我、炎の真髄を悟ったもの也


 ウルに偶には観光でもしたらどうだと言われ、俺とエレノアは村をフラフラと歩いていた。


 この村に来てから約一ヶ月。多くの悪魔達を教え、自分の悟りを探す日々。


 レベリングをしているからと言って、悟りが開ける訳では無いとは思っていたがなんの進捗もないのがもどかしいよ。


「あら、ここはもう芽が出てきているのね。植えたのはつい1週間前だと言うのに」

「魔界の植物は随分と生命力溢れているな。そうでもなければ生き残れないのかもしれんが」

「残念ね。その生命力があだとなって、悪魔たちの食料になるだなんて。何度も収穫できるから、食料としてはかなり優秀と言っていたのを思い出すわ」


 つい先週植えたばかりの種が芽吹き、青々とした若葉が土から顔を出す。


 俺達が手伝った畑だったので、思っていたよりもその光景に感動しているよ。


 こういう畑仕事や田植えの経験なんて、小学生低学年ぐらいまでしかやらないからな。


 懐かしいなぁ。ミニトマトを植えて育てたのが。


 当時の俺は毎日水をあげるとかそう言うのができないタイプの人間だったから、思いっきり枯らしてたけど。


 今思えば、なんともったいないことをしてしまったのだろうか。親の金で買ったミニトマトをろくに育てず、金をドブに捨てたのだ。


 子供の頃はお金の大切さをあまり理解していない時期。アルバイトを初めてようやく、金を稼ぐ大変さを理解する。


 そして、大人になって自分の過ちに気がつくのだ。後悔先に立たずと言った先人は、人の本質をよく分かっている。


「確か、豆ができるんだよな。それを乾燥させて食べてもいいし茹でて塩をかけてもいい。粉状にして焼くこともあるって言ってたっけ?」

「基本は肉のちょっとした味変の為に使われるって言ってたわね。後、肉の量のかさ増しだったかしら?ウルやこの村の中では戦える方の悪魔達が毎日肉を取ってきてくれるらしいけど、それでも全ては賄えないらしいわ」

「そうえばそんなことも言ってたな。俺の影の中にある在庫をあげようかと思ったら“村がそれに頼る可能性があるから断る”って言われたよ。ウルは厳しいな。間違っては無いけど」

「そうね。私達がここに永住するならともかく、いつの日か旅立つ時が来るわ。それを見越しての断りだったんでしょうね」


 魔界の攻略が終われば、俺とエレノアはまたどこか別の狩場に行くだろう。


 当面の目標は王の討伐。


 ウル曰く、“殺さないと面倒になるから確実に殺せ”との事だったので、討伐目標として掲げている。


 先が長そうだけどな。


 本気のウルと師匠を相手にしてもなお、痛み分けで終われるだけの実力を兼ね備えているとなると今の俺たちでは到底歯が立たない。


 多分逃げることすらも難しいだろう。


 だって、あのチートキャラですらもう少し自重するだろみたいな強さをしている2人が本気で殺しに行って殺せないんだぞ?


