祝福の裏で放置ゲー


 ジークとエレノアが、新たな生命の誕生を祝っていた頃。


 五大魔境“グレイ”ではいつもの如く天使達が狩りを続けていた。


 ジークのレベルも上がり、ダンジョンに放置している天使たちを除いてもこの場には11体の天使が存在している。


 彼らは日々魔物を狩り続けては、ジークに経験値を運んでいた。


「キシャー!!」

「........」


 上級魔物で溢れる五大魔境“グレイ”のとある洞窟。その中で鉱物を食べて暮らすアイアンスパイダー達は、自分達の縄張りに堂々と足を踏み入れた者達と相対する。


 薄暗い洞窟の中でも光り輝く白銀の天使。ジークの放置狩り専用魔術である“白き翼エンジェル”だ。


 何十もの上級魔物に囲まれているにも関わらず、その手を剣を携えて堂々と歩く姿は正しく神話に語られる存在。


 たとえ魔術で作られた存在とは言えど、その見た目と圧倒的な圧は本物である。


 アイアンスパイダー達は僅かに怯えながらも、自分達の縄張りを守ろうと天使に攻撃を仕掛ける。


 アイアンスパイダーは糸を吐き出すと、天使の身体を絡めとって身動きを取れなくさせた。


 相手がいかに強かろうとも、動けなければ何も出来ない。


 アイアンスパイダー達は次々と糸を吐くと、天使を糸で包み込み繭の様にする。


「キシャー」


“強そうなのは見た目だけかよ”


 そう言いたげなアイアンスパイダーは、鎮圧した天使を包んだ繭をぺしぺしと叩くと誇らしげに腕を振り上げる。


 アイアンスパイダーの糸はかなり燃えにくい。他の蜘蛛型魔物よりも厄介と言われるのは、糸への対策が単純に力任せでねじ切るしかないためだ。


 しかも、糸は鋭く鉄さえも切るほどに頑丈な為まず破られない。


 どこぞの頭のおかしな冒険者達のように、そもそも糸を吐かせないで一方的に勝つと言う理不尽極まりない戦い方をされなければ、アイアンスパイダーは上級魔物の中でも真ん中ぐらいの強さはあるのだ。


「キシャー、キシャ?」

「キシャーシャー」


 アイアンスパイダーは、愚かにも自分達の縄張りに足を踏み入れた天使をどう処理してやろうか話し合う。


 鉱物を好んで食べるアイアンスパイダーは、肉を食べることは滅多に無い。その為、基本的に溶岩に捕まえた獲物を捨てる事が多い。


 いつも通り溶岩に捨てる事に決めたアイアンスパイダー達。


 パキ


 彼らは、油断しきってきた。


 あまりにも簡単に天使が糸に囚われるものだから、相手の力を見誤っていたのだ。


 パキパキ........バキン!!


 甲高い音と共に天使は繭から羽化を果たす。


 傷一つ付いていない天使を見て、アイアンスパイダー達は僅かながら動揺した。


 そして、その隙を天使は見逃さない。


 機械的に放たれた第五級白魔術“聖なる槌ホーリージャッジガベル”。


 悪しき者達を浄化する聖なる光を携えた槌が、アイアンスパイダー達に裁きの鉄槌を下した。


「........」


 ガァァァァン!!


 と洞窟中を揺らす衝撃。あまり派手にやりすぎるなと主人ジークに言われているが、この程度は派手の内に入らない........あくまでも天使基準の話だが。


 今の一撃で数体のアイアンスパイダーが死亡。本来、第五級魔術一撃で死ぬほど上級魔物は弱くないのだが、天使は主人の魔力を借りて魔術を行使しているため火力が桁違いに高いのだ。


「キシャ?!」


 仲間達が一瞬にしてひき肉になったとこに驚くアイアンスパイダー。


 彼らも魔物とは言え、感情を持つ生き物。長らく一緒に過ごしてきた仲間が目の前で潰されたとなれば、動揺の一つも浮かべる。


「........(もう一度白魔術を放つ)」


 ドガァァァァン!!


