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金色にキラキラと輝く髪、雪のように白い肌、スマートな体系に男女問わず魅了するその美しき顔。芸術という分野に相当するそのお姿は、私が知る頃よりもその魅力にさらに磨きをかけているように見えた。
まるで、物語に出てくる主人公の様な彼の存在に周囲はざわめき立ち、男女問わず称賛する声が飛び交っていた。
私も同じ気持ちだ、アルバ様はカッコいい、私の憧れであり理想とする素敵な人、彼の様な人になりたいとどれほど思ったことだろう。
いや、そうなるために私はここに来たといっても過言ではない。
心の底にある大切な気持ちがあふれてきた私は、今すぐにでもアルバ様の元へと向かい、アルバ様にこの気持ちを伝えたかった。
しかし、この昂る気持ちを押さえつけるかのように講堂内に轟音が鳴り響いた。それはまるでどこかに雷でも落ちたかのようなすさまじいもので、その音と共に講堂内は静まり返った。
そして、静寂の中聞こえてくる奇妙で甲高い笑い声。
「ヒッヒッヒッヒッヒ、フッフッフッフッフ、ハァーッハッハッハ」
その笑い声の主は校長先生であり、彼女は何が面白いのか腹を抱えながら笑っている様子を見せていた。その様子により一層講堂内は静まり返った。どうやら校長先生がこの場を鎮めるために何かをしたのかもしれない。
「いやぁ、これからが楽しみだなぁシチフク」
シチフクに語り掛ける校長先生にシチフクは少し困惑した様子を見せた。
「え、えぇそうですね、有望な若者が現れたのはとても良い事です、これからが楽しみです」
「あぁ楽しみだぜこの後がよぉ、どんな顔を見せてくれるやら」
「・・・・・・は、はぁ、今日は一段とおかしな様子ですな校長先生」
まるで何かを待ち望んでいるかのような校長先生、そして、アルバ様の歓声を一気にかき消した校長先生は再び飲み食いし始めた。
しかし、校長先生のおかげもあってか講堂内は落ち着きを取り戻し、再びお目通しとやらが再開された、アルバ様以降はこれといった変化はなくとても落ち着いた様子で事がなされていた。
そうしているうちにあっという間に、私にもお目通しとやらの番がやってきた。
近くの席に座る人が呼ばれた辺りから緊張が最高潮を維持し続けており、なおかつ最後だという事で、変に悪目立ちしているような気がしていた。なので、私は顔をうつむけてさながら競歩でもしているかのようにいそいそとシチフクの元まで向かった。
シチフクの元へと向かうと、シチフクは首を幾度もかしげながら私をじっと見つめてきた。大きくきれいな瞳、フクロウという生き物はどうしてこのようにかわいらしい目をしているのだろう。
そう思いながらその目に見とれていると、どういう訳かシチフクが止まり木から崩れるように落ちていった。その様子に周囲は悲鳴を上げた。一体どうしたというのだろう、もしかして疲れてしまったのだろうか?
