ダンジョンの街

ダンジョンの街、レルベン


 エドナスの街の人々に見送られ、エレノアとダンジョンの街を目指して旅を始めてから四ヶ月後。


 幾つもの街と村を経由して、俺とエレノアはレルベンに辿り着いた。


 田舎街であるエドナスよりも大きな城壁と、街を出入りする人々が見える。


「予定よりも1ヶ月遅れたが、無事にたどり着けたな」

「ジークが余計なことをしなければ、もっと早く着いていたのだけれどね?」

「でも、レベルは上がっただろ?」

「えぇ、お陰様で」


 若干含みのある言い方をするエレノアの顔は、僅かに怒りで歪んでいる。


 この四ヶ月でエレノアのレベルは11にまで上がった。


 行く街や村で魔物の群れを見つけては、レベル上げだと言って特攻させれば嫌でもレベルは上がるだろう。


 この世界ではどのように経験値が分散されるか分からない為、俺がギリギリで敵の体力を減らしてエレノアがとどめを刺すと言うパワーレベリングを使わなかった。


 もちろん、安全マージンは十分にとっている上に、何かあればエレノアを守れるように闇狼達が護衛には付いていたものの、大量の魔物を相手にする行為はエレノアにとって死に等しい行為だったらしく、毎度顔が死んでいたのはいい思い出だ。


 そして、毎度小言を言われる。


「ジークがこれほど狂ってると知ってたらパーティーなんて組まなかったわ。毎度毎度魔物の巣を見つけては私を単独で突っ込ませて。そんなに私を殺したいの?」

「いや、ちゃんと安全に配慮して、エレノアの実力でも勝てる群れとしか戦ってないから」

「でも、何度も死にかけたんだけど?」

「それは調子に乗って魔術を使いまくったエレノアが悪い。魔力管理も戦闘における技術のひとつだろ?」

「........言ってることが正論だから余計に腹が立つわ。何より、私が死ぬ気でレベルを5上げたのに、なんでジークも同じレベル上がってるのよ」


 それが、放置ゲームの醍醐味ですからね!!


 そう。エレノアがレベル上げをしている間も、俺は闇狼達を使ってレベリングをしていた。


 行く先々で闇狼を放っては、片っ端から魔物の群れを殲滅させ続けたのである。


 エレノアが単独で倒せなさそうな魔物の群れは全て殲滅し、今や俺のレベルは21。大体レベル5づつでランクが上がるであろう冒険者の基準で言えば、レベルだけは金級冒険者と並ぶ。


 まぁ、殲滅した魔物の処理は殆どしてこなかったので(あまり大量に素材を売ると疑われる)、“魔物が大量に死んでいる!!何か異変があったんじゃないか?!”と言う騒ぎが各地で起こったりもしたが。


 魔物の死体処理って面倒なんだよな。討伐証明の部分と売れる部分以外は、大抵森に放置して土に還ってもらうしかない。


 騒ぎになれば、俺は知らないふりをして街を出ていた。エレノアは気づいて“ずるい”とか頬を可愛らしく膨らませるていたな。


 エレノアは俺に小言を言っても無駄だと悟ると、小さく溜息をつきつつレルベンの街を見つめる。


「どのぐらいまで、あの街には居るつもりなのかしら?」

「少なくとも、エレノアがレベル20ぐらいになるぐらいまではやるつもりだ。それと、出来れば銀級冒険者になっておきたい。銅級冒険者と銀級冒険者じゃ扱いがまるで違うからな」

「ちょっと待って。私がレベル20になるまでこの街にいるつもりなの?相当時間がかかるわよ?」

「大丈夫、大丈夫。ダンジョンって魔物が次から次へと湧いて出てくるんだろ?レベル上げには持ってこいじゃないか。ほら、エレノアの好きな“効率良く”ができるぞ」

「いや、限度があるから。また魔物の群れを探しては突っ込ませるつもりでしょ?」

「うん。そうだけど?」

「貴方、最高に狂ってるわ。一度死んで頭の中身を作り直した方がいいわよ」


 実際に1度死んでるんだよなぁ。


 俺はそう思いつつも、エレノアと何気ない会話を楽しみながらレルベンの街に向かうのだった。


【ポーション】

 特定の薬草と魔力を含んだ水を調合して作られる薬品。薬草の種類と魔力を含んだ水の調合量によって効果が変わり、効果が薄いものから初級、中級、上級、最上級となっている。

