私を殺したい奴からかかって来い‼︎


 時は少し遡り、ジークとエレノアが混沌たる帝カオスエンペラーの殲滅に乗り出し始めていた頃。


 元混沌たる帝カオスエンペラー幹部“妖蟲”であるリーシャと頭のイカれたオリハルコン級冒険者の生徒アーランは、混沌たる帝の本拠地へと続く道を歩いていた。


「なぁ、本当に私たちだけ潜入してよかったのか?今からでも外に出たヤツらを殲滅した方がいいんじゃないか?」

「大丈夫だよリーシャ。外には先生達が居るから。最初の爆発で犠牲者は出てしまってるだろうけど、先生達が動いたからにはそれ以上の被害はほぼ出ないよ。僕達は僕達のやるべきことをやろう」


 先手を取るはずだったのだが、逆に先手を取られてしまった。


 恐らく、帝国軍と冒険者ギルドが攻め込んでくる日を把握し、先に攻撃を仕掛けたのだろう。


 やるならもっとしっかりと情報を封鎖しろとリーシャは思いつつ、できる限り急いで道を進んでいく。


 何年も歩いてきた道だ。かなり広く、未だに行ったことがない場所もあるが基本は迷うことは無い。


 サクサクと歩いていくと、黒いローブに身を包んだ集団を発見する。


 彼らもリーシャ達に気づき、声を上げようとした。


「誰だきさ─────」

「─────黙ってろ」


 声を上げる前に素早く距離を詰めたリーシャは、ミスリルのナイフを一人の首元に突き刺す。


 あまりにもスムーズ過ぎた動きに、一瞬呆気にとられた混沌たる帝の構成員たちは出遅れてしまった。


「悪いけど、君達は殺すよ」


 リーシャに視線が集まったその瞬間、アーランは全員の死角に素早く入り込むと鉄糸を展開して全員の首に括り付ける。


 所詮は細い鉄の糸。軽く首に括り付けるだけでは相手を殺すことは出来ない。


 しかし、アーランは修行によってそれを可能にしていたのだ。


 クンと、鉄糸を引っ張ると、混沌たる帝の構成員たちの首が豆腐のように切れていく。


 精密な魔力操作による切れ味上昇。アーランは武器に魔力を付与する技術に関しては、ジークやエレノアよりも上を行っていた。


 残念ながら、何かを媒介とせずに魔力を操作する技術はあまり上手くないが。


 ゴトリと、落ちる首。


 10名近く居た構成員達は、声を上げる間もなく始末される。


「........こいつらは“薬屋”の部下だな。となると、外で暴れてるのは“薬屋”の部下じゃない。誰が暴れてるんだ?あの中で一番ジャンケンが強いのは“鞭”辺りだが........」

「え、ジャンケン?」

「そうだ。私やハゲはともかく、人間として何かが欠落した社会不適合者達が力を合わせられると思うか?普通は無理だ。混沌たる帝カオスエンペラーは、こう言う全面戦争をやったりする時、それぞれの部隊がバラバラに動くんだよ」

「なんで組織なんて作ってるの........」

「恐らく、今回は外に出る順番を決めている。喜べアーラン。この拠点にはまだまだ沢山の敵が待っていてくれるぞ」

「わぁ、全く嬉しくない歓迎だね。誕生日ケーキを用意してくれている訳でもないんでしょ?心の底から拒否したい気分だよ。ま、戦うけど」


 そう言いながら、血を滴らせる鉄糸を一度大きく振って血を飛ばすアーラン。


 その目は戦う覚悟を決めた戦士そのものであり、リーシャはその目が好きだった。


(........かっこいい)


 出来れば持っとアーランを見ていたいが、あまり悠長にし過ぎていると帝国軍や冒険者ギルドの面々が突撃してきてしまう。


 出来れば自分の手で幹部たちと決着を付けたかったリーシャは、アーランを連れて先を急いだ。


 大体どの辺に幹部がいるのかは分かっている。


 その場所に行く途中で何度か構成員と戦う事があったものの、かなり順調に地下へ地下へと降りて行った。


 そして、遂に裏切り者は過去の仲間たちと邂逅する。


 何も無い広々とした空間。ここは、実験場であり訓練場だ。


 幹部達は戦いがある前はここで軽く体を動かし、自分達のコンディションを確かめている。


 今回もそれは同じ。


 カツカツと歩いてきたリーシャを見て、幹部達は動きを止めた。


「これはこれは、誰かと思えば裏切り者さんじゃないですか。大人しく逃げ惑えば良いものを、こんな所まで態々御足労願うだなんて........“妖蟲”さん、もしかして自殺願望者ですか?」

