第15話 初めての友達
さて、今日家に訪問してきた女の子、ノアリ・カタピル。親たちの話が終わるまで、彼女と遊んでいるように言われたが……なにをして、遊ぼうか。
「うーん……ノアリ、なにかしたいことはあるか?」
「し、したいこと?」
考えても特に案がでないときは、とりあえず相手の意見を聞くに限る。あまり自分の主張をしなさそうなおとなしめの子だが、こうしてこちらから聞き出せば意見を出してくれるかもしれない。
それに、相手のしたいことに合わせる方が下手なことを考えないで済む。相手のしたくないことを強要してもいけないし、ノアリの雰囲気だと嫌なことは嫌とは言えなさそうだし。なら、ノアリ自身にやりたいことを言ってもらう方がいい。
「……わかんない」
おぅ、わかんないときたか。
「その、私……同じくらいの子と、遊ぶの、初めてだし……」
「あぁー」
なるほど、そういうことか。同じくらいの子と遊んだ経験がないから、なにをすればいいのかわからない。参ったな、それじゃ俺とまるっきり同じじゃないか。
なら……
「わからないならわからない者同士、話でもしないか? そこにベンチがあるからさ、座って」
「! うん」
別に、遊ぶったって固く考えることはない。要はこのお嬢様を、時間が来るまで退屈させなければいいのだ。
会話なら、お互いのことをよく知ることができるし、趣味なんかも知ることができる。知ることができたならば、次に彼女と会ったとき、その趣味で遊べばいい
「ええと……ノアリ、趣味は?」
ベンチに隣同士座り、会話を切り出すが……お見合いか! 我ながら会話の切り出し方が下手すぎる。
それに直球すぎるだろ。
「ええと……特に、ないです」
「……そう」
会話終わっちゃったよ! どうしてくれんだよこの空気! 誰だ趣味の話持ち出したの! 俺だよ!
まあ、ノアリくらいの子が趣味っていっても、わかんないか。おまけに家は上級貴族、自分が楽しいと思えるものに出会えるかも怪しいものだ。
はー、いきなり会話間違えた……そういえば、内容はともかく転生前は故郷の奴らとそれなりに会話とかはしてたけど、転生してからのこの5年間、身内以外としかも2人きりで喋ったことがあっただろうか……
「でもあの……本を、読むのは、好き……」
「ぉ……」
会話が途切れ、失敗したと後悔していたが……会話を続けようとしてくれているのか、ノアリが続きを話し始める。
本、本か……転生前の故郷では、本は高価なものだからあまり出回っていなかった。しかし、この王都ではそこそこに本にふれあう機会がある。家にもかなりの本がある。だから、夢中に読みふけったっけな。
「そ、そうなんだ。俺も、本は好き……かはともかく、結構読むかな」
「ほ、本当? あのね、私のお気に入りの本がね……」
思いの外、趣味の話をきっかけに話が盛り上がってきたな。それでわかるのが、おとなしめな少女だが、自分の興味の強い話になるとわりと喋る、ということか。それに、お気に入りの本があるというのも教えてくれた。
その本のタイトルは、忘れてしまったが……要は、王子様がお姫様を助け出すという、言ってはなんだがベタな話だ。だが、ただ非現実な話というわけではなく、現実にある要素がいくつか描かれている。
その本は読んだことないが、俺が読んだことのあるいくつもの本に出てくるものがある。それは俺が転生前故郷でも聞いたことのあるもので、本に出てくるのはこの世界の守り神と言われる『竜王』だ。
ノアリが話してくれた本の内容は、将来を誓いあった王子様とお姫様、しかしある日お姫様が病に伏せてしまう。その病は治療方法がなく、決して治せないとされている。だったただ一つの方法を除いて。
それが、守り神『竜王』の血を飲ませるというもの。『竜王』の血はあらゆる難病を癒し、不治の病もたちまち回復させるという。王子様はお姫様のために『竜王』の血を求め旅をして……まあいろいろあったが、見事『竜王』の血を手に入れお姫様は回復し、王子様とお姫様はより深い絆と愛情で結ばれる……というもの。
実際に、この世界で守り神とされている『竜王』を題材にしたお話。それが絵本か小説かは知らないが、ノアリはかなり気に入ったようで、目を輝かせながら話してくれた。
あのおとなしめな少女がこれほどまでに、熱弁してくれるとは。女の子はそういう話が好きだな……ミーロも以前、白馬の王子様に憧れるとかなんとか言ってたっけ。
「それからね、えっと……」
「おーい、ノアリー」
「あ、お父様……」
会話、というよりは思いの外白熱したノアリの話を聞く形になっていたが、その時間も終わりが訪れる。ノアリを呼ぶのは、先ほどまで家の中にいた男……ノアリの父親だ。
どうやら話は終わったらしい。それほど話し込んでいたのか、時間の経過は早いものだ。
「キミがヤークワードくんか、ノアリが世話になったようだね」
「いえ、そんな……」
結構ガタイがいいが、気さくな人だ。蓄えた顎髭は貫禄すら感じさせる。
「お父様、お話は終わったの?」
「あぁ、待たせてすまなかったな」
父親が迎えに来たことでわかっていたことだが、見解を受けてノアリはどこか寂しそうだ。さっきまでの白熱具合が嘘のよう。
あんなに楽しそうだったもんな。おそらくだけどひとりっ子……ああやって楽しく話せる相手がいないのだろう。
だからだろうか。
「あの……ヤーク。また、ここに来て、一緒に遊んでもいい?」
少女が、勇気を振り絞ってそう言ったのは。その答えは、たったひとつだ。
「あぁ、もちろん。だって、俺たちはもう友達だろ」
「! うん!」
不安そうな表情は、弾けるような笑顔へと変わる。年相応の、かわいらしい笑顔に。自然と俺は、彼女に手を差し出していた。彼女もそれに応じ、固い握手を交わす。
そして帰っていくノアリを見送りながら、俺は思っていた。
友達、友達……あぁそうか。俺、転生してから初めてできた、友達なんだ、ノアリが。
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