そう思いシチフクに歩み寄ろうとすると、シチフクはバサバサと羽をはばたかせて再び止まり木へと戻った。
「あぁいや心配かけたね、ははは、少し疲れてしまったのだろうか?」
「あの、えっと」
「大丈夫大丈夫、少しふらついただけさ、ははは」
大丈夫そうではあるが、無理をしているようにも見えるシチフクの様子に、ふと校長先生へと目を向けると彼女は私をじっと見つめてきていた。その表情は真剣そのもので、先ほどまでの子どもの様な振る舞いはどこかへと消え去っていた。
なんだか嫌な予感がする、そう思いながらシチフクを見つめていると、先ほどのようにあっさりと口を開くことはなく、静寂を伴いながら私を見つめ続けていた。
「いや、まさか・・・・・・いやいや違う、そうじゃない」
「あの、どういうことですか?」
そうして、シチフクは私のことをしっかりと品定めするかのようにじろじろと見つめてきては、度々首を横に振るという行為を繰り返した後、ようやく決心がついたのか、ゆっくり目を閉じて人間の様に深く息を吐いて見せる行為を見せると、閉じた目をカッと見開いて私をにらみつけてきた。
「ふ、不合格だっ」
「え?」
その言葉を聞いた途端、私は頭が真っ白になり、そしてすぐに我に返った。それはまるで『不合格』という言葉を聞き間違えか何かとして処理するかのようであり、すぐさま聞き返さざるを得なかった。
「え、えっと、今なんて言いましたか?」
「不合格といったのだ」
「え?」
「そ、そう落ち込むことはない、見たところ君はただの人間だ、誰に推薦されてここにやって来たかはわからないが、この場所は君の様な子には向いていない」
何かをはぐらかしているかのような、そんな挙動不審じみた様子のシチフクはまるで誰かに助けを求めるかのように首をキョロキョロと動かしていた。
「ちょっと待ってください、じゃあ私はどうなるんですか?」
「大丈夫、次に目を覚ました時にはいつもの日常に戻っているよ、さぁ、これでお目通しは終わりだ」
まるで何かをはぐらかされているような状況、そして何よりこのあまりにも残酷であっけない結果に私はじっとしていられなかった。
「そんなっ、待ってください何かの間違いだと思うんです、私はどうしてもこの学校に入りたくてここに来たんです、どうかお願いします」
「悪いけど、その願いを受け入れるのはこちらの仕事ではない、あとは大人たちの仕事だろうね、それに私は仕事をきっちりこなす方なので間違いはないよ」
「いや、そんなの嫌ですっ」
信じられないこの現実に受け入れられずにいると、シチフクはまるで感情を持っているかのように目を細め「やれやれ」といった様子で首を横に振っていた。その様子が、受けた言葉たちが私にとって死刑宣告を受けてしまったかのようであり、一気に体の力が抜けた。
膝から崩れ落ちると、自然と涙があふれてきた。涙で視界が濁る中、目の前から黒いローブを纏う大人たちが私の元へといそいそと歩み寄ってきている様子が見えた。
それはまるで私を不合格としてこの学校から追い出すかのように見えた。その動きを察した私は一秒でもその恐怖から逃れるかのように足を動かし逃げようとした。
そんな絶体絶命のピンチの時、私はどういう訳か、ふと雄才様の言葉を思い出した。
『これから先、お前が本当に困った時にそのネックレスがお前を助けてくれるだろう。どうしても困った時はそれに強く願うのだ、それらは必ずお前の思いに応えてくれる』
どういうわけかそんな言葉を思い出し、胸元にかけている角の形をしたネックレスを取り出して両手で握りしめ、そして強く願った。
「お願いします、どうかお願いしますから私をこの学校にいさせてくださいお願いしますっ」
人目もはばからず大声で叫んだ私だったが、まるで星に願った後の様な空虚な沈黙が流れた。そして、そんなことは構いもせずに近づいてくる大人たちの姿に、私はもう涙が止まらず何度も何度もネックレスに願いを込めた。
この学校にいたい、魔法学校に通って魔法を習って幸せになるために、あのアルバ様のように・・・・・・アルバ様のように私もなりたいっ
「お願いします、どうか助けてくださいっ」
最後に振り絞った言葉、それはただただこの状況から助け出してほしかった願いだった。すると、私の手が光を放ち始めたことに気付いた。指と指の隙間から光の筋が伸び、それは徐々に大きくなっていく。
それはまるで何かの魔法の様であり、思わず呆けてしまっているとその光は突然大きく輝きを増した。
真っ白になる視界の中、雷が落ちたような轟音が鳴り響いた。その音にはどこか馬の鳴声が入り混じっているような奇妙な音だった。
徐々に戻る視界の中、今度は「キャーッ」という悲鳴のようなものが聞こえてきた。次から次へと起こる展開に頭を混乱させながらあたりを見渡そうとしていると、私の視界には真っ白な何かがあった。
それは、とてもきれいに手入れされた真っ白な絨毯の様であり、私は思わずその絨毯のようなものを手でさすった。フワフワ、サラサラと心地の良い感触を確かめつつ、触ったと同時にぴくぴくと動いているのに気付いた。
そして、そこでようやくこれが絨毯でも何でもなく、何か生き物の毛皮の様であることに気付いた私はすぐにあたりを見渡すと、そこには私を守るように立つ白馬の姿があった。
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