第641話 どうやら怯えているみたいだ
「なんですかその目は。『なんでトラブルの渦中にはいつもお前がいるんだ』とでも言いたそうな目ですね」
「駆けつけるなり随分な挨拶じゃないかフィールド」
魔物を回復魔術で治療し終えた私は、とりあえず誰かが呼びに行った先生が来るのを待つことにした。
さすがに私たちだけで判断するには、手に当たる事案だと思うから。
そんなわけで、数分後先生を呼びに行った女子生徒が帰ってきた。
彼女が連れてきたのは、私もよく知る人物。担任のサテラン先生だ。
「まあ、そう思っているのは否定しないが……」
「いや今回はあれですやん、通りがかっただけですやん」
通りがかっただけでトラブルの渦中にされたら溜まったものじゃない。
それに、言うほど私はトラブルの渦中にはいないと思うんだけどな!
……いないよね?
「ま、話は来る途中に聞いた。はずなんだが……少し、内容と違うようだな?」
先生は、周囲を見た後に私を、そして私が抱いている魔物を見る。
聞いていた内容と違う、か……それはそうだろう。
女子生徒が先生を呼びに行ったのは、私たちがここに来る前のこと。
先生を呼びに行っている間、ここではなにが起こっていたのか知るはずもない。私たちがいることや、魔物を回復させたこと。
「この子を治したのは私の独断なんです。彼女を責めないであげてください」
「いやそんなつもりははじめからないが。
……それにしても、魔物か」
先生は、私の腕の中にいる魔物をじっと見つめる。
回復して動けるようになったはずだけど、魔物はおとなしく私の腕の中にいる。毛並みはふわふわだし、抱えやすい大きさ。
正直、ちょっとかわいい。
「先生、そんな怖い顔しないでください。一応この子怪我してたんですから、怖がらせたらかわいそうですよ。ね?」
「悪かったな目付きが悪くて。生まれつきなんだ」
先生の視線が、じろりと私を見た。いやん怖い。
ともかく、腕の中の魔物は先生の視線に怯えているのか、体をびくびくと震わせている。
いや、怖がっているのは先生だけじゃない。身を縮めて、周りの子たちに対しても怯えている?
これは、見つけた時に怪我をしていたのと、関係あるんだろうか。
「なんで学園の敷地内に魔物がいるのか……まあ、それはいい。今は休校中だし、普段ほど監視は行き届いていない。
問題は、この国に魔物がいることだ」
しばらく魔物を観察した後、先生は少し離れて腕を組む。
学園の敷地内にいたことよりも、この国に魔物がいることの方が重要だという。
ただし、国の中に魔物が出現した事件は、数日前にあったばかりだ。
「じゃあこの魔物は、魔導大会事件の打ち漏らし……ということですか?」
「断定はできんがな」
魔導大会の事件で、たくさんの魔物が現れた。そのことを指摘するナタリアちゃんに、先生は断定はできないと言いつつほぼ確信を持ってうなずく。
この子が、あの事件で打ち漏らしてしまった魔物だと。
あの事件では、会場にいた人たちが頑張って、被害を最小限に食い止めたって話だ。
それでも、全部が全部丸く収まったわけではない。
壊された建物や怪我をした人たちがいる。
今回のように、打ち漏らした魔物がいる。そして一匹いた以上、他にもいるかもしれない。
「だが……こいつが、そんな凶暴とは……はっきり言って、見えん」
先生の言葉には、私も同感だ。
こんなに小さくて、かわいらしいフォルムの魔物。この子が、みんなを怖がらせるようなことができるとは思えない。
けど……
『魔物である以上、見た目に惑わされてはいかん。いや、魔物でなくとも、側と内なるものが異なっていることは多々あることだ』
頭の中で響くクロガネの声に、私は小さくうなずいた。
相手が魔物なら……いや魔物じゃなくても、見た目で判断するのは危ない。
かわいい見た目でも、実は凶暴だってこともあるのだ。
これは、師匠にも言われたこと。見た目で相手を判断すると、後で痛い目を見ると。
……まあ、本当にわかってなかったと思うけどね。だから、ビジーのことちっちゃくてかわいい普通の女の子だと思ってたわけだし。
「今のところ、敵意は感じられないです」
魔物から、敵意は感じない。感じるとしたら……それは、怯え。
周囲のみんなは、魔物という存在に動揺しているし、震えている子もいる。だけど……
この魔物の方が、私たちに対して怯えているような……
「ともかく、その魔物をどうするかだが……なぁ、フィールド。どうしたら良いと思う?」
「へ?」
なんでこの魔物の処遇を私に求めるの!?
「いやな? たとえ我々に敵意がなくとも、魔物を放置するわけにはいかん。モンスターと違い、ただ野生に返せばいいというわけでもない。
ならば、誰かの管理下に置くべきだと思うが……フィールドは、誰が適任だと思う? んん?」
先生が、チラチラと……というか、私に意味深な視線を向けてくる。丸わかりだ。
これは……あれか、つまり……
「私に面倒を見ろ、と?」
「まさか、そうまで言うつもりはないさ。ただ、魔物に変な動きがないか、つきっきりで見張ってほしいというだけの話だ」
「普通こういうの、先生が率先してやってくれるものじゃないの!?」
「なに!? 私に任せろ!? そうかそうか、そこまで言ってくれるなら任せるしかないな!」
「あれ、話通じてない!?」
先生、面倒事私に押し付けやがった! しかも話聞いてくれない!
なんてこった……しかも、周囲からもなんか私が面倒見る空気になってる!?
「まあ……エランくんなら、みんな認めざるを得ないというか……率先して魔物に近づいたのは、失敗だったかもね」
「あれで皆さん、エランさんならって気持ち強くなっちゃってますもん」
「そんなぁ!?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます