第19話 3年の月日の流れ
「はぁああああ!」
カァン!
木刀を打ち付け合う音が、響く。心地のいい音だ。この数年で、すっかりと聞きなれてしまった音。
カンカンとそれを打ち付ける。それは、俺の剣の鍛錬によるものだ。目の前に立つ先生へと、握り締めた木刀を振るう。踏み込み、力の限り。
それは、先生の胴や頭を狙ったものだが、そのどれもが先生の持つ木刀に弾かれてしまう。
「いいですよ、キレも以前とは段違い。それに力も……日々の鍛錬の成果が出ているようですね」
「それは、どうも!」
褒められて嬉しいことには違いないが、目に見えた成果がなければ成果が出ている実感はない。そりゃ、あれから3年経って俺の剣の腕はかなり上昇しただろうが、それでもまだ8歳だ。大の大人に敵いはしないことはわかっているが……
……先生が先生となって、ノアリと出会って……いろいろな転機があったあれから、3年の月日が流れた。俺ヤークワード・フォン・ライオスは8歳となり、心身共に3年前より上達した……はずだ。多分。
ロイ先生は変わらず俺の剣の先生をやってくれている。おかげで、剣の腕も自分でも見違えるほどに成長した。
「てやぁあああ!」
「……相手の死角に回り込むなら、気取られてはいけませんよ」
右へ左へと駆け、狙いをつけさせない。相手の意識の外へと移動し、死角へと回り込む。頭へと木刀を振り落とすが、華麗に避けられ空振り。おまけにこちらの頭を木刀で叩かれてしまう。
「あたっ」
「声を出して己の気迫を刺激するのは結構。しかし、それは相手に自分の位置を知らせる手掛かりになりますから、気を付けなければいけませんね?」
「はぃ……」
こてん、と頭に置かれた木刀。先生は涼しい顔だ。俺は結構息切れしているというのに。
「はぁ、はぁ……まだ、まだ……」
「さすがに休憩にしましょう。よくも1時間も続けられたと、驚いていますが、さすがに皆さんも退屈していますよ」
い、1時間も打ち合いを続けていたのか……まあ、そのほとんどが俺が打ち込み、先生がいなすようなものだったが。
先生の下で3年、未だ先生の足元にも追いつけない。
「ヤーク、お疲れ様」
「おつかれさまです、にいさま!」
打ち合いを中断し、休憩のため中庭に設置されているテーブルへ。そこには、今までの鍛錬を見ていた人物……キャーシュとノアリが、座っていた。
うぅ、2人にいいとこ見せたかったんだけどな。
「ヤーク様、お疲れ様です」
席へと座り、狙ったようにお茶を用意してくれるのはアンジーだ。最初は俺のことを坊ちゃまと呼んでいた彼女だが、いつの間にか名前呼びとなっていた。
少しは子供っぽくなくなったということだろうか?
「ロイ様も、どうぞ」
「ありがとうございます、アンジーさん」
剣の鍛錬、その合間に休憩しお茶を頂くのは、もはやお決まりとなっていた。アンジーと先生はよく話をしているし、ちょくちょく遊びに来るノアリを先生が顔を会わせるようになったのも必然だ。
そして、キャーシュが俺の剣の鍛錬を見学するのは、昔から変わらない。現在6歳のキャーシュだが、無邪気ながらも貴族の子としての礼儀を身に付けつつある。
ノアリはもうすぐ7歳になる。そんな彼女も、以前の引っ込み思案のような面は大人しくなり、今ではよくいろんな貴族の家に挨拶にも行っているらしい。貴族たるもの、顔を広めておくに越したことはないらしい。俺も何度か行かされた。キャーシュの方がうまく立ち回っていた気がないでもない。
「……ん、美味しい」
「ありがとうございます」
アンジーの淹れてくれるお茶は、いつも美味しい。
父上は、以前にもまして家を空けることが多くなった。俺やキャーシュがある程度大きくなったし、アンジーもいるので仕事に行っているらしい。なにをしているのか知らないし興味もないが、まあ経歴が経歴だけに引く手あまただろう。
母上も、最近はよく家を空ける。というのも、この王都では少し前から、謎の病が出始めた。……奇病とも言うべきか。そんなに多いわけではないのだが、不思議なことにあらゆる治療が効果がない。薬はもちろん、エルフ族による治癒魔法でさえも。
エルフ族は、
……その回復魔法使いまでも、治療不可能な病。原因も治療方法もわからない、ゆえに奇病。母上は、魔法とは異なる『癒しの力』を持っており、それこそが魔王討伐のメンバーに選ばれた理由でもある。死者を蘇らせる以外なら、あらゆるものを癒すとか。
……その力も、効果が見込まれていない。だが、自分に出来ることは試したいと、日々外に足を運んでいる。
「ロイ先生、私たちお邪魔じゃないですか?」
「いえ、ギャラリーがいた方がヤークのやる気も上がりますので、問題ないですよ」
「にいさま強くなりましたよね!」
ともあれ、こうして、人と人とが繋がっていく……忙しそうな両親には悪いが、今の俺の生活はわりと充実している。
奇病とやらも、心配じゃないとは嘘になるが……自分たちには関係のないことだと、そう、思っていた。
「……けほっ」
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