552話 先生たち



 ナタリアちゃん、フィルちゃんと別れた私たちは、魔導学園の理事長室へと向かう。

 昨日とは違って、ルリーちゃんも一緒だ。


 朝早くに来たわけだけど、起きている生徒もわりといる。

 時折話しかけられながらも、足取りはそのまま理事長室へと向かっていき……


 部屋の前にたどり着き、ノックをしてから扉を開けた。


「失礼しまーす」


「し、失礼します」


 私と、私に続いてルリーちゃんが部屋の中に入る。

 私はもう何度目になるかわからないけど、思えばルリーちゃんが理事長室に入ったのは初めてなのかもしれない。


 部屋の中には、昨日と同じメンバー……だけでは、なかった。

 一人多いな。あ、なんか見覚えがある。


「せ、先生?」


「よぉ、元気そうだなルリー」


 その人物を見て、ルリーちゃんは声を上げた。

 それに応えるように、その人物が手を上げる。


 先生、って……あぁ、なるほど。見覚えがあると思ったら、ルリーちゃんのクラスの担任だ。

 確か、魔石採取の魔獣騒ぎの件で、駆けつけてくれた人だ。まあ、駆けつけたときにはすでに魔獣は凍らせて終わってたんだけど。


 そういえばあの魔獣、学園の地下に保管してあるって言ってたけど、結局どうなったんだろう。


「理事長に、校長教頭。私とルリーちゃんの担任の先生か……」


 昨日はいきなりだったし、私しかいなかったからサテラン先生だけだった。

 でも、あらかじめルリーちゃんを連れてくると言っておいたから、ルリーちゃんのクラスの担任もいるわけだ。


 それにしても、中々の顔ぶれだなぁ。おえらいさんがいっぱいなんだもの。

 それに緊張してから、ルリーちゃんが震えているのがわかる。


「まあまあ、ルリーちゃん落ち着こうよ」


「な、なんでエランさんはそんなに落ち着いてるんです」


 ルリーちゃんを落ち着かせるために、私は小声で話しかける。

 なんで緊張しないかと聞かれると、そりゃあこれまで王族含めていろんな人と接してきたし……


 それに……


「名前なんだっけなって気になって」


「!? お、覚えてないんですか!?」


 ないです。

 というか、理事長とは何度か話したし名前も言ってもらった気がするけど、校長や教頭とは話したことすらない気がする。


「エランさん、やっぱりすごいですね、いろんな意味で」


「どういう意味さ」


「いいですか。まず魔導学園理事長の、フラジアント・ロメルローランド先生。

 あちらが魔導学園校長、ゼシリアス・マーマレンヒ先生。

 それから魔導学園教頭、ノルワルド・レンブランド先生です」


 私のためにわざわざ説明してくれるルリーちゃん。

 ありがとう! やっぱりすぐは覚えられそうにないけどね!


 その三人に加えて、「ドラゴ」クラス担任のヒルヤ・サテラン先生。

 その隣にいるのが、「ラルフ」クラス担任の……


「ルリーちゃんの担任の先生の名前は?」


「……ジャルドル・サイン先生です」


 気のせいだろうか、ルリーちゃんからちょっと呆れたような雰囲気を感じた。


 ともあれ、全員の名前を聞いて私は改めて周囲を見回すと……

 ふと、気にかかることがあった。


 ……ん? レンブランド……?

 どぉっかで聞いたことがある名前のような……ええと……


「あ! カリーナちゃんの!」


 そうだ、カリーナちゃんの家名だ。気がついた私は、急に声を上げてしまった。

 カリーナ・レンブランドちゃん。魔導学園入学初日に、私とクレアちゃんをお茶会に誘ってくれたクラスメイトの子だ。


 貴族の身でありながら、貴族と平民の平等な世界を目指しているのだという。

 私の声に驚いたのかルリーちゃんは目を丸くして、当の教頭もまた驚いた様子だったけど……


「……エラン・フィールドくんか。確か、カリーナと同じ組の……お話は、よくよく聞いているよ。

 こうして対面するのは初めてだね。カリーナの父だ」


 と、すぐに調子を取り戻して笑顔を浮かべてくれた。


「あ、どうも。カリーナちゃんのお友達です」


 私もペコリと、お辞儀をする。

 私のことを知って……はいるか。自分で言うのもなんだけど私有名人だし。教頭ともなれば。


 でも、そういう意味じゃなく、私のことはカリーナちゃんから聞いていたようだ。

 カリーナちゃんってば、私のことお父さんに話していたのかぁ。


「えへへへへへ」


「エランさん」


「ぁ……う、んん! ごっほん!」


 いけないいけない、顔が緩んでしまっていた。

 せっかくだからカリーナちゃんのことをお話したいなとも思ったけど、今はそういうことをしている場合じゃない。


 咳払いをして、無理やり落ち着く。

 それから、改めて理事長たちを見た。


「お友達の話は、またの機会にお願いしてもよろしいですか?」


「あ、はい」


 理事長、ニコニコしているけどなんか怖いよ。騒いじゃってごめんなさいだよぉ。


「さて、あなたたちの話をもっと詳しく聞きたいのですが……あなたたちもまた、聞きたいことがあるのですよね?」


「はい。魔導大会の最中に、転移の魔石で魔大陸に飛ばされちゃったから……帰ってくるまでの間に、この国でなにがあったのか」


 断片的な話は、ちょくちょく聞いている。

 魔導大会に乱入したエレガたちが魔獣を使い暴れ、それをその場にいた魔導士たちが撃退。


 その最中、この国の国王だったザラハドーラ国王は亡くなり……今では、別の人が国王になっている。

 その人が国王であることに、国民の多くは疑問を抱くこともなく。


 知っているのは、これくらいだ。この国にいたエレガたちが魔大陸にやって来たり、他にもどんなことがあったのかとか……気になっていることはある。


「では、少し長い話になります。まずは、座ってください」


 理事長に促されるまま、私とルリーちゃんはソファーに座る。

 ようやく、この国でなにがあったのか聞けるってことか。

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