炎の魔女vs準男爵級悪魔


 エルフの国アークヴ。世界樹が守護するその国中心地アークから少し離れた場所で、リエリーは眠たげな眼を擦りながら目の前の敵を見つめる。


 リエリーは年齢こそジーク達よりも高いが、中身は子供とほぼ変わらない。


 純粋で素直。それでいながら、周囲への被害をまるで考えないのがリエリーである。


 そして、リエリーは寝るのが早い。早く寝て、早く起きる。正しく、子供の生活リズムであった。


 が、そんな彼女もオリハルコン級冒険者。


 眠りを妨げるほどに大きく邪悪な気配がしたとなれば、目を覚ましてその場所へと向かうのである。


「ふぁー。眠いぞー」

「あら?随分と可愛らしい子供ね。迷子かしら?私が送ってあげてもいいわよ」

「それだけの殺気を出しながら、どの口が言っているんだー?素直に言えばいいだろうに。“私は悪魔です”とな」

「あら、残念バレていたのね」


 2本の角に背中に生えた尖った翼。幾ら寝ぼけていようとも、その姿を見ればリエリーも相手の正体などわかってしまう。


 その身から溢れ出る殺気は、対話をする気もなし。


 リエリーは早く家に帰ってシャーリーの待っているベッドに行きたかったが、ここで戻ってしまえば多くの人が死んでしまうと理解していた。


「ふぁー」

「私を前に欠伸をするなんて、随分と舐めた態度をとるじゃない。悪魔と知った上での態度となると、私を舐めすぎじゃなくて?」

「舐めてはないな。だが、眠い。人は生理現象には勝てないのだー。分かるだろう?」

「それを舐めていると言っているのよ。生理現象を押し潰してでも、私とまともに戦おうとする気がない時点で────」


 パチン。ドゴォォォォォン!!


