第44話 私に任せたまえ
ない胸を張り、なぜか自信満々に自分に任せろ、なんて言い始めたヤネッサ。俺はヤネッサのことは会って一時間と経ってないしまったく知らないが、あまり賢くなさそうな印象を感じている。
出会い頭、いきなり弓矢を射ってくるような女だ。見た目はエーネよりも幼い……10代半ばの少女。見た目と中身がイコール年齢で繋がるわけではないが、成人女性の見た目のアンジーを見ていると、やはり歳を重ねるごとに体も大きくなっていくようだ。
だから、ヤネッサはおそらくこの中で一番年下のエルフだ。ゆえに、あまり頭も回らない、短絡的な人物なのかもしれない。いかに食料問題で過敏になっていたとはいえ、いきなり攻撃を仕掛けてくることはないだろう。
そのような短絡的な人物に、任せろと言われても心配になるだけなわけで。
「……なぁ、本当に理解できてるのか?」
自信満々な様子に、思わず素で問いかけてしまった。
「わかってるよー、アンジーお姉ちゃんからちゃんと聞いたから。国で『呪病』って変な病が流行ってて、それがヤークくんの愛しの彼女にかかってしまった。死に至ると言われるそれを治す手がかりを得るためにここまで来た……ってことだよね!」
「……合ってるけど……愛しの彼女?」
「あ、いやぁ……そう説明したほうが、ロマンチックじゃないですか。それにヤネッサはそういう話が大好きなんです」
アンジー、なんでそういうところでお茶目な一面を見せるんだ。普通に大切な人、でよかったじゃんか。なにをヤネッサの興味を向かせるために妙な言い方をしたんだよ。
まあ、その説明でも大切な人であることは間違ってないし、理解してくれてるなら別に関係性についてどうこう言うつもりはないけども。
「いや、そもそもヤネッサに理解してもらわないといけない理由がわからないんだけど」
問題はそれだ。なぜヤネッサに説明して理解してもらわないといけないのか……そしてなにが任せなさいなのか。
ヤネッサが、『竜王』の所在を知っているとでもいうのだろうか。
「実は私、こう見えて鼻がいいんだよ」
「はぁ」
こう見えてともなにも、容姿と鼻がいいことに関係があるのだろうか。
「まさか、鼻がいいからそれで『竜王』の居場所を探すっていうんじゃ……」
「おー、正解正解!」
「犬か!」
良からぬ予感が、的中した。鼻がいい……それを使って、『竜王』を探す? バカバカしくてろくな言葉も出てこない。
「……時間無駄にした」
ヤネッサに説明するというから、その間の時間でエーネに正体を明かした……だが結果として、エーネから俺を殺した理由は聞けず、さらにはヤネッサはこんなバカなことを言い出す始末。
これなら、さっさと出発しておくんだった。
「ヤークくん、なによその顔は」
「……あんまりこういうこと言いたくないですけど、そんなバカげた方法でどうしろってんですか。どこにいるかもわからない、生きているかもわからない相手をにおいで探す? それも、会ったことのない相手を? ……呆れないほうが無理でしょ」
においで探す……その方法は100歩譲っていいとして、問題はその探す相手だ。
世界は広い。そんな中を探し回るだけでも骨なのに、相手は会ったこともない……つまり、においなんてわかりようもない。
おまけに、時間がない。あと約ひと月しかないのだ。そんな不確定要素に頼ることなんて……
「ヤーク様、気持ちはわからなくもないですが……ヤネッサは人一倍、いや何十何百倍も鼻が利きます。もしかしたら……」
「ふふん!」
「アンジーまで……いや、そうじゃなくて」
アンジーのお墨付き……ときたか。いや、別に鼻が利くに関するお墨付きはいいんだよ。
俺が気にしているのはそこじゃなくて……
「会ったこともない相手のにおいをどう判別するのかってことだよ、俺が気にしているのは」
元々手がかりのない状態でここまで来た、だから僅かでも可能性のある方向へと進みたい。それにヤネッサが必要だというのなら、着いてきてほしい。
だが、それでも闇雲に歩き回るというのは……
「その点に関しては、心配無用です」
「ほぉ?」
「ヤネッサには、ある特殊な力があるのです」
やけに自信満々なアンジー……そして、ヤネッサに特殊な力があるという。
「特殊な力?」
「ふふん、私はね……過去、そこでなにが起きたのか映像として見ることができるの。そして、過去だけどにおいも感じとることができるの」
「? ……??」
なんだ……なにを言ってるんだこのお子様エルフは。今の言葉を理解できなかったのは、俺が頭悪いせいか?
