蓋天のミストガルド

ももすけ

プロローグ 蓋天の街へようこそ

 その街は歪なうなりを上げていた。


 血管のように張り巡らされた配管パイプ孔食ピンホールから蒸気が吹き、空を覆う煙突群は炎とともに激しい音を立てながら煙を上げている。これらはいずれも錆まみれであった。


 ある者はここに暮らす人々の怒りと表現し、またある者は愚かな人々を憐れむ神の嘆きと嘯く。


 そんな惨状でも、住人たちは無関心であった。汚染された空気を吸わないよう、マスクをしなければ生きていけない彼らの日常は、日々を凌ぐだけで精いっぱいだからだ。


 黙りながら仕事をこなし、魔物の襲撃を恐れながら、隣人の顔も知らずに生きている。蒸気と煙に閉ざされているこの街で、視界は晴れることは無く、明日すらも見えない。


 しかし、心のほんの片隅で信じていた。言い伝えにある『救世主テンシ』の存在を。


「それは空から舞い降り、人々を空へ運ぶであろう――」


 誰が言ったか定かではないが、それは心の錆びついた住人たちの、一縷の望みであった。


 そして今、それは人知れず現れた。彼が目醒めたとき、世界が変わる。


 街の名は『ミストガルド』。救世主テンシの名は、まだ無い――

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