 早く帰って寝たいリエリーは、悪魔の長ったらしい話を聞く気もなく指を鳴らして魔術を行使する。


 初手、爆撃魔術。この一撃で周囲の草木は吹き飛び、土はえぐれて跡が残る。


「ちょ、まだ話してる途中で────」

「燃えろー」


 僅かに傷ついた悪魔が砂埃を振り払い、リエリーに文句を言おうとすると同時に、リエリーは炎魔術を行使。


 暗闇を照らす炎の渦が巻き上がり、悪魔を燃やしていく。


「追加でもうひとつ」


 リエリーは更に燃え盛る炎の中に、炎を追加する。


 悪魔がまだ元気に炎の中で動いている気配を察知すると、炎魔術で拘束し続けてとにかく相手に行動を許さなかった。


 その姿は正しく“炎の魔女”。


 エレノアが炎魔術を得意とし、ありとあらゆる物を焼き尽くしてしまうため最近はリエリー自身も忘れがちだが、彼女は炎魔術の天才なのである。


「んー、眩しいなー。夜中にこんなに明るい光を出すのは非常識だぞー?」

「だ!!れ!!が!!非常識なのよ!!あなたが燃やしているだけじゃない!!」

「んー?そうだったかー?」

「このクソガキゃ、人の話を聞くのは常識でしょうが!!貴方のような非常識に言われたかないわよ!!寝ぼけてないでサッサと目を覚ましなさい!!」


 リエリーの自分勝手すぎる発言に対して、ブチ切れた悪魔は水の弾丸を放つ。


 水の弾丸は自由自在に空を飛び回り、全方位からリエリーに襲いかかった。


「ふぁー」


 が、リエリーは欠伸をしながらこれを防御。


 全方位を守れる防御炎魔術を展開すると、水の弾丸を蒸発させる。


 そして、反撃とばかりに炎魔術を連発した。


 そこに戦術というものは存在しない。単純な物量によるゴリ押しであり、とにかく攻撃をしまくって相手に防御を強要させる。


「........くっ!!この私が撃ち合いで押されるなんて!!」

「んー、その水、魔術じゃなさそうだなー。魔力自体に属性が宿っている感じかー?悪魔も中々に面白い生態をしているんだなー」


 リエリーの言う通りである。


 悪魔は人族とは違い、魔力そのものに属性が宿る。


 その属性の種類、数は個体差によって変わるが、何らかの属性を持って生まれるのだ。


 魔術と異なる点は、魔法陣を介する必要がなくまた魔力の消費も抑えられること。


 そこだけ聞けばかなり強く見えるが、もちろん欠点も存在する。


 それは、魔術のような多様性を得ることが出来ないという事。


 適正こそあれど、魔術は様々な可能性を秘めている。理論上の話だけで言えば、魔術は世界を作ることすら可能なのだ。


 しかし、魔力に属性が宿るとそれが出来ない。


「んー、相性が悪いなー。炎魔術を得意とする私と、水を操る悪魔。私は他属性の魔術の威力はさほどないから、このままだと殺しきれなさそうだなー」


 一方的な戦いではあるものの、決め手に欠ける。リエリーはどうしても早く寝たかったので、“仕方がない”と小さく呟くと自分の中では禁じ手である精霊の力を頼った。


 精霊はあくまでも友人。しかし、どうしても眠いのならば仕方が無い。


「すまない精霊さん達。私に力を貸してくれ。それと、眠いから家まで送って欲しいかも」

「──────」


 リエリーの戦いを見ていた精霊達は苦笑いを浮かべると、リエリーの力になるべくその力を行使する。


 精霊の力は魔術の比ではない。


 精霊にとって、自然を司る力の行使は自分の体を操るのと同義であり、訓練をしてようやく現象を起こせる魔術とは訳が違うのだ。


 自分の手足とゲームの中のキャラクター操作。どちらが自然に、より簡単に、そして効率的に動かせるかと言われらば圧倒的に前者である。


 精霊術と魔術には、それほどまでの違いがあるのだ。


「─────!!」

「「「「「──────!!」」」」」


 リエリーは精霊に好かれている。


 平和を望む精霊達をリエリーは単なる友人としてしか見ておらず、基本的に戦いには使わない。


 話し相手となるだけであり、ただただ楽しい時間を過ごすだけの隣人なのだ。


 だが、どうしようもない場面ではその友人の力を借りる。


 友達が困っていたら、助けを求めていたら、快く力を貸す。


 人と精霊が本来あるべき姿を、リエリーは体現しているのだ。


「ガッ........!!」

「─────!!」


 精霊達の猛攻により、悪魔の防御が破られる。幾ら準男爵級悪魔とは言えど、これだけ豊富な属性の攻撃を食らってしまえばあっという間に防御が破られてしまって当然と言えるだろう。


 そして、精霊達は友人の為ならば容赦がない。


 悪魔が命乞いをする暇も与えず、徹底的に叩き潰すのだ。


 悪魔は何とか抵抗を試みるが、そもそも精霊の姿が見えないのでは抵抗のしようも無い。


 見えない位置から急に現れる攻撃に対処出来ず、そして術者は既に精霊たちに運ばれているとなれば勝ち目はなかった。


「........」


 塵となって消えていく悪魔。


 その姿を見届けた精霊達がリエリーの元に戻ると、リエリーは小さな寝息を立てながら風に乗って運ばれていた。


「すぴー」

「──────?」

「──────」


 終わったことを伝えようかと悩む精霊と、こんなにも安らかに眠っている友人を起こすのはダメだよと口に手を当てて首を横に振る精霊。


 本音を言えば、精霊たちはリエリーに褒めて欲しいのだが、安らかに眠るリエリーを叩き起してでも褒められたいと思う精霊は誰一人としていなかった。


 その人夜。


 リエリーの家には多くの精霊たちが集まり、シャーリーの胸の中で幸せそうに眠るリエリーを見つめて和む精霊が多かったとか。


 その中には、土の上位精霊の姿すらあったと言われている。




【魂剣】

 剣聖の持つスキル。このスキルだけでは行使することが出来ず、己にとって剣は何たるか。そして、その道はどのようなものなのかを悟らなければ使うことが出来ない。

 が、使用条件が厳しい代わりに威力は絶大。剣聖は不完全ながらも聖剣の具現化に成功している(不完全なため反動が絶大。一度使うと暫くまともに戦えなくなるレベル)。



 後書き。

 リエリー、雑に勝つ。眠いからね。仕方がないね。

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