「ほざけ。“薔薇”。普段通りに話せよ。その作った話し方は虫唾が走る」

「........酷いねぇ?ほら、ちょっとそれっぽい雰囲気が欲しいじゃん」

「今から死ぬ奴らに、そんな雰囲気は必要か?」

「........残念だよ“妖蟲”。俺は割とお前の事を気に入っていたんだがな」

「久しぶりだな“堅牢”。相変わらずストレスで禿げてんのか。転職をおすすめするよ。お前はこの組織でなくともやって行けるだけの社会性がある」

「毎回言うけど、俺のこの頭はハゲじゃなくてスキンヘッドなの!!ファッションなんだよ!!」


 頭の事をいじられ、少しムキになりながら声を荒らげる“堅牢”。


 変わり者同士何かと話すことが多かった彼は、少しだけ寂しそうな顔をしていた。


「本当に裏切ったんだな」

「裏切ったと言うよりは、普通に辞めたと言って欲しいな。私はお前らの情報を売ったつもりは無い。だが、二度も喧嘩を売られたら買うしかないだろう?放っておいてくれれば、私も何もしなかった」

「ケヒヒヒヒっ!!偉大なるお方の元をさる時点で、貴様は裏切り者なのだ!!裏切り者には死を!!それが混沌たる帝カオスエンペラーの掟なのだ!!」

「相変わらず気持ちの悪い笑い方だ“狂信者”。この2年で更に気持ち悪くなったようだな。毎日鏡を見て笑う練習をした方がいいぞ。今のお前の顔は、ゴブリンよりも醜い」

「ケヒヒヒヒッ!!相変わらず口だけは達者だな!!その隣の男に股を開いた売女め!!偉大なるお方に変わって、我らが罰を下してやる!!」


 狂信者がそう言うと、部屋の空気が一気に重くなる。


 殺気と殺気のぶつかり合い。


 あまりに重く、あまりに棘のあるその空気の中では誰もが息苦しさを感じる。


「アーラン、手筈通りに頼む」

「分かってるよ。ここまで来て逃がすマネはしないさ。ところで、幹部達は全員集まってるの?」

「喜ばしいことに集まってるな。あの“発明家”ですらここに居るとは、ラッキーだ。あいつ、基本色々な部屋に閉じこもってるから探すのが大変だったんだよ」

「あの白衣を来ている丸メガネの人だね。如何にも研究家って感じだね」

「形から入るタイプだからな。今でもあの姿は似合わんと思うよ」


 そう言いながら、アーランはこの日の為に準備しておいた糸を出す。


 アーランが普段鉄糸を使っているのは、訓練のためだ。鉄は魔力の通りがあまり良くなく、操作も難しい。


 普段の戦闘で使うだけでも、かなりの訓練となる。


 しかし、本気を出す際は上級魔物である“ネットスパイダー”と呼ばれる蜘蛛の糸を使う。


 鉄やミスリルよりも柔らかく頑丈で魔力が通しやすいこの糸は、アーランが本気で戦う合図なのだ。


「この広さなら妖蟲のスキルも使える。油断して死ぬなんて真似は晒すなよ」

「油断出来るような相手でもないでしょう?とにかく、マジで行かせてもらうよ」

「ケヒヒ!!裏切り者には死を!!」

「おぉぉぉぉ?!この案とか使えそうだな!!む、これもいいか?いや、これも─────」

「おい、発明馬鹿。こういう時ぐらい空気を読んで格好つけろよ........」


 空気の読めない発明家に呆れつつも、“堅牢”は拳を構える。


 張り詰めた空気。


 その膨らんだ空気は、意外なも早く弾け飛ぶ。


「私を殺したい奴からかかって来い!!」

「昔のよしみだ!!楽に殺してやるよ!!」


 こうして、元幹部vs現幹部の戦いの火蓋が切って落とされたのである。

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