第74話 ミライヤの試験



「お疲れ様」


「ノアリ」



 試合が終わり、出口を潜り外へ。このまま観客として残ってもいいし、別会場に行ってもいいし……別会場にいるはずのノアリの様子でも見に行こうか。


 さてこれからどうしようかと考えていたところで、今考えていた人物の声……ノアリに声をかけられる。わざわざ出口で待っててくれたのか。



「見てたわよ。楽勝だったじゃない。でも、最初のはなによ、お遊びのつもり?」


「どうも。遊びって、そんなんじゃないさ。てか、別会場で試験だったんじゃないのか?」


「そんなの、瞬殺してやったに決まってるじゃない」



 別会場で試験だったはずのノアリがここにいるのは、すぐに試合が終わったと本人の言うとおり、つまりそういうことだ。さらにノアリが負けるなんて思えないので、勝ったのだろう。


 本人の自信満々な顔からも、それはうかがえる。


 だが……



「ふふん、一番前の席で見ていてあげたわ、感謝しなさい」


「……お前、自分の試験が終わってからわざわざ、俺の試験を見るためにここまで来たのかよ、しかも最初から、一番前とくとうせきで。そんで、俺が出てくるのを出口で待ってたって……」


「! た、たまたま超早く終わったから、き、来ただけだけど!? 別にあんたのために必死になんて、来てないけど!? はー、勘違いしないでくれる!?」



 必死とかそこまで言ってねえよ……ただ、自分の試合終えてから別会場の俺の試合を最初から見て、しかも終わりはこうして出口で待っている。


 物理的にそんなこと可能なのかよ。



「はいはいわかってる、ただ早く終わっただけだもんな」


「そ、そうよ!」



 こいつはたまに、めんどくさいときがあるよなあ。素直じゃないというか。


 ただ早く終わったからって、別会場からここまで、最初から見ているくらいに急ぐものだろうか。まあ、また突っ込むと面倒なので、この話は終わりだ。



「こほん。それで、この後どうする? 全員の試験が終わるまで、基本自由なんでしょ?」


「あぁ、そうだな……そうだ。ミライヤの試験を見ていかないか?」



 ミライヤは、ここともノアリがいた会場とも違う。全部で会場は四つあるが、見事に俺やノアリとは別会場だ。


 今からならまだ、彼女の試験には間に合うだろう。多分。



「それはいいわね。負けてもちゃんとフォローしてあげないと」


「お前、たまにひどいな」



 とはいえ、実は俺もミライヤが試験で勝てるとは思っていない。貴族相手にあの様子じゃ、剣を握っただけでも震えが止まらないんじゃないか?


 ま、試合で負けても筆記試験でいい結果を出し、なおかついいパフォーマンスを見せれば受かる例もある。それに、期待するしかないな。



「……ここか」



 会場を出て、しばらく歩いてから別会場へ。会場自体は四つとも学院内の同じ敷地内にあるとはいえ、それなりに距離はある。


 だからこそ、自分の試験が終わってから駆けつけてくれたノアリがどれほど急いでいたか、わかるものだ。



『これより、ギライ・ロロリアとミライヤの試験を行う』



 会場に足を踏み入れた瞬間、聞こえたのはミライヤの名前と、対戦相手である人物の名前だ。


 急いで着たわけではないが、なんともタイミングがいいことだ。



「お、これからとはナイスタイミングだな」



 もちろん、いつから誰の試験が始まるかはわからないから、狙って見れるものではない。事前に試験順番がわかるくらいだから、このタイミングの良さはなんていいものだろう。


 会場に足を踏み入れたが……んん……次の試験に出てくるのが平民だとわかってからか、皆の興味がギライ・ロロリアという貴族にのみ向けられているのがわかる。


 仕方のないことかもしれないが、あまりいい気分ではないな。



「ノアリ、ギライ・ロロリアって知ってるか?」


「うーん……本人のことは知らないけど、ロロリアはそこそこ有名な家よ。なんか、剣術に関しては代々有名らしいわ」



 スゲーぼんやりした説明をありがとう。まったく興味なしか!


 とはいえ、剣術に秀でた家柄ということか。そのロロリアに挑むのが、ミライヤ……



「お、出てきた」



 会場に、ミライヤが現れる。その手に持っているのは、俺が手にしていたのと同じ模造剣だ。彼女も、学園から剣を借りたのだ。


 貴族のたくさんいるこの学園に足を踏み入れ、早速貴族たちから嫌がらせを受けていたミライヤ……そんな彼女が、こんな場所で大丈夫だろうか。心配だ。

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