揺らぐ春

春の訪れはいつも少し冴えた空気と共にある。

風爽やかなのも頷ける。

そう。

そうでなければいけない。

冬の気配を微塵も感じさせることのない暖かく穏やかな春など望めない。

急激に様変りしないのが心地好い。

地鳴りを連れた突風に大判の雪が舞う。


春一番。


三寒四温を繰り返し風が温み始める。

直ぐに溶ける雪。

冬とも夏とも似つかぬ青空から柔らかな日差しが届く頃、春は吹き荒ぶ。


蓬田たっぷりの濃緑に染まる餅と一晩かけて拵えたこし餡。緑薫る中、甘味がじんわりと増していく。作り手の祖母はかなりの甘党だった。

苦味の利いた蕗の薹の青臭さ。

春の薫りに包まれながら過ごした幼少期はいつも祖父母の面影と共に揺れる。

日毎朧気になっていく記憶…我ながら切ない。


直に蕎麦が実る。

実を挽いて粉にし微温湯を注いで形を成していく。蕎麦打ちは力が要る。祖母がリウマチで手を痛めると祖父が力強く捏ねていた。

普段より幾分…かなり太めに切られた蕎麦は、薫り高くそのままの味がした。


そんな季節へ移り変わる前。

気付かぬ内に春はゆく。


淡桜の顏が匂い始めた。

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