過去を映像として見ることができる……? 口では簡単に言ってくれるが、それはどういう意味で……?
「ヤネッサはその場所で過去なにが起きたのかを映像として見ることができる……つまりですね、おじいさまと『竜王』が会ったという場所に行けば、その過去起こった出来事を見ることができ、さらにはにおいまで感じ取ることができるので、『竜王』のにおいを追えるのです」
「お、おう……」
ダメだ、わからん……いや、言わんとしていることはなんとなくわかるんだが……え? ええ?
「そもそも……過去を見る、なんて言われても、信じられないんだけど」
そんな荒唐無稽な話、いきなりはいそうですかと信じられるはずもない。とはいえ、ヤネッサ本人が言っているだけなら笑って、いや殴って話を終わらせるところだが、アンジーにまで言われちゃあな……
それに、エーネがヤネッサに事情を説明しろと言ったのも、その力のことを言っていたのなら説明はつく。
「嘘じゃないよ! 信じないなら、別に着いていかなくてもいいんだから!」
「と、言われてもな……」
特殊な力、と言えば聞こえはいいが、それはなんなのだろう。魔術、ともまた違うんだろう……人間は魔術を使えないため、魔術のことを深くは知らない。なのに、また違う力のことを言われても理解できない。
けど、アンジーが「信じてください」みたいな目で見ている。アンジーは嘘をつく性格ではないし、ましてこんな時にそんなことをするはずがない。
いきなりすぎて、頭が混乱する。エーネとのやり取りの直後にこれだ……頭がパンクしてしまいそうだ。おまけに、そんな都合のいい力があるのかとも、思うし……
「過去を見れるなら、食料を略奪している奴らの正体も簡単に掴めるんじゃないのか?」
もしも本当に過去を見れるというのなら、いくら食料問題で困っていても、誰がどのように略奪していったか、わかるはずだ。においも感じ取れるなら、追うのに造作もない。
それをしない時点で、あまり信憑性が高くないのは確かだ。
「それは……この力にも、いろいろ厄介なところがあるんだよ。いつでも使えるものじゃないんだ」
その質問に対する返答は、これらしい。まあ、過去を見るなんて力だ、無制限に使えるほうがおかしい。一応筋は通っている……のか?
それならそれで、『竜王』とジャネビアさんが会った場所に行っても、なんの力も発揮しない可能性もあるんじゃないのか。……だが、なぜか本人もアンジーも力強くうなずくばかり。
「……そう、だな。ごめんなさいヤネッサさん、信じるので、着いてきてもらってもいいですか」
「ふふん、そこまで言うなら仕方ないね!」
頭を下げ、お願い。結局なんにもわからないまま、ヤネッサを同行させることに。
まあ、どのみち手がかりのない状態でも、ジャネビアさんが『竜王』と会った場所に行ってみるつもりではあった。ここまで来て、なんの手がかりもなしに帰るわけにはいかないからな。
だから、目的地はどうせそこだし、これ以上問答していても時間の無駄だし、着いてきてもらったほうがいいと考えた。
「おじいさま、そういうわけで、ヤネッサを連れていきますね?」
「ん? あ、おう、構わんよ」
果たしてジャネビアさんは今のやり取りを聞いていたのかどうか。
なんにせよこうして、俺たちの旅にヤネッサが同行することになった。
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