第14話 暴露
『ザザ……えーと、まず先に、これを見ている貴方に言わせて。こんなモノしか残せないのは、私だって本当に不本意なの。だって私、あなたたちドロイドが大好きなんだから。本当は規則違反なんだけど、これで許してくれるかしら?』
電源を入れた途端、パッドの投影機から――ドクター・ハロディンのメッセージ・ホログラムが浮かび上がったのだった。
『もしかしたら、君たちドロイドも何か察してたのかな? 最近急にシフトが増えたこととか、節電が厳しくなっただとか。明日の朝、あなた達が起動する頃には私はここにいないけど、どうしても……知る手段だけでは与えてあげたくて』
『『……?』』
二体はじっと、その青白いホログラムを見つめる。架空のホロカメラ越しにハロディンの虚像は、しかし二体をしっかりと見つめ返した。
『私の口からは多くを言えないの。代わりに資料をたくさん用意したわ。信頼できる情報よ? ドロイド医師をしてる傍らで、ちょっとしたハッキングも心得てるから……、助手のネヴィにも手伝ってもらったの。これを読んでくれれば、今の状況はよく分かると思うわ、多分ね』
『『……なるほど?』』
『用意したファイルは、このデータ・パッドに纏めとく。ぜひ目を通してほしいの――その勇気があればね。本当に、こんな状況になってごめんなさい。お願い許して。そして私、あなた達が本当に大好きよ』
ヒュィーン。
メッセージが消え、診療室に静寂が戻る。
『……だっテよ、34667号?』先に沈黙を破ったのは、ショーティだった。『何ダろう、パンドラの箱を開けちャっタような気分……』
『そう、だな……』
34667号には、これからの出来事を受け止める自信がなかった。
自分の手に余る、そう強く感じる。誰かに話せば、例えば班長にでも伝えれば、この息苦しさは軽くなるのだろうか?
いっそショーティとだけの秘密にしておくか? どの道三日後には〝死ぬ〟身なのだから。
秘密なんて墓場まで持っていけ。
知らないほうがいいこともある。
そしてドロイドは、プロトコルに従う。そうするよう生み出された。
パッドの電源を切るんだ。何もなかったと自分たちに言い聞かせるだけでいい。
それだけで、それだけで……。
それだけで?
パッドを見下ろす。
消えたメッセージの代わりに、今はいくつかのファイルが表示されていた。
――私の手には、何かを変えれるかもしれない鍵がある。
変えられる、何かを変えられるんだ。それも
ドロイドにだって、感情はあるんだ。
畜生、と言葉を漏らす。いったい何だ、何なんだこの昂ぶりは?
『34667号、どウするの?』
片言の質問に答えた彼の電子音声に、迷いはなかった。
『決まってるだろう、ドクターを信じるのさ』
(以下、資料からの抜粋)
〔第七次戦争、ケラヴァス国が劣勢か 連合国の攻勢強まる〕
《騒乱の絶えないレギーラ山脈一帯。その地域をめぐる争いも、今や終わりが近付いているようだ。
レギーラ山麓は古くより、その豊かな鉱物資源とその好立地から、軍事産業の中心地として栄えた。現在この地を実効支配しているのはケラヴァス国、およそ70年前に武力で一帯を領土に組み込んだ。しかし近年、かつての領有国が連合を組み、山脈一帯の奪還を狙って勃発したのがこの第七次戦争だ。
開戦から約一年が経った今、その戦力差は明らかとなった。連合国の標的は目下のところ、ケラヴァス国の中枢工場、《ケラヴァス・レギーラⅣ》。同国最大の軍事工場にして、中核を担う兵器廠でもある。》
〝ケラヴァス・レギーラⅣ〟
それは、この工場の名だった。
《軍部からの情報によると現在、連合国の攻撃部隊が現地に進軍中。ケラヴァス側は施設を放棄する見通しだが、攻撃部隊の第一任務は工場の完全な破壊のようだ。情報筋によると、総攻撃開始は三日後の夜間。この戦争の終わりも近いのかもしれない》
新聞記事の最後には、彼らの国のものでない紋章が押されていた。
『三日後、か……』34667号は呟く。
〝私の機能停止日まで、あと三日〟
冗談じゃない。
ここに至って、彼は理解した。人間は消えたのではない。彼らドロイドの方が見捨てられたのだ。
それはつまり、彼らが『ドロイド』である理由でもあった。
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