第34話 剣の教えを胸に秘め
「おぉおおおお!」
振り落とされるこん棒……それを確認し、俺のとった行動はひとつだ。いや、とれた行動はひとつだ。
手に握った木刀を握りしめ、それを思い切り振り上げる。振り落とされるこん棒に、めがけて。
ガギィッ!
「く、ぉ……!」
木刀とこん棒がぶつかり合った、妙な音が響く。剣同士がぶつかり合うほど鋭い音ではなく、かといって木刀同士がぶつかり合うほど鈍い音でもない。
互いの得物がぶつかり合い、その場で拮抗する。
「ぬ、おぉおおお……!」
「ギジャジャジャ!」
これは……思っていた以上に、重い……!
そもそも振り下ろされる力と振り上げる力では、圧倒的に振り下ろす力の方が強い。加えて、得物が片や丸太のように太いこん棒、片やただの木刀。とどめと言わんばかり、使い手の腕力の差だ。
体格は同じくらいでも、その腕力の差はまったく違う。子供のゴブリンだからと油断していた、その腕力はこん棒を打ち付けた地面がひび割れるほどに、強い。
全体的に、そして体勢的にもゴブリンに優位なのは明らかで……
「ヤーク様! 今助けを……」
「だい……じょうぶ、だから……!」
助けに入ってくれようとしてくれるアンジー。その心遣いを拒否する。このままでは俺はゴブリンのこん棒に押し潰されるのは必死、どう見ても助けが必要だろう。
……そんなの、ごめんだ! こんな同じ体格の、ゴブリンに負けていては……この先の俺が、思いやられる……!
『ヤークの剣は我流です。攻防技……そのどれにも特化はしていませんが、ゆえにどれもバランスよく扱うことができます』
ふと、頭の中に声が響いた。いや、思い出しているのか……先生との、鍛練の日々を。
父上……あの男の日々の、そして転生前での剣の扱いを見ていた俺は、それを手本に剣を覚えていった俺は、先生曰く我流の流派となっていたらしい。そもそも剣に流派なんてものがあることすら知らなかったが。
『攻撃……相手の剣を受け止めるのは、自分と同等、またはそれ以上の力を持つ相手にはオススメはしません。相手の力が上回っている以上、必ず押し切られます。ですから、受け止めるのではなく……』
……受け流す!
「っ!?」
『攻撃を受け流すのは、実は受け止めるよりも難しいのです。相応の技量が求められます。ですがヤークのその自由な剣なら、鍛えればそれも可能でしょう』
受け止めていたこん棒を、刀身をずらして受け流していく。刀身を這うようにこん棒が流れ、木刀を擦り滑る音が耳に届く。
それにより、今まで力で押そうとしていた相手はそのバランスを崩し、前のめりに倒れそうになる……のを、踏ん張る。
それを確認しつつ、俺は、先生の教えを頭で思い出しながら、それを実行して……
『攻撃を受け流せば少なからず隙が生まれるはず。狙うなら、そのタイミングです。自分は素早く相手の視界から外れ、そして狙うのは心臓部分か、頭、もしくは……』
「顎ぉおおお!」
横へとずれ、ゴブリンの視界外へ……そして、木刀を両手で握りしめ、思い切り振るう。
『顎は、生物にとって重要な部分。顎が揺れれば脳も揺れます。相手が生物である以上、この現象からは逃れられませんよ。心臓部分や頭は、本能的に生物は守りますから、その程度の隙ではまだ狙えない可能性が大きいので、今のヤークの技量なら顎がオススメです』
ベコォッ
「ル……ッ!?」
「当たった!」
振るった木刀は、狙い通りにゴブリンの顎へ。それがどれほどの威力を持っていたのか、ゴブリンの様子を見れば明らかだ。
なんとか倒れないでいるが、体を揺らしこん棒を杖代わりに、その場に踏ん張るのが精一杯のようだ。見るからに、隙だらけ。今の一撃で意識まで狩り取れればよかったのだろうが、そうはうまくいかないらしい。
まあ、いい。今はただ、このチャンスを活かすのみだ。背後へと、回る。
「らぁああああぁい!」
木刀を振り上げ、狙いをゴブリンの頭へと定める。敢えて声を張り上げ、気合いを全身へと入れる。相手の視覚に入って声を上げるのは自分の存在を気取らせるだけだが、相手がたいした判断もできない今、声を張り上げるのは気合いを入れ直すためだ。
ゴブリンはなおも、ふらついている。隙を逃すなと、頭の中で誰かが吠える。
先生か、それとも……
「ふっ!」
バコッ……!
「グ、ゲェ……!」
力の限り、思い切り振り下ろした木刀が、ゴブリンの頭へと衝突する。肉体へと打ち付けた音が響き、なにかが砕ける感覚がした。ゴブリンにも頭蓋骨があれば、骨が砕けたのだろうか。
そのまま、力の限りに振り抜く。ゴブリンの体は地面へと打ち付けられ、何度か地面を跳ねてその場に転がる。
「はぁ、はぁ……」
自然と、肩で息をする。本当にこれで倒せたのか、その警戒が解けない。そのせいか、動けない。
視界に、アンジーが映る。アンジーはゴブリンの様子を確認すると……
「気絶しています」
そう言って、うっすらと笑った。
「! やっ……」
それを聞いて、やったと思わず声を上げそうになる……が、緊張の糸が切れたためか、それとも体に溜まっていたダメージ、疲労のためか……その場に、尻餅をついてしまう。情けない。
ともあれ……モンスターとの初戦闘、俺の……勝利だ!
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