旅立ちの日
両親に俺の本気を見せ、理不尽に怒られてから三日後。
俺とエレノアは、次の街に向かうために北門に向かっていた。
この二日間は次の街に行くための準備を色々としており、俺は新しく買った鞄に
他には、路銀や携帯食料の確保と次の街に行くための地図やらの買い出しやお世話になった人への挨拶回りなど、とてもでは無いが冒険者活動ができる程の暇はなかった。
特に、挨拶回りが大変で、俺が依頼を受けれない事を知ると悲しむ人や餞別を無理やり持たせる人が多かったのだ。
力仕事をするおっさん達には揉みくちゃにされながら、何に使うかよく分からないものから普通に銅貨を渡されたりもしたし、広い庭を掃除したおばちゃんの家では長ったらしい話をされて切り上げる隙が無かったり。
皆善意でやってくれている事は分かっているのだが、ちょっと迷惑だったのは内緒である。
少なくとも、俺はこの街の人間に愛されていたと思う。
昨日はゼパードのおっさんがあっちこっちに声をかけて、俺とエレノアの門出を祝う宴会を開き、エレノアが酔っ払って俺にだる絡みしてくるなんて事もあった。
誰だよ翌日に街を出るのに、エレノアに酒を飲ませたの。
二日酔いなんてした日には、予定が狂うだろうが。
それでも、なんやかんや楽しかった。
酒に酔った親父が泣きながら俺に抱きつくは、お袋もよくわかんない事を言いながらエレノアと俺にキスをするわで大変だったが、これもいい思い出となるだろう。
「これで、この街ともお別れか。12年間、世話になったな」
「そうね。次の拠点となるダンジョンの街、レルベンもこんな感じだといいけど」
「実際にレルベンに行ったヤツから聞いた話だと、弱肉強食が顕著な街らしいな。この街よりも大きいし、冒険者の街なんて言われるほど冒険者が多く集まるんだとか。少なくとも、俺達が一日帰らなかっただけで大騒ぎするような街ではないと思うぞ」
「私だけだったら、そこまで大騒ぎしてないと思うわ。ジークがこの街の人々に好かれすぎているだけよ」
「そりゃ、魔術学院を出てもぼっちで居るやつよりかは人望はあるさ」
「喧嘩売ってる?買うよ?」
「勝てないくせによく言うよ。レルベンでは多少の人脈は作っておこうな」
トンファーを構え、敵意を露わにするエレノアを笑いながら受け流すと北門が見えてくる。
北門の前にはたくさんの人が集まっており、その殆どが顔見知りだった。と言うか、昨日合った奴らばかりだな。
その代表であるゼパードのおっさんは、俺達を見つけるといつもの様に怖い笑みを浮かべながらこちらへやって来る。
「よう。ジーク坊ちゃん。昨日はよく眠れたか?」
「お陰様でね。エレノアが酔っ払った時は焦ったけど」
「ハッハッハ!!あの時のエレノアは傑作だったな!!ジークに甘える猫のようにベタベタしてたぞ」
「ゼパードさん。そんなに私、酷かったんですか?」
「そりゃもう!!ずっとジークの後ろでむ──────────あだァ?!」
何かを語ろうとしたゼパードだったが、その言葉はフローラとラステルの鉄拳によって中断される。
大丈夫か?ゴン!!と言う重音が響いたのだが。
「ゼパード?こんな時までデリカシーないのはダメだよ?そんなんだから、狙ってた子に振られるんだよ」
「全くです。ゼパード、あなたは1度、神の元で人の心を学んだ方がいいですよ。と言うか今から学びに行きましょう。ほら、行きますよ」
「ちょ、待って。俺は教会は好きじゃないんだ」
「仮にもシスターの前で神への冒涜。これは説教を聞かせるのも必要ですかね?」
「ちょ!!本当に待て!!説教でも説法でも後で聞くから、餞別だけ渡させろ!!」
さりげなくゼパードが失恋していた事を明かされ、教会に引きずられていく事になりそうだったが、ゼパードは何とか2人から逃げ出すと俺とエレノアに1つづつ瓶に入った液体を渡してきた。
