街の英雄
全自動魔王レベリングを終えた俺達は、冒険者ギルドを訪れていた。
魔王の存在を知ってからと言うもの、この街の雰囲気はかなりピリピリしている。
そりゃ、自分達の街の隣にある魔境に世界を征服しようと目論む魔王が居るのだから警戒の1つや二つするだろう。
しかも、その魔王が二体も存在しているとなれば、警戒も倍だ。
いくら穏やかな心持ちをしている紅茶の街の住人と言えど、この状況を楽観視するほどお気楽ではない。
この三週間近くは、魔境で夜を過ごしていたから分からなかったが、随分と人が集まってるな。
狩ったオーガやオークの死体は大体量産機にぶち込んでたので、街に戻る必要があまりなかったのである。
お金も最初の1週間でかなり稼いでたから、そこまで必要とは思わなかったしな。
「........!!天魔さんに炎魔さん!!生きてたんですね!!」
冒険者ギルドに足を踏み入れると、俺達に気づいたサリーさんが涙目ながら駆け寄ってくる。
三週間音沙汰なしだったのだ。人類最高峰とまで言われるオリハルコン級冒険者と言えど、魔王相手に死んでしまったのではないかと思われていたかもしれん。
毎回街に帰ってくると、“討伐まだ?”みたいな事を言われそうで気持ちよく狩りができないと思ったから帰らなかったのだが、判断を誤ったかもしれんな。
何らかの生存報告を入れておくぐらいはしておいた方が良かったかもしれん。
「ただいまサリーさん。“豚人の魔王”オークエンペラー並びに“鬼の魔王”オーガディザスターの討伐完了したよ」
「........はいっ!!お疲れ様でした!!」
「討伐証明の為に死体を持ってきたのだけれど、どこに置けばいいかしらね?あぁ、その前にギルドマスターに報告かしら?」
「その必要は無いよ。今来たからね」
俺たちの気配を感じとったのか、それとも偶々下へと降りてきていたのか。
相変わらずホストをやっていそうなギルドマスターは、ニコニコとしながらこちらへとやってくる。
魔王という驚異から開放されたのだ。街を守る責任者でもあるギルドマスターからすれば、これほど嬉しい報告もないのだろう。
「オリハルコン級冒険者が嘘をついているとは思えないけど、一応確認させてもらうよ。解体所に来てくれるかい?」
「もちろん。キッチリ首を用意してあるから心ゆくまで眺めればいいさ」
肩が軽くなったのが余程嬉しかったのか、ギルドマスターはルンルン気分で解体所へと向かう。
ここで、実は魔王を討伐していませんでしたとか嘘をついたらどうなるんだろう?と危ない好奇心が生まれるが、流石に怒られそうなので辞めておくことにした。
このジョークはシャレにならないだろうしね。
そんな訳で解体所へとやって来た俺達。魔王の姿を一目見ようと、かなり多くの野次馬がこちらを眺める中で、俺とエレノアは影の中から魔王の死体を取り出す。
死しても尚、その強さを肌身で感じ取ったのだろうか。
野次馬をしに来ていた冒険者達は一斉にザワ付き、ギルドマスターも冷や汗を流していた。
「........これが魔王。死体となっても凄まじい存在感だね。こんなのと戦おうとしていた自分が馬鹿に思えてくるよ」
「正直な話、そこまで強くなかったけどね。なんなら探す時間の方が長かったぐらいだし」
「そうね。魔王を探す方が手間に感じたわね。特にオークエンペラーは空からじゃ見つけられなかったし」
「お、おう。流石はオリハルコン級冒険者でありながら、あのグランドマスターが“問題ない”と言うだけのことはあるね。一応破滅級魔物なんだけど」
一昔前なら破滅級魔物を相手に戦おうなんて思わなかったよ。でも、今は違う。
人類の中でも相当上位に入るレベルと強さを持ち、その気になれば一撃で破滅級魔物を消滅させることだって出来るのだ。
第九級魔術の行使は威力とか、その後の魔力の余波がヤバすぎて中々使えないけど。
ダンジョン君ならきっと問題なく使えるだろうから、今から楽しみだなぁ。
魔術実験もし放題だから、師匠ですらなし得なかった第十級魔術の研究を進めるのもアリかもしれん。
そんなことを思っていると、ギルドマスターはあることに気づいて首を傾げる。
ちゃんと魔王のはずだが、何か問題でもあったのだろうか?