 ゼパードがジーク達に渡したのは、“上級治癒ポーション”。飲んでも良し、傷口にかけてもよしの高級品。尚、解毒等は出来ないため注意が必要だ。


 検問を終え、無事にレルベンの街に入るとそこは別世界だった。


 故郷であるエドナスの街に比べて圧倒的に大きいのはもちろん、街をゆく人々も活気に溢れ騒がしい。


 その中でも特に目立つのは、冒険者の多さだ。


 別名“冒険者の街”というのも頷ける。


 あちこちに武器を持った如何にも“冒険者です”と言った風貌をした人達があちこちにおり、彼らを相手に商売をする人々ができるだけ高く商品を売りつけようと葛藤する。


 そんなエドナスの街とは似ても似つかない街に、俺達は足を踏み入れたのだ。


 エレノアも冒険者の多さに圧倒され、田舎から出てきた人のように何度も周りを見渡す。


「凄い人の数ね。冒険者も多いし」

「それだけダンジョンで稼げるって事だな。これだけの冒険者が溢れていても、狩場には困らないって事だろ?」

「あぁ、また魔物の群れに突っ込む日が始まるのね........」

「レベル上げは嫌か?」


 嫌そうな顔をするエレノアに問うと、エレノアは首を横に振る。


 嫌そうな顔は変えなかったが。


「嫌では無いわ。効率良く強くなるための術ではあるし、レベルを上げればそれだけやれることも増える。でも、スパルタ過ぎよ」

「........?スパルタ?」

「四六時中レベル上げの事しか考えてない馬鹿と一緒にするなと言ってるのよ........普通の冒険者達が何故レベルがそこまで高くないか知ってる?」

「さぁ?なんで?」

「彼らは生きる手段として魔物を狩り、その次いでとしてレベルが上がっているだけなのよ。生きるだけなら、ゴブリン狩って薬草を集めるだけでも生活できるからね。でも、ジークはレベルを上げることが目的になっている。コレが可笑しいとは思わないの?」

「いや、レベルを上げれば魔物を狩る速度も上がるし安全になるだろ?安全のためにもレベルば上げるものだろ」

「その過程で死ななければね。大抵の人間は、自分の命を優先して自分よりも圧倒的に弱い魔物しか狩らないわよ。分かる?そこそこ強い魔物の群れに単独で突っ込ませてレベルを上げてこいって言う奴は、頭がおかしいの」


 俺が可笑しいのか?


 レベル上げをゲーム感覚で捉えているのは自覚しているが、それでも多少のレベル上げは誰でもするだろう。


 そして、そこに“効率”を求めるのはおかしくない。


 ちゃんと安全マージンは取って、勝てる相手以外には挑ませてないし。


 俺が納得していないと、エレノアは再び諦めた表情をして顔に手を当てる。


「もういいわ。ジークに言っても無駄だって言うのは分かりきってるしね」

「レベル上げってそんなにしないものなのか........」

「普通はしないわよ。冒険者なら尚更ね。強くなることが必要な騎士団でも、ジーク程狂ってはないわ。少なくとも、魔術を常に使ってレベル上げをする程はね........いや、単独で魔物の群れに突っ込むのをやらないわ」

「で、エレノアはどっちなんだ?」

「ジークに毒されたと言うことだけは言っておくわ。これからもジークとパーティーを組むなら、慣れるしかないもの」


 そう言ったエレノアの顔は、少しだけ笑っていた。


 なんだ、人のことを頭がおかしいだの狂っているだの言っている割には、強くなることを楽しんでいる自分がいるって事に気づいているのか。


 俺はツンデレなエレノアが可愛く見えつつ、この街の冒険者ギルドを探すのだった。

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