我、万物の根源を悟ったもの也


 のんびりとした釣りを終え、5匹の川魚を釣り上げた俺達は貸してもらっている家に帰ってきていた。


 流石に川魚が恐竜の形をしているはずもなく、見たことがない魚ばかりだったが全部食べられそうである。


 せっかく釣りあげたのだから、食べないとね。命がもったいない。


 そんな訳でなんでも知っているデモットに毒が無いのかとかを聞きながら、魚を調理している訳だが、俺は少し焦りを感じていた。


 釣りをしている途中、エレノアは明らかに変わった。


 ほんの僅かな違いだが、それなりに長い時間ずっと一緒にいる俺からすれば大きな変化があったように見える。


 恐らくだが、自らの悟りを見つけたのだろう。


 その悟りが何なのかは知らないし、きっとエレノアから答えを聞いても俺の悟りが何なのかと言う助けにはならない。


 自分が悟りを得たからと言って、俺に言わないのはきっとエレノアなりの気遣いなのだろう。


 エレノアはちょっと頭のネジが緩んでいるが、基本的には優しからな。


 俺が焦ってしまうのを危惧したということだけは分かる。


 残念ながら、その仕草や態度で気づいてしまうが。


 何年一緒にいて、エレノアを見続けていると思ってるんだ。


「んー、焼けましたかね?」

「こっちの川魚は火が通りにくいな。人類大陸の川魚ならもう黒焦げになってるぞ」

「あはは。エレノアさんの炎で焼いてもらうべきでしたかね?」

「やめておけ。絶対に黒焦げになって炭を食う羽目になるぞ」


 フライパンに捌いた川魚を乗せ、焼き上がるのを待ちながら他の料理も作る俺とデモット。


 エレノアは家の掃除の最中であり、今は二階にいるのでここにはいない。


 家事の分担。エレノアはなんと素晴らしい相棒なのだろうか。


 いつもありがとね。


「なぁ、デモット。悟りってなんなんだろうな?」

「それは人によるんじゃないですか?お爺さんに読まされた本に書いてありましたけど、悟りとか真理というのは結局は自分にしか答えは出せないとありましたよ」

「その本普通に読みたいわ。そのお爺さんはほんと色々なことをデモットに教えたんだな」

「はい。おかげでこうして生きてますからね。悪魔とのコミュニケーションや、話し方、1人での生き方など今考えれば、お爺さんは俺がこうして旅に出ることを知っていたかのようです」


 答えが分からない時、人はどうしても誰かに答えを聞こうとしてしまう。


 自分で考えても出せない答えは、人に聞くのが1番早いから。


 俺もそんな人の例に漏れず、藁にも縋る思いでデモットにすら答えを求めてしまった。


「自分を見つめ直すとか言われてもな。俺の根源なんて言われても分かんねぇよ」

「........?レベル上げなんじゃないですか?ずっとレベル上げをしているじゃないですか。えぇと、放置ゲーでしたっけ?悪魔くんさんを使って四六時中狩りをする。それがジークさんの根本では?」

「それは考えたよ。エレノアにも似たようなことを言われたしな。確かに俺は放置ゲーっていう自論をもって世界最強になろうとしている。でも、それは悟りじゃない。あくまでも人生の目標に過ぎないんだ」

「そもそも、そんなこと考えつく時点で凄いですけどね。普通に生きてたら、そんな考えなんて浮かびませんよ」


 放置ゲーを持ってして、世界最強を目指す。それが俺の始まりだ。


 だが、別にそれは目標であって悟りじゃない。ある意味悟ってはいるけど、俺の求める悟りではないだろう。


 ただ、世界に証明してみたいだけ。せっかく異世界に来たのだから、やれるだけやってみようという感じなのだ。


「でも、それが根源であることには違いないんですし、もっと掘り下げたらどうですか?ほら、例えば放置ゲーとは何かみたいな」

「放置ゲーは放置ゲーだろ。レベルを上げるための手段に過ぎないさ。デモットもやってみたらわかるぞ。途中から狩りをしていることを忘れる。別のことができるから、それが悪いとは言わないんだけどな。レベルが上がった時とかふとした時に、そういえば狩りをしてたけどどうかなって思い出すぐらいだ」