「なんでこの魔王達は手足がないんだ?しかも、綺麗に切り飛ばされたあと治療された様に見えるけど」
「あ、手足も欲しかったか?生け捕りする時に切り飛ばしちゃったからな........すまん」
「んん?ごめん。今、“生け捕り”って聞こえたんだけど」
「うん。生け捕りって言ったよ。ほら、魔王って配下の魔物を作れるじゃん?サラッと殺したら、勿体ないだろう?生け捕りにして、死ぬ寸前まで経験値は搾り取らなきゃ」
「「「「「「「........????」」」」」」」
シンと静まり返る冒険者とギルドマスター達。
あれ?何かおかしい事を言ったか?
魔王は経験値量産機。死ぬまで絞り取って、その役目を終えてから経験値を頂く。
何も可笑しいことは言ってないな!!
ギルドマスターは1度天を見上げ、小さく溜息を着く。
「ごめん、よく聞こえなかったからもう一度言ってくれるかい?魔王を生け捕りにした理由は?」
「配下の魔物を量産させて、効率よくレベル上げする為。お陰でこの街に来てから四つレベルが上がったぞ。いやー魔王様々だな。レベリングはダンジョンか魔王だわ。な?エレノア」
「そうね。魔王って便利よね。魔物を探さずとも簡単に魔物を量産してくれるから、探す時間を取られなくて済むわ」
「........人類の大敵である魔王をそんな扱い出来るのは君達だけだよ。グランドマスターから“頭がおかしい”とは聞いていたけど、ここまでぶっ飛んでるとは聞いてないよ」
先程のルンルン顔から、一気に老け込んだギルドマスター。
あー、そういえばオリハルコンゴーレムを討伐した時も剣聖に“頭がおかしい”とか言われたな。
でも、レベリングをするなら常識じゃないか?
“仲間を呼ぶ”のコマンドを持つモンスターが居るなら、それを利用して狩る方が効率がいいだろ。
もちろん、呼ばれる仲間も本体も雑魚すぎると話は違ってくるが。
昔動画で見たな。“仲間を呼ぶ”を永遠に使わせて一気にレベル99まで上げるやつ。
滅茶苦茶時間がかかっていたが、あれはあれで楽しそうであった。
「ちなみに、捕獲したのはいつ頃だい?」
「えーと、魔王の報告をした初日にオーガディザスターを捕まえて、その四日後辺りにオークエンペラーを捕まえたかな。そのあと、心をへし折って洗脳魔術を使って魔物を量産させてた」
「その魔物はちゃんと狩ったんだよね?」
「当たり前だろ?なんのために魔物を産ませたと思ってるんだ」
ギルドマスターは再び天を向いて頭を抱えると、今度は盛大に溜息をつく。
そして、呆れた目で俺達も見ながらも静かに頭を下げた。
「経緯はどうであれ、君たちのおかげてこの街は........いや、この国は救われた。後で偵察を出して魔境の確認もさせるが、ともかくありがとう」
「「「「「「「「ありがとうございます!!」」」」」」」」
ギルドマスターの礼の後に続いて、頭を下げる冒険者達。
俺とエレノアは自分の仕事をしただけなのだが、やはりこの街は優しくていい人ばかりだ。
「礼には及ばないよ。仕事だったし」
「そうね。それでも恩を感じるのであれば、ご飯のひとつでも奢ってくれればそれでいいわ」
ここでサラッと“飯を奢れ”と言えるエレノアに惚れてしまうよ。
いや、盛大に祭りをされるとかよりはマシか?
エレノアの事だから、ただ単純にご飯を食べたいだけな気もするが。
「よーし!!お前ら!!今日は私の奢りだ!!この街の、この国の英雄様をもてなしてやれ!!」
「「「「「「うをォォォォォォォ!!」」」」」」
こうして、二体の魔王の脅威は過ぎ去り、俺とエレノアはギルドマスターの懐が寒くなるまでご飯を食べては紅茶を飲んだ。
冒険者達も今日ばかりは俺たちの話が聞きたかったらしく、それはもう熱心に話しかけてきたものだ。
まぁ、それはいいのだが、“聖典に載せるので!!”って何の話?
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