 たが、そんな事は天使にとっては知ったことでは無い。


 彼らの役目は魔物を狩り続ける事。情も意識も持たない操り人形は、命令された事のみを遂行するのだ。


 再び放たれた第五級白魔術によって、アイアンスパイダーの群れは全滅。


 そして、この振動と爆音によって釣られてきたアイアンスパイダー達を発見した天使は一切の表情を変えず洞窟内の魔物達を殲滅していくのだった。



【グレイのでかい山】

 五大魔境グレイに聳えるでかい山。標高はなんと約22000mもあり、kmで言うと約22km程。富士山の約6倍、エベレストの約2.75倍もある。それだけ高ければもちろん空気も薄くなり、環境も過酷になるため魔物すら存在できない地となっている。なお、(この世界の)世界最高峰の山では無い。



 ハイグレイウルフの上位種であるキンググレイウルフ。その中でも特殊な個体であるボスは、仲間達が謎の勢力に殲滅させられていることに恐怖していた。


 ここ1ヶ月程前から、多くの仲間たちが死んでいる。


 これに関しては人間が犯人だと分かっているが、今回の襲撃者は姿形が全く見えないのだ。


「ガルゥ!!(どうなっているんだ!!)」

「ガルゥ........」


 家臣のハイグレイウルフに怒鳴りつけるものの、家臣は尻尾を下に垂らして首を横に振るしかない。


 姿形の見えぬ襲撃者。それに対抗するすべもなければ、そもそも捕捉する事すらできないのだ。


 どうしようも無い。


「ガル........ガルゥ(クソッ........フェニックスの赤子を手に入れるだけのはずなのに)」


 実はこのキンググレイウルフ、フェニックスの血を飲んで1000年近く生き続けている個体でもある。


 800年ほど前にこの地に子育てのために訪れたフェニックスが、運悪く竜種に襲われて流れた血を運良く飲んだのだ。


 そのフェニックスは死ぬこともなければ竜種も死ななかったのだが、永遠に近い生を手に入れたキンググレイウルフ(当時はハイグレイウルフ)はさらなる力を求めてフェニックスを探し求めた。


 幸い、この魔境はフェニックスが子育てするにはもってこいの立地であり、機会は何度かあった。


 しかし、強さという点ではフェニックスに劣るキンググレイウルフが成体のフェニックスと戦いを挑む訳にも行かない。


 永遠の命を手に入れたからと言って“不老不死”では無いのだ。


 そして時は流れ今。フェニックスの赤子が発見された事を知ったキンググレイウルフは、長年育て上げてきた群れを使ってその子の確保を目論む。


 その時には、キンググレイウルフの噂が魔境中に広がっておりほかの魔物たちもフェニックスの子を狙うと言う惨事になっていたのだが、当事者とその保護者達は知る由もない。


「ガルゥ!!(姿を表わせ!!)」

「........」


 キンググレイウルフは闇に紛れた殺戮者に吠えるが、影の中に潜み相手の首を刈り取る堕天使は意志を持たない操り人形。


 人形に話しかけたところで、返事が返ってくるわけもない。


 返ってくるのは、自分の家来達が無惨にも殺されていく悲鳴のみ。


 キンググレイウルフは怯えながらも、群れの長としてその場から逃げはしなかった。


「ガァ!!ガルゥ!!ガルゥゥゥ!!(お前もフェニックスの子を狙っているか?!ならば我らと手を組もう!!半々でどうだ?!)」

「........」


 もちろん堕天使は答えない。


 そもそも狼の言葉など分かるわけもないのだ。ここに堕天使の主人がいたとしても、“元気よく吠えてんなー”と能天気に思うだけである。


 堕天使と対話するには、せめて人間の言葉を話せなくてはならない。


 それでも、魔物として処理されてしまうので堕天使に勝てるだけの実力がいるのだが、最上級魔物と言えど姿形も見えない暗殺者をどうにかする方法は持っていなかった。


「ガァ!!(出てこい!!)」

「........」


 キンググレイウルフの呼びかけに、堕天使は遂に応じる。


 しかし、返事はその腹に剣を突き立てる事だった。


 魔鉄の剣ですら弾き返す強靭な毛皮だが、幾つもの魔術を重ね掛けした闇の剣には適わない。


 態々、切れ味を増すためだけに、小刻みな振動まで加えられている剣を防ぐ術をキンググレイウルフは持っていなかった。


「ガ──────────」


 貫いた剣をそのまま頭へと持っていき、体を両断する堕天使。


 この日、長年五大魔境“グレイ”に君臨してきた王は呆気なくその生涯を終えたのだった。

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