第3話幸せな日々

それから私は人生でもっとも幸せな時間を過ごした。妻の真奈美はいつ見ても美しい。

冷蔵庫の冷蔵部分を開けるとうっすらと霜のついた妻が私を見てくれる。

その冷たい唇に私は自分の唇を重ねる。

氷のように冷たいその唇から私はあろうことか快楽を感じていた。

あまり長い時間扉を開けていられないので、私は妻と会うのを一日三回と決めていた。

朝に出勤する時。

仕事から帰宅した時。

そして眠りにつく前。


もっとも楽しいのは休日だ。

私は真奈美の頭部をクーラーボックスに入れてドライブに出かけるのである。

クーラーボックスには念のため保冷剤をつめるだけ詰めこんだ。もちろん、車のエアコンは切っている。

寒くて寒くて仕方ない。

車の中なのにダウンのコートをきて、手には手袋。頭にはニット帽である。我ながらこっけいな姿であると思ったが、これも愛する妻のためならへっちゃらだ。

私は妻を連れて山や美しい湖、冬の荒れた海などを訪れた。

自動販売機で買った温かいコーヒーだけが私の体の体温を保ってくれる。

人がいないのを確認して、私はクーラーボックスから真奈美を取りだし、美しい景色を見せてあげる。

私は真奈美が喜んでいるように見えた。


しかし、こんなに満たされた生活も冬の間だけであった。春がすぎ、梅雨が過ぎて暑すぎる夏が訪れるとさすがに妻を連れて出かけることができなくなった。

それでも私は幸せだった。

日に三度は美しい妻にあえるのだ。

それで十分だった。


夏のある暑い日、私はいつものように妻にお休みのキスをしてからベッドルームに向かう。

なんとなくスマートフォンを見るとネットニュースで超大型の台風が接近中であると告げていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る