復讐の転生者 ~仲間に殺された男は、かつての仲間の息子となり復讐を決意する~
白い彗星
第1章 復讐者の誕生
第1話 プロローグ
----------落ちていく。
「じゃあな、……、今まで、ごくろ……さん」
----------落ちていく。
「ごめんね、……、……楽し……よ……」
----------落ちていく。
「これでよかっ……、本当に…………?」
----------落ちていく。
「……、さよならだな」
----------落ちていく、落ちていく、落ちていく。意識が、沈んで、落ちて、消えていく。
手足の感覚は、ない。意識も、もはや消えつつあるという自覚があるのみ。あぁ、どうしてこうなったんだっけ。
今俺の視界には、青が広がっている。青……清々しいほどの、青。それは正確には空だ。雲一つない晴天。本来なら、気持ちのいい快晴だと喜びに満ちるところ。だが、今に限ってはその清々しさが憎らしくすらある。
今ここで、確かに命が消えつつある俺を、その青々さがあざ笑っているかのように思えて。
「……、悪く、思うなよ?」
誰かが、俺の傍に立っている。俺を、見下ろしている。誰だ……男の声だ。口を開こうにも、うまく言葉が出てこない。出たとしても、それは言葉でなく動物のような呻き声だ。
……あぁ、思い出した。俺を見下ろしているこいつは俺の冒険者仲間。この度魔王を討ちとったことで『勇者』の称号を得るはずの男だ。名前は、そう……なんだっけ。
俺の名前は、なんだっけ。それに、周囲の音も思うように聞こえない。話し声は聞こえるのに、所々虫食いのように、一部分だけが聞こえない。耳も、やられてしまっているようだ。
「ねえ……そこまで、しなく……じゃない?」
「念には……をだ」
視界の端で、なにかが光る。それは、剣だ……先端には、赤黒い液体がついている。あれは……血か。これまでに何度となく、それを目にしてきた。だからわかる。そしてそれが誰のものか、考えるまでもなく……血を見た瞬間に、思い出した。
あぁ、そうだ。俺はこの男に、刺されたんだ。魔王を倒すために、仲間の一人として共に冒険をして、ついにその念願が叶った。魔王を倒し、国に戻る。その事実に、俺は、俺たちは喜びに震えていたはずだ。
その最中……信頼していた、背中を預けられるほどに信頼していた仲間から、俺は刺された。ご丁寧なことに正面から。心臓の位置を、寸分狂うことなく。
この男……そう、ガラドに、俺は刺されたのだ。ガラドは、親友だった……だと思っていた。まさか、そんな相手から刺されるとは、思ってもみなかった。正面から無防備で、相手からすれば刺すのにこれ以上の適任はいない。
しかも、剣術の達人だ……たった一太刀、その狙いは的確だ。なのでたとえ親友だからと油断していなくても、俺は避けることもできなかっただろう。
刺された直後は、体が熱くて仕方がなかった。だというのに、今は体が冷たくなっていくのを感じる。体温がなくなっていく……確実な、命を奪う一太刀。
「……げふっ」
あぁ、痛いなあ。でも、変な感じだ。意識が
「なんだ、……、まだ、息が…………」
ガラドは、血の付いたままの剣の切っ先を俺の喉元に当てる。チクリとした痛みが走る。あぁ、本当にとどめをさすつもりなのか。俺は親友だと思っていた男に殺されるのか。なんでそんなことをしたのか、理由も、わからないまま。
嫌だ、いやだいやだ。でも、いくら抵抗の意思を持っても体は動かない。俺一人じゃ、なにもできない。誰か、助けて……
「あの、ガラド……やっぱ……まで、しなく……」
……ガラドとは別の声。女、か? ガラドになにかを言っている……まさか、ガラドがとどめを刺そうとしているのを、止めようとしてくれているのか?
そう、そうだ……ガラド以外にも、旅を共にした仲間がいる。バカなことは止めさせて、俺を……助け……
「ぁ……」
ガラドになにかを言っている女……その横顔が視界に映り、俺は小さく声を漏らしてしまう。絞り出すような、か細い声だった。
美しい、女性だった。それは、ガラドと同じく冒険を共にしていた女性であり、俺の幼馴染でもある人だ。名前は、そう……ミーロ。
ミーロは、俺の幼馴染で……俺の、初恋の相手だ。そして現在進行形で、好きな女性でもある。共に冒険していた、相手だ。この戦いが終わったら、告白しようと思っていた。ミーロがどう思っているかはわからないが、嫌われてはないはずだ。
その自覚はあった。そうだ、彼女ならガラドのバカな行為も、止めてくれる。そして、キミの『癒しの力』で傷を治してくれ……
「なぁに言って……ミーロ。俺は、徹底したい……だろ?」
「でも……」
言い争っているような二人の姿。その内容はよくは聞こえないが、次の瞬間、目の前で、目を塞ぎたくなる光景が広がる。驚くことに、ガラドがミーロの肩を抱いたのだ。
抱き寄せ、口元には笑みを浮かべ……それでも何事か言おうとするミーロの口を、塞いだのだ。
……ガラドの、唇で。
「っ……!?」
目の前で起こっていることが、理解できない。ガラドが、ミーロの肩を抱き、抱き寄せ、その唇に口づけを交わしている……!?
なんで、どうして……二人は、そういう関係? いや、そんな素振り少しも見せなかった……嫌だ、やめろ。その光景を見せるな。なんでこの光景だけが、朦朧としているはずの意識に強く残るんだ。目を塞ぐための手も、閉じるための瞼さえも、自分の意思では動かせない。
しかも、一番驚くべきことだったのが……ミーロが、それに抵抗する様子がない。まったくだ。受け入れてさえいる。
「……っ」
今すぐ、このもやもやした感情を吐き出したい。なのに、声が出ない。息を吸い込むと、胸が痛い。この痛みは、目の前の光景に対してなのか、それとも死が近づいて……
「ちょっと……、見せつけて……わよ」
「はは、悪いな」
……また、別の声だ。そうだ、この場には……俺以外に、四人の人間がいたではないか。思い出した。
ガラド、ミーロ、そしてもう二人……俺たちは五人で、共に冒険をし、魔王を討つという同じ目的を志した仲間だった。仲間のはずだった。それが、どうだ……
倒れ、命の危機に瀕している俺を、誰も助けてはくれないではないか。心配して、駆け寄る素振りすらない。俺はガラドに、いやミーロも含めた仲間に、捨てられたってことか……
「見ろ、泣いてるぜ。こいつ、お前のこと好きだったもんな?」
「もう……やめてよ」
「いいから、終わらせるならさっさと終わらせてよね」
「へいへい」
捨てられた……それを意識したとたん、声が聞こえやすくなった。さっきまで体もじんじん痛かったのに、その痛みも薄れている。これは、まさか治っ……
……いや違う。あぁそうか……もう、ダメなんだ。仮に今から、『癒しの力』で治してくれたとしても、もう……間に合わないだろう。それに、そんなことをしてくれる素振りはまったくない。
なにをしても、もう、間に合わない。
「じゃあ、これでホントにさよならだ……あばよ、今日まで役に立ってくれてありがとうよ、感謝してるぜ。ライヤ」
それはただ、形だけの感謝の言葉。死していく俺に、気持ちの一つもこもっていない言葉。
それを最後に、ガラドは俺の……ライヤの首を、その剣で貫いた。痛かったのは一瞬で、永遠と続くと思われた痛みも、死への恐怖も、次の瞬間には消えて……
……
…………
………………
……………………
…………………………
………………………………
……………………………………
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………………………………………………
……………………………………………………
----------あ、死ん…………
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