「これは?」
「餞別だ。欠損以外の傷ならどんなものでも治せる上級者ポーション。いざと言う時に使いな」
「いいのか?結構高かったはずだが........」
大抵の傷を治せるこのポーションは、今の俺の貯金を持ってしても買えない超高級品だったはずだ。
その効果は絶大だが、1本使うだけで赤字が確定するような品物である。
ゼパードを見れば、彼は笑顔を浮かべながら俺とエレノアの頭を優しく撫でた。
普段のように髪をぐしゃぐしゃにするのではなく、大切な宝物を壊さないように慎重に暖かく撫でてくれるような撫で方だ。
「いいんだよ。友人の子供と、そのパーティーメンバーなんだぞ?多少の奮発はするさ。それよりも、約束しろ。何があっても死なないってな」
「大丈夫、俺もエレノアも死なないよ。寿命を全うして死ぬさ」
「私もです。少なくとも、ジークよりは先に死にません」
「それでいい。世界を回って満足したらまた戻って来い。この街は、お前達を待ってるからな」
ゼパードは名残惜しそうに俺たちの頭から手を離すと、後ろに回って俺たちの背中を優しく押す。
暗に“歩け”と言われた俺達は、様々な人から声をかけられながら人によって自然とできた道を歩いていく。
そして、最後に待っていたのは俺の両親だった。
家を出ていく時に、既に見送られたはずなんだけどな。
「ジーク、無事でいろよ」
「大丈夫だよ父さん。少なくとも、父さんよりも弱いやつには負けないから」
「そうか。だが、油断は禁物だぞ。世の中にはお前たちが思いつかないほど卑怯な手で、貶めようとする奴がごまんといるからな」
「うん。気をつける」
「それと、エレノア。こんなバカ息子だが、よろしく頼む」
「はい。何があっても死なせません」
この前死にかけてた奴が言うセリフじゃなくね?とは思うが、ここでちゃちを入れる程俺も空気が読めない訳では無い。
俺は何も言わず、ただ静かにしているだけだった。
親父が言いたいことを言い終えると、次はお袋だ。お袋の手には質の良さそうなナイフが握られている。
「はいコレ。ジークへの餞別よ。ミスリルと鉄の合金で作られたナイフ。お父さんが昔使ってたものね」
「ありがとう母さん。出来れば、荷物整理している時に欲しかったな」
「あら、生意気な子ね........気をつけなさい。世界は自由だけど、その分悪意に満ち溢れているわ」
「気をつけるよ」
「それとエレノア、貴方にはこれ」
お袋はそう言って指輪をエレノアの右中指に嵌める。
何の変哲もない普通の指輪に見えるが、そんな物をエレノアに餞別として渡すわけが無い。
「コレは?」
「私が昔使ってた指輪の魔術媒介よ。杖に比べれば効率は落ちるけど、それなりに使えるはずだわ」
「いいんですか?私にこんな貴重な物を渡してしまって........」
「いいのよいいのよ。ジークの面倒費とでも思ってくれればいいわ。あの子、いっつも心配ばかりかけるんだから」
お袋はそう言うと、俺とエレノアを優しく抱きしめる。
これが最後の抱擁になるかもしれない。そう思うと、胸からこみあげてけるものがあった。
「二人とも、無事でね。いつかまた顔を見せてちょうだい」
「分かった。今までありがとう父さん、母さん」
「我が子でもない私にここまで優しくしてくれてありがとうございます。シャルルさん。デッセンさん。必ず帰ってきます。ジークと一緒に」
「........気をつけろよ」
こうして、俺とエレノアは街の人々に見送られながらエドナスの街を旅立つ。
爽やかな風が吹く中、俺とエレノアは暫く何も語らず胸の中にある思い出に浸るのだった。
これにて一章は終わりです。
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