 今の俺達がどんなに頑張っても殺せる気がしない。


 さらなるステージへと向かうために心理顕現を獲得したいわけなのだが........何も見つからない。


 こう言う哲学的な考えは苦手だ。


 自分とは生きるとは悟りとは。グルグルと思考が回り、結局のところ答えが出ないのだ。


 そりゃ師匠も諦めるよ。師匠はこう言う小難しいことを考えるのが好きじゃないからな。


 あの人は頭はいいが、単純明快な物事を好む傾向にあるし。


 そして、俺もどちらかと言えば師匠側。あぁ、着々と師匠への道が開かれていく。


「ふふっ、大きな街で買い物をしたり観光するのも悪くないけど、こうして何も無いほのぼのとした村でのんびりするのも悪くないわね」

「そうだな。まぁ、一人だと絶対に飽きるけどな。エレノアがいてくれて良かったよ」

「たとえ死したとしても私の居場所はジークの隣よ。もう六年以上も相棒をしているもの。ジークの隣じゃないと落ち着かないわ」

「そりゃ頼もしいな。これからも頼んだぜ相棒」


 俺とエレノアはそう言いつつ、新たな芽が出た畑を後にする。


 これ、完全に田舎デートだな。近くに川もあるし、釣りでもするか。


 釣竿、持ってないけど。




貴方の色は何色?カラーウォッチング

 ナレの持つスキル。その者の色を見ることができ、直観的な印象を感じることが出来る。

 この“色”は1種の魂の形であり、アン婆さん(ジークの父方の祖母)の持つスキルと似た性質がある。

 魂の中を詳しく見られない代わりに、命の危険がない。ちなみに、ナレちゃんが師匠を見たら大泣する。




 エレノアにとって、ジークとは人生そのものだ。


 復讐心が消えることは無いが、今となっては想い人の隣に立つことだけを考えている。


 それでも、最低限の復讐心が残っている辺り、エレノアの執念は凄まじいが。


「おぉ!!これで釣りができるな!!」

「魔術で釣竿すら作るなんて........ジークは相変わらずね」

「やる?」

「もちろん」


 即席の魔術で釣竿を作り出し、目をキラキラと輝かせながら釣りを始めるジークの横に座りエレノアも魔術で釣竿を作る。


 そして、のんびりとした時間の中で釣りを始めた。


「結局、悟りってなんなんだろうな?」

「さぁ?私も分からないわ。結局のところ、自分で悟ってようやく実感するんじゃないかしら?」

「悟りを知りたいのに、悟ってからじゃないと答えが分からないのか。最悪だな」

「全くね」


 ジークと話していると心が暖かい。初めてであった時は生意気で変わった少年だと思っていたが、今となってはこの声がなければ自分は生きていけない自信がある。


 エレノアは自分が思っている以上にジークに依存しているのだ。


 エレノアにとってこの世界はジークが全てであり、それ以外はハッキリ言ってオマケ程度である。


 ジークが関わった人たちが世界。それ以外は、そこら辺の石ころにも劣る。


「自分を見つめ直すか。俺はなんなんだろうな?」

「頭のイカれたレベリング中毒者でしょう?それ以外に何があるのよ」

「酷くねぇか?」

「事実よ。そして私は、そんなイカれた中毒者に魅了された哀れな仔羊よ。きっと、被害者として裁判を起こしたら勝てるわ」

「んな無茶苦茶な話があってたまるか」


 何気ない会話の中で、エレノアは自分は何なのかと考える。


 ジークの相棒にして未だに復讐を願う。


 それがエレノアだ。


 復讐の炎に突き動かされ、いつしかそれは恋の炎に変わっていた。


「あっ........」


 そして、エレノアは気がつく。愛も憎悪も燃えるように熱く、そして全ては炎によって集約されると。


 つまり、炎とは原動力なのだ。ジークはレベリングという炎を灯し続け、自分は恋と復讐に炎を燃やす。


 デモットは強くなる為に炎を灯し、悪魔達はその日を生きるための炎を心の中に持っている。


 その炎が無くなれば、彼らはきっと死ぬだろう。生命としての死ではなく、心を持つ生き物としての死。


 炎とは、何かを動かす原動力。燃え盛る炎の中、人は今日を生きるのだ。


 そして、エレノアの炎は愛と憎悪。いまだ願う精霊樹の滅却と祖父母の死。


 そしてそれをも上回る依存的な愛。


「どうした?」

「ふふっ、ふふふっ、なんでもないわ。ただ、食いついた魚がどんな姿なのか想像したらちょっとね。ほら、魔界の魔物みたいな姿の魚が掛かったらと思うと笑えてこない?」

「ハハッ!!確かに笑えるな。というか、ちょっと食いたくない」


 エレノアは自分の悟りを理解したが、それをジークに伝えることは無かった。


 きっと焦ってしまうから。相棒はただそこにいるだけでいい。必要になれば、助けてあげるだけでいいのだ。


 我、炎の真髄を悟ったもの也。


 エレノアの魂に、真の炎が灯った瞬間であった。

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