第581話 男運ないよね
リーメイ相手には、シルフィ先輩がいつもより柔らかい気がする。
いや、いつも私に対して刺々しいから、私以外だと柔らかく見えるだけかな。
でも、他の人と話しているときもあんな顔赤くなってはいないような気がするしなぁ。
「彼女が、例の人魚族の」
「あ、はい」
リリアーナ先輩たちには、ここに来るまでの間にリーメイのことを話しておいた。
魔大陸から帰ってくる最中、ウミで溺れていたのを助けたこと。この国にはいないニンギョという種族だったこと。リーメイのおかげでいろいろうまくいったこと。
そして実際に、リーメイのおかげでいろいろと解決した。
その件で、リリアーナ先輩はお礼を言いたいようだ。
「人魚とは、初めて見ましたね」
「あ、先輩もそうなんですね」
「えぇ。かわいらしい女性ですね」
リリアーナ先輩はいつもツンとしているけど、実際には面倒見がいい。特に女の子には優しい。
私にも良くしてくれているし、学園で"魔死事件"がったときも第一発見者の女の子には優しかった。
それからリリアーナ先輩は、話が一段落したのを見計らってリーメイのところへと歩いて行った。
「うーん、そういえばリーメイ、学園に通いたいって言ってたな……
そもそも学園は、いつまで休校で……」
「フィールドさん!」
「うぉっ、ノマちゃん」
現在休校になっている魔導学園。その状況について、あとでゴルさんに聞いてみよう。
そう思っていると、後ろから声をかけられた。ノマちゃんだ。
び、びっくりしたなぁ!
「ど、どうかしたの?」
「ど、どど、どうしましょう!」
「だからどうしたのってばさ」
「ここ、コーロラン様が! コーロラン様がいますわ! それも私服で!」
慌てた様子でノマちゃんがチラチラと見ているのは、ゴルさんの近くにいるコーロランだ。
彼は……というかみんなは、制服ではない。当然だ、学園じゃないんだから。
コーロランは、ノマちゃんが想いを寄せている相手。
そしてその想い人の私服姿を、間近で見ている。
ノマちゃん的に、それはもう大興奮なわけだ。
「どどど、どうしましょう! コーロラン様の私服ですわよ! はぁー、まさに私服ですわ!」
「そ、それはよかったね?」
「わ、わたくしの服、変ではありませんわよね? 大丈夫ですわよね? お下品だなんて思われていませんわよね?」
「大丈夫、かわいいよ」
というか、あのメイド服姿を少しとは言え見せてしまったんだ……
あれ以上にお下品な服もそうそうないだろうと思う。
似合ってはいたけどさ。
それにしても、ノマちゃんがコーロランに一目惚れしてからしばらく経つけど……想いは消えるどころか日に日に大きくなっているようだ。
いざという時は、私はノマちゃんを応援するつもりだけど……
相手は王族、しかも婚約者がいる。
どうなるかは、そのときにならないとわからないや。
「というかノマちゃんは、コーロランに告白はしないの?」
「こっ、こここここ! ここここ!?」
うわお、面白い。顔真っ赤だ。ニワトリみたい。
ノマちゃんの性格なら、「当たって砕けろですわ!」みたいにすぐに告白しに行きそうなもんだけど。
やっぱり相手が王族だから遠慮が勝っているのか、告白ともなると慎重になってしまうのか。
「わ、わたくしは告白なんて、そんな……そんな、大それたことは……」
「わ、悪かったよ」
ついには両手で顔を覆い、恥ずかしがってしまった。
こりゃ本格的に、やられてしまっている……恋というやつに。
うぅん……私も誰かに恋をしたら、こんな風になるのかしら?
「……想像できないなぁ」
自分でその光景を想像してみるけど、全然イメージが湧かない。
そもそも自分が誰かに恋をする、なんてのが想像できない。
私に近い男と言えば……ヨルやダルマスかなぁ。うーん……うぅーん……
筋肉男やエレガたちは論外として……
あれ、私ってあんまり男運ない?
「どうしたの、エフィーちゃん」
「いや、我ながら男運のなさに驚いているところでね」
「? エフィーちゃん、男欲しいの?」
「ううん全然」
……ゴルさんにもコーロランにも婚約者がいるけど、そういえばコロニアちゃんはまだいないって言ってたっけな。
王族だけど、長女であり兄も二人いるから、そこまで急がなくていいってことだ。
ただ、そうした時間も、そう長くは続かないんだろうな。
「さて、と。じゃあここは王族の皆さんに任せて、私は学園に戻ろうかな」
「あら、ではわたくしも……」
「私は構わないけど……レーレちゃんは大丈夫?」
私がここに残っていてももう出来ることはないし、学園に戻るか……
そう考えていると、はいはいとノマちゃんが手を上げる。
ノマちゃんはずっとお城でメイドさんやっていたから、久しぶりに学園に戻りたいってのもあるんだろう。
ただ、さっきからノマちゃんにしがみついているレーレちゃん……彼女を、どうするか。
洗脳されてたのは、あくまでレーレちゃんたちが王族として認識されてたってこと。
レーレちゃんがノマちゃんに懐いていたのは、本当の気持ちだ。
そのノマちゃんをレーレちゃんから引きはがしたら……なんか、泣いちゃいそうだ。
「んー、まあ今はレーレちゃんを見ててあげてよ。
それに、せっかくならコーロランと距離を縮めちゃいなよ」
「なっ……」
ノマちゃんの耳に口を近づけて、言う。
婚約者がいる相手に、こんなこと言っていいのかわからないけど……コロニアちゃんが言うには、コーロランと婚約者の仲はよろしくないみたいだし。
それに、どうするか決めるのはノマちゃんだ。私は、少し後押しをするだけ。
この場をみんなに任せて、私はお城を飛び出した。
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