歴史の天才な高校生、戦国の悪役令嬢にTS転生する 〜なんかめちゃくちゃハードなんだが〜 

鷹司

プロローグ

 俺の名前は田中大地。先程まで、現代日本の東京都で高校生をやっていた。そろそろ卒業、就職先も決まっていたのに、妹をかばってトラックに轢かれ、死んでしまったのである。


 うわ…。最悪だ。なんでこんなことに…。妹を庇って死んで、まあ仲良かったし本望ではあるかもだけど流石に酷くね?転生ぐらいさせろよ。と、薄れゆく意識の中で思ったときだった。


「大丈夫ですか?ショックで精神壊れてませんか?」


 声が聞こえて目を開けると、そこは真っ白な世界だった。


「こんにちは大地君。私、天使です。名前はないかもです。よろしく」


「よろしくお願いします。えっと、天使さん」


「うんうん。君今一瞬で状況を理解しましたね。転生者として申し分ない素質です」


 ふわふわ優しく天使さんが言った。イケメンだ。胸が苦しくなるじゃないか。赤ちゃんなら良かったのに。いや、それもそれでいやか…。


「イケメンなのが天使の仕事の大部分ですから。あ、それと、私の名前はないかもです。ないかもさんと呼んでくださいね」


「え?あ、成る程。てか心読めるのか」


「はい。天使ですから。それでは、状況を説明しましょう。

 まず、あなたは妹さんを庇い、亡くなられました。これはいいですね?」


「はい」


「亡くなる直前、あなたは転生したいと願いました。そして、同時刻、妹さんも同じように、お兄ちゃんを転生させてあげて!と、強く願われました。そして、重なり合った2つの願いが天上の神に届き、ちょっと悪趣味な我が主がそれに答え、私を使わせたのです」


 なるほど。仲が良かったのが幸いしたのか。


「あ、我が主は悪趣味ですが、善良ですのでご安心ください。では、転生についての説明に入りますね」


 天使さん…ないかもさんがそう言うと、謎のスロットが現れた。


「まず、転生、と言っても異世界転生ではありません。あなたは、過去の偉人に転生していただきます」


 に、日本かな!?


「ええ。あなたの過去のデータ、そして妹さんの願いから、過去の日本に転生することが決定しました」


「やった!じゃあ、あのスロットは何に使うんですか?」


「あのスロットにはあなたが生き抜ける可能性の高い人物をピックアップしました。我が主は悪趣味でも善い方なので、きっと最も相性の良い方を選んでくださいます」


 なるほど。あれかな、好き勝手やってるけど悪いやつじゃない的な神なのかな。


 と、ないかもさんが表情を引き締めた。


「そして、最後にお約束を。絶対に歴史を変えてはいけません。もちろん、生きるためにどんな手段を用いていただいても構いません。その結果が現在の歴史なのですから。ただ、歴史に反する行動をしてはいけません。もしそれに背いた場合、神々により厳罰に処されます。よろしいですね?」


「もちろんです!」


 なるほど、歴史を変えてはいけない、か。肝に銘じて置かなければ。


「でしたら、どうぞ」


 うわー緊張するなー。


 スロットはものすごい勢いで回り、やがて止まった。


「これはえっと…築山殿?」


「みたいですね」


「TSかよ!」


「頑張ってください。では、さようなら!」


「待ってーーーー!」


 そして俺は、光の粒子となって消えたのだった。



 ◐◐◑◑



 転生者・田中大地が消えた天界(即席)で、天使ないかもは涙を拭う…ふりをした。


 TS転生することになってしまった大地には申し訳ないが、ないかもは泣かないのだ。

 他の天使であれば泣くのだが、生憎顔を崩すことは許されていない。そう、先程大地に言ったとおり、ないかもやその同僚たちの主な任務は、美しく有ることなのだ。


 と、そこへ。輝くばかりの美しさを持つ天使が舞い降りた。正確には天使の格好をした神なのだが、しかし彼女がこの格好をするということは、すなわち誰か―上位の神―の使いということだ。


「あるかも様」


 ないかもは舞い降りた天使―神あるかもに跪いた。


「父からの使いじゃ。予定を変更して申し訳ない、しかし面白そうだからテレビを繋いでくれんか?と」


「おや、変更されていたのですか」 


「ええ。築山殿なんて、ピックアップリストに入ってないわ。歴史を変えてはいけないのだから、彼は死ぬしかないわよ」


 はあ、とあるかもはため息をついた。

 彼女の父は冥界を司っている。故に、気に入ったり、面白そう、と思った者は手当たり次第に死なせてしまうのだ。あるかもは、ボケたと思っている。

 数千年前にもこんなことがあった。その時は、兄様と協力して電気ショックで直したんだっけ。


「それは、また、酷い話だな」


「まあ、噂をすれば兄様だわ。それに関してはわたくしもいかがなものかと思っているの」


 現れたのは、美しい男神。キリッとした顔立ちに、細身の長身だ。何処か抽象的なあるかもに対し、はっきりとした存在を感じさせる。また、あるかもとそっくりである。


「よし、彼に幸運を授けよう。父上の思惑を阻止するのだ。あるかも、その間、父上がテレビに釘付けになるよう、彼の補佐を頼むぞ」


 それだけ言って、兄は去って行ってしまった。


 はあ。またもやあるかもはため息をつく。自分も大概だという自覚はあるが、しかしボケると大変な父と、子でありながらあっという間に父を超え、神々の力関係のトップに立とうとしている兄を持つというのは、とても大変なのだ。