 放置ゲーって、基本的に放置がメインだからあまりやることがない。


 もちろん、装備の強化やステージ攻略はあるけど大部分は放置によってゲームが進行する。


 最悪、最低限のログインだけしていればそれなりに強くなれるのだ。


 それ以外の時間は基本そのゲームのことなんて忘れてほかのことをやる。


 要は、1種の虚無。何も無いだ。寝ている時間とかそれこそ何も無いしな。何も考えず、ただ眠るだけ。


 その中でもレベリングができるのが魅力である。


「放置ゲーって術者がやることはあまり無いんですね」

「無いな。だって放置だし。やることが沢山あったらそれは放置とは呼べないだろ?」

「たしかに。精々、魔術の強化と狩場の選定ぐらいですか」

「そうだな........あっ」


 そう。放置ゲーって途中からあまりやることが無いのだ。


 それでもやり続けるから意味がある。


 虚無の中を彷徨う。ある意味放置ゲーとは無の延長線上にあるのかもしれない。


 ソロで放置ゲーやってると虚無感に襲われるからな。俺がやっていたゲームでは偶然仲良くなれた人たちが居たから続いていたが、義務感でやっていた放置ゲーはまじで虚無しか残らなかった。


 MMOのソロレベリングも同じだろう。


 パーティーでやるレベリングはともかく、ソロレベリングは虚無しかない。


 延々に湧き出る中ボスを倒し続けレベルを上げ、適正レベルを超えたら次の狩場に行く。


 作業が好きな人からすれば楽しいかもしれないが、ほとんどの人からすればただの虚無。


 そして、人々は必ずその虚無感を感じる時がある。途端に“俺、何やってんだろ”と感じる時が。


 そしてそのゲームを引退してしまう。ソロゲーマーのあるあるだ。


 特にレベリングが重要なゲームほど、虚無は最大の敵となる。


 だから、一緒に出来る友達や仲間がいるんだよな。俺もエレノアが居なかったら、どこかで心が折れていたかもしれない。


 なんだ。俺は早い時から気付いていたじゃないか。レベリングは虚無。放置ゲーも虚無。


 結局、自分が強くなる瞬間が楽しいだけ。誰かとゲームするのが楽しだけ。


 それだけなのだ。それ以外の時間は常に虚無なのだ。楽しい時間も多少はあれど、どこかで絶対無に行き着く。


 それは全てに言えること。生物も星も宇宙も、いつかは無に行き着き万物の根源となるのだ。


 無から始まり無で終わる。それが世界の真理也。


「........ジークさん」

「デモット。俺分かったわ。レベリングって虚無だよな。モチベーションとか無くなったあとのレベリングとか、苦痛以外の何物でもない」

「急にどうしたんですか?」

「放置ゲーって、その虚無感をできる限り無くしたやり方なんだよ。他の事で満たすから。それでもどこかでふと感じるんだ。虚無感を。そしてそれは全てに通じる。万物の根源は無に行き着く。何も無いところから世界が生まれたようにな」

「........???」


 何も無いところから世界が生まれたことを知らないデモットは首を傾げるが、俺はそれでもデモットに感謝したい。


 デモット、お前の言葉が俺に悟りを開かせてくれたぞ。


 俺は満面の笑みでデモットに抱きつくと、その頭を何度も撫で回した。


 俺の身長が小さすぎて、デモットの体がくの字になっているけど気にしない。


「ありがとうデモット。お前は最高の弟子だよ!!」

「え、えっとよく分かんないけど、お役に立てたなら良かったです」


 我、万物の根源を悟ったもの也。


 全ては無に通じ、全ての創世は無から始まる。


 それは、俺の魂に虚無が宿った瞬間であった。





後書き。

ゲームやっていると必ずと言っていいほど訪れる虚無期間。

私もその虚無に耐えられずやめたゲームが多いなぁ。みんなはあるかな?

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