ずは防御性能から見てやるとしよう。以前と全く同じ威力で、攻撃してやる。防いで見せろ」


 目が隠れているが、口元がとても楽しそうなウルは早速攻撃を仕掛けてくる。


 以前も俺たちに向かって使った、雨粒を弾く攻撃方法だ。


 これだけで防御魔術の大半は破壊され、何重にも防御を重ねなければ防ぐことすら出来なかった一撃。


 エレノアの雫や、俺の海すらもかき消した一撃は今の俺達に通用するのだろうか?


「ほれ」


 二本の指が、雨粒を弾いて凄まじい勢いで迫ってくる。


 以前ならば全力の防御魔術を張るか、攻撃が来るまでに避けなければ大きなダメージを受けていただろう。


 しかし、今はその場から動くことすらしない。


 本能的に分かっているのだ。動かずとも、この雨は俺達の驚異になり得ないと。


「今なら避けなくてもいいな」

「そうね。避けなくてもいいわね。その場に立っているだけでいいわ」


 迫り来る雨粒。俺は動かずその場にたっていると、ある一定の距離まで近づいた雨粒は消え去った。


 エレノアもそれは同じ。


 俺達の世界に入り込んだ時点で、脅威的な威力を誇った雨の弾丸はただの雨となってしまったのである。


「ほう?エレノアは自分の領域を持っているとは見た目からわかるが、ジークも持っているとは意外だ。だが、エレノアに比べて範囲が狭いな。その分、その後ろの像が強力だと言うのが分かるが」

「エレノアと比べないでくれよ。心理顕現を得る前から、炎の世界を魔術で作っていた火力バカと比べられたら、そりゃ劣るさ」

「ふふっ、それほどでもないわよ」


 いや、今のは別に褒めた訳じゃないんだけど。


 なんでちょっと誇らしげにしているんだエレノアは。


「エレノアの世界に雨が入った瞬間、雨粒が蒸発して消えた。これは見た目からもわかるが........ジーク、君も似たような現象が起きたな?何をした?」

「別に何も。ただ、一定以下の威力を持った攻撃は範囲に入った時点で無に帰るだけだよ」

「私と同じように、自動防御があるのね」

「まぁ、そんな感じなのか?」


 どちらかと言えば、アレに近いけどな。


 MMOとかのレベル差による絶対回避みたいな。


 一定のレベル以下の攻撃を無力化するボスとかいるじゃん。自動防御と言うか、そう言うシステムみたいな感じだと俺は思っている。


 俺を倒したいなら、その基準を超えた攻撃力を持ってからどうぞ。


 これで自己回復まで備えてたら完全なるクソキャラだな........あ、俺白魔術使えるから、回復出来ちゃうじゃん。


 俺、リアルのゲームにいたらプレイヤーからとんでもないほどのヘイトを買うクソキャラだ。


 多分アップデートで弱体化が入るやつだぞこれ。


「ふむ。エレノアは私との相性の問題があるだろうが、ジークの世界は相性とか関係なしに防御ができそうだな。利便性という面では、ジークの方が優れているかもしれん。私やエレノアよりもな」

「ジークは何時だって便利さや効率を求めるのよ。それがジークだもの。さて、次は私達の番ね。行くわよ」

「あぁ。来い」


 ゴウ!!


 次の瞬間、世界は炎に包まれた。


 雨が降る世界を押し返し、自分にとって有利な世界に塗り替えていく。


 空から落ちる雨粒は炎の世界に入り込むと蒸発し、気がつけば灼熱の大地が全てを焼き尽くす。


 エレノアの攻撃方法は、自分の世界を広げることらしいな。


 実にエレノアらしい攻撃方法。そして、馬鹿げた世界だ。


 俺は自分の世界に対して領域を持っているが、それを広げたりすることは出来ない。


 つまり、自分の周りに存在する無の世界を攻撃に使おう!!みたいなことは出来ないのだ。


 が、エレノアは世界そのものが攻撃手段。世界を広げることで、悉くを焼き払うのだ。


 燃やせば全部死ぬからみたいな思考をしているエレノアにピッタリではあるが、滅茶苦茶すぎる。


「これは........凄まじいな。見ているだけで暑くて仕方がない。そして、避けようがない」

「避けたければ、私の世界から逃げる事ね。でも、ウルはこの程度の攻撃何ともないのでしょう?」

「まぁ、な」


 ウルはそう言うと、手のひらに雨粒を溜めて地面に叩きつける。


 すると、今まで地面に溜まっていた雨が意志を持ったかのように動き出し、エレノアの世界の前に壁となって立ちはだかった。


 先程ならばエレノアの超火力によって雨は蒸発してしまうが、よく見るとウルの力によって熱が逃がされている。


 やっぱり進化してから目が良くなったな。前ならこの熱の流れも見えなかったはずだ。


 それにしても、すごいな。こんな方法でエレノアの一撃が止められるなんて。


「心理顕現はあくまでも魂に宿った世界を作り出すことだけ。使い方次第では、こんなことも出来る。世界ができたのであれば、後は使うもの次第でどんな矛にも盾にもなる。魔術と同じとまでは行かないが、それなりに自由な世界を作れるだろう。次の目標はこれを目指すといい」

「こんな時もお勉強だなんて、ウルは先生の役がよく似合ってるね。それじゃ、次は俺の番だな」


 俺はそう言うと、観音像が動き始める。


 無数の白と黒の手が、ウルの世界に侵入し雨粒たちを押しのけながらウルを捕まえようとものすごいスピードで襲いかかった。


 この攻撃に対して、ウルはエレノアの時と同じように防御。


 しかし、それらの防御は意味をなさず、観音像の手が触れた部分が消滅して真っ直ぐ突き進む。


「........ジーク、君の世界は割と理不尽だね?相当な力を用いらないと無理やり無力化されるのかい?」

「いやいや、こう見えても弱点はあるんだよ。エレノアみたいな絶対的な破壊力は無いし、他にもひとつ大きな問題点があるのさ」

「ほう。それはいいことを聞いたな。弱点なあるのか。とは言えど、今その弱点を探す暇もないし、無理やり守ってしまおう。君のソレは、一定以上の力に対してそこまで強くないだろうからね」


 ウルがそう言うと、さらに雨が強くなり始める。


 既に滝のように雨が降っていたというのに、ここから更に激しくなるのかよ。


 雨が激しすぎて、視界が全くないぞ。


「こう言うやり方はあまり好まないんだがな。力押しはあまり好きじゃない」


 ウルはそう言いながらも先程と同じように雨水をかきあつめて盾を作る。


 これも観音像が掻き消してくれるかと思ったが、どうやら観音像がかき消せる力の許容量を超えているらしく普通に雨の壁に阻まれた。


 うーん。こっちも出力を上げれば破れるだろうが、そうなればイタチごっこ。


 心理顕現の練度で言えば圧倒的に劣る俺の方が、かなり不利である。


 あくまでも手合わせだし、態々ジリ貧勝負なんてしたくない。ここは大人しく負けを認めるしか無さそうだ。


「強いなぁ。でも、それなりに戦えるようにはなってる。次はこの心理顕現の練度を上げることが目標かな」

「そうね。それとレベル上げや魔術研究も並行してやらないと。楽しくなってきたわね。やることが盛りだくさんよ」


 炎の中でニッと笑うエレノアは、その背景も相まって地獄の業火の中で笑う狂人のようにも見えるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る