「まあ、仕方ないわね。それが宿命よ。彼らのおかげで、わたくしもかなりの力を得たのだし。じゃあわたくしは行くわ。ないかも、あとはよろしくね」


「丸投げですか!?…わかりました、頑張ってください」



 ◐◐◑◑



 さて、そんなことがあって俺はTS転生したのだが、最初は母親の腹の中だった。


 そろそろ生まれる、ということが、感覚というか本能でわかった。まだ少し余裕があるようだ。


 これは多分、思考を整理する時間を与えてくれたのだろう。


 それならまず、築山殿の情報を整理しよう。


 築山殿。またの名を瀬名姫。今川義元の義理の姪で、徳川家康の妻。


 人生を簡単に辿っていくと、


 ・今川義元の義妹の娘(家臣の娘)として生まれる。

 ・徳川家康(当時の松平元信)と結婚する。

 ・男児が生まれる(松平信康)。

 ・桶狭間の戦いが起こり、夫元康(元信。名前変えた)が今川から離反し、三河の岡崎(故郷)へ行く。女児を生む(亀姫)

 ・人質交換により、岡崎へ向かう。が、城に入れてもらえず、築山の館で暮らし始める(だから築山殿)。

 ・家康(また変えた)の裏切りに関わったとして、両親が今川義元の息子、氏真に殺される。

 ・息子の信康が信長の娘・徳姫を妻に迎える(まだ幼い)。

 ・家康が浜松城に移り、信康が岡崎城に入る。これに姫とともに同行する。

 ・長篠の戦いで信康が初陣を飾る。

 ・亀姫が嫁ぐ。

 ・信長が岡崎を訪問する

 ・武田と内通した罪で家康により信康とともに殺される。信康と仲が悪くなった徳姫が信長に出した書状が元らしい。


 ふむ、こんな感じか。流石に細かい年号はわからないな。桶狭間とか長篠とか大事なやつならわかる。あと家康系もわかるな。


 え?なんでこんなに詳しいのかって?


 俺は妹と一緒に歴史オタクだったからだ。俺は普通に武将が詳しかったが、妹は結構女性も調べていてみたいで、偶に話してきた。


 築山殿はたしか、こんなふうに言っていた気がする。


『ねえお兄ちゃん、知ってる?戦国時代にもね、悪役令嬢っているんだよ』


 聞き流していたはずが、何故か覚えていた。俺、歴史に関しては天才なのだ。学業は全然だめだったけど、歴史だけはいつも満点だったな。


 それはともかく、築山殿のスペックを確認してみよう。


 まずは歴史転生モノで定番の内政チート。

 …俺詳しくねえや。てか築山殿って内政に関われるのか?


 まあいい、次だ。軍事チートだな。優秀な人材を先回りして集める、ってやつ。

 築山殿だと…無理だな。女性だし。コネないし。そもそも行動できないし。

 しかも反乱疑われて史実より先に死ぬ可能性がある。歴史を変えるのはだめだしなー。


 あとは現代知識を駆使したチートだが、歴史を変えちゃいけないから死亡回避はな…。


 って、あれ?死ななきゃいかんの?詰んでね?


 いや、待てよ。そういや生存説あったな!確か、寿桂尼(今川義元の母親で女戦国大名と言われた女傑。築山殿の義理のおばあちゃん)の墓に花を供える尼がいて、それが築山殿…みたいな感じだった。


 尼…スローライフか。いいな。

 そういえば妹も、


『リアルスローライフだね!しかも悪役令嬢の!熱いわ〜』


 とか言ってた。尼ってスローライフなんだな。女性だと、平家物語の祇園とかか?


 まあいい、現段階での結論としては、なんとか生き延びてスローライフ!だ。


 よしよし、では細かい記憶を取り戻しつつ、計画詰めますか!間違いがないかも確認しなきゃな〜っておい!


 母ちゃんそろそろか?そろそろなんだな?



 …い、痛い。苦しい。赤ん坊って大変だな…。

 そ、そろそろだ。母ちゃんも頑張ってるんだ。きっと美人だ。


 よし、元気出てきた。あともうひと踏ん張りだ。


 痛い…苦しい…。世の赤ん坊、お前らすげーな。そして、母ちゃんたちはきっともっとやばいな。

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