SPOOKS 視えてる僕とちょっぴり怖いアレやコレ

三歩モドル

第1話 僕の父親

『皆さんには霊魂が見えてはおられぬでしょう、しかし!彼らは常に、あなたのいつもすぐそばにいるのです!私には見えます……あなたのすぐ真後ろに──』


──ブツン。


「おぉッ!?何をするのだ霊一れいいち!」

「僕の名前は俊一郎。決してあんたみたいには偽名を使わないからね。……しかし、また見てたの?『自分が売れてた頃の番組』」

テレビのリモコンを手に取ると、僕は畳の上で座禅の座り方の男を睨みつける。ややギョロリとした力のある眼と太い眉毛に彫りの深い顔立ち。白い装束に身を包んでいて、体は痩せているものの骨格は割にしっかりしている。

「ぬぐぐ……熊谷 禊くまがい みそぎの輝かしき軌跡をなんと心得る!」


この熊っぽい髭を生やした仙人もどきみたいな格好をしているのが僕、中津 俊一郎なかつ しゅんいちろうの実の父親である中津 俊夫なかつ としお。熊谷なんとかは偽名、というか芸名であり、嬉々としてそれを名乗っているあたり父親のヤバさが窺えるだろう。


父親の職業は自称霊媒師、または祓い屋とかそんな感じのものだ。昔オカルトが流行っていた頃には多少売れたものの、今となっては著書は在庫にあったら即座に破棄したほうがみんな幸せになれるレベルのものであり、いいとこ枕か焚き付けかである。今時の本屋では1円とかもしくは資源ごみ行きなんだろうけど、またぞろ本を書き出しているという。

パチモノなんだから、やめればいいのに。


とにかく今はほぼ無職、ギャンブルや酒をやらないだけマシだと思うしかない。ごくたまに、本物の祓い屋のお仕事に呼ばれることもあるけれど、仕事の機会が稀すぎて稼ぎもない。


そして当然ながら母さんは妹を連れて逃げ、流石に母さんの負担が大きすぎるためか僕は父の元に置いて行かれて、月に数度会う関係になっている。

そのことに不満はないのだけれど、毎日父親の相手をしなきゃいけないのが現状の最大の不満点である。

何せ、口を開けば胡散臭い除霊法だったり体の清め方について文句をつけてきたりと絶え間なく鬱陶しい話をし続けるのだ。イライラするを通り越して呆れてしまう。


僕は自分で詰めた弁当を持って高校に行く。授業料の無償化についてはありがたいけれど、教科書もできればそうしてほしかった。最近は鶏肉以外を食べていない気がする。牛肉の味なんて思い出すのも難しい。

とはいえ、生活に心底困窮しているわけでもない。預貯金をじわりじわりと切り崩していく今の生活が嫌なだけで、それ以上に問題はない。大学も今の成績ならば問題なく志望校に行けるとあるし、奨学金制度だって最悪ある。僕の希望する職種は安定して稼げればいいという理由で公務員である。


さて、ここまでさんざ父のことをこき下ろしてきたのだけれど、それにもちゃんと理由がある。


僕が父のことを偽物扱いするのは、僕がいわゆる『視えるヒト』であるからだ。しょぼいけどいくつか霊能力者としての能力も扱える。

ちなみに、父が祈祷している横でべろべろばあ、とバカにしている幽霊の姿もいくつも見てきたし、成仏させたり追いかけられたりして酷い目に遭いかけたこともある。父の祈祷で成仏した例だけれども、本当に見たことがない。


「じゃ、行ってきます。お昼ご飯は冷蔵庫ね」

「む、今日は夕食はいらぬぞ。外での仕事が入ってな」

「へえ?じゃあ飯おごってよ。一人ぶん作るの面倒だし」

「……あ、相手方が料理屋に連れて行ってくれると言っていたのでな……いきなり人数が増えると……」


昨日はそんなこと一言も言っていなかったじゃないかとじろりと父親を睨むと、少し気まずそうに視線を逸らした。しかしスカスカと音にならない口笛を吹いているあたり、心の底から気にしているわけでもないんだろう。

「僕は、行くからね」

僕はそう宣言して、はあ、と溜息を吐いて集合場所を聞き出した。


タダ飯であれば便乗しない理由はない。

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