546話 お手伝いの二人



「みんないい人間だっター! 楽しかったヨ!」


「それはよかったよ」


 学園を出た私たちは、目的地『ペチュニア』へ向けて歩いていた。

 私がいない間、リーメイはヨルのクラスメイトの女の子たちと過ごしていたようだけど……その時間は、実に充実したようだった。


 リーメイにとっては、人間の国に来てそこの人たちと関わるのは初めて尽くしだろう。

 それに、みんなニンギョに対して好意的に接してくれたのも、良かった。


「エラン、明日もあそこに行くの?」


「うん、そのつもりだけど」


「リーも! リーも行ク!」


 あはは、リーメイったらすっかりみんなのこと好きになったみたいだな。嬉しいことだけど。

 そんなリーメイがかわいく感じ、頭を撫でてあげる。


 みんなに買った貰った服を着たまま、リーメイは歩いている。

 学園でも騒ぎにならなかったし、もう認識阻害の魔導具は付けなくてもいいかな……と思って、外している。


 下半身がお魚なので、ちょくちょく視線を感じるけど……それは、悪意を感じるものではない。


「こんなことならやっぱり、正体を隠す必要はなかったね」


「人魚って珍しいけど、まあ珍しいだけだしな」


 この国には、いろんな種族がいる。人間、獣人、亜人。

 エルフ以外はいると言ってもいいだろう。まあニンギョは見たことなかったんだけど。


 そんな国だから、みんな物珍しくはあってもだから必要以上に接してはこないってことかな。


「なんにしても、みんな元気そうでよかったよ」


「一番心配だった奴がそれを言うかね」


 私はみんなを心配していたけど、みんなも私を心配していた。

 もしも私がみんなの立場で、友達がいきなり消えたと知ったら……うわぁ、心配で夜も眠れないかも。


「人間の国、賑やかだネ!」


「もう暗くなってきたし、昼間ほどの活気はないけどな。そもそも今日はいつもより人少なかったし。

 あと、あんな事件がなけりゃもっと賑わってたろうぜ」


 周囲を見ながら、目を輝かせるリーメイに、ヨルは淡々とした様子で言葉を返す。


 あんな事件……魔導大会の件か。

 そういえば、帰って来てからも私のことを聞かれるばかりで、ここでなにがあったのかとかはあんまり聞いてないな。

 いちいち蒸し返すことでも、ないけど。


 ただ、被害があったとはいっても魔導士がたくさんいる国だ。それに、魔導大会で国外からも人は集まっていた。

 その分、被害を少なくすることもできたんじゃないかな、と思う。


「あ、見えたよ」


 お話して、町中を見て、そうしているうちにいつの間にか、目的地が見えてきた。

 見覚えのある看板を指して、リーメイがはしゃぐ。


 やれやれ、こんな時間になっちゃうとは。ルリーちゃんもラッヘも、大丈夫かな。

 ま、タリアさんに任せてあるから心配はいらないかな。……あーでも、お客さんがたくさん来てたら、二人に構ってはいられないよね。


 二人のことを任せてしまったことをお礼言わないといけないのと、クレアちゃんに会えたことも教えないと。

 でも、なんて言ったらいいのか……


「ただいま帰りましたー……」


「い、いらっしゃいませ!」


「ませー!」


「……」


 『ペチュニア』の扉を開ける……すると、元気な女の子の声が聞こえてきた。

 私たちはお客のような、お客じゃないような微妙な立場なので、どうしたものかと思ったけど……聞き覚えのある声を、見覚えのある顔に固まる。


 そこにいたのは、銀髪……をフードの中に隠した褐色の女の子と、対称的に白い肌と金髪を隠した女の子だった。

 というかルリーちゃんとラッヘだった。


 しかも、制服を着ている。お店の。


「あ、え、エランさん!?」


「あ、エランだー!」


 私たちに気付いたルリーちゃんは顔を真っ赤に染め上げ、対してラッヘははしゃいでいる。

 これは……どういう状況だ?


「あら、おかえり三人とも」


「あ、はい……

 えっと、タリアさん。ルリーちゃんとラッヘはいったい……」


「いやあ、さっきから急に人が増えてきてねぇ。人手が足りなくて忙しかったところ、二人が手伝いを申し出てくれてね。

 物覚えもいいしなによりかわいい! 助かるよ!」


 なるほどなるほど……手伝い、か。

 人手が必要なところに、おあつらえ向きに二人がいた。それも二人とも、かなりかわいい。


 二人で接客をすれば、お客さんもさらに集まるってわけだ。


「す、すみません勝手に……」


「いや、それは全然いいんだけど……」


 謝るルリーちゃんの姿を、私はじっと見る。

 ふむ、膝上のスカートにお胸を強調するような服装。……実に似合って……じゃなくて。


 ルリーちゃんは褐色の肌を、晒している。これまでは認識阻害の魔導具があるとはいえ、全身を隠すような服装を好んでいた。

 学園ではその限りではないけど、あれは制服だったし。みんな同じ格好だからそんな目立つことはない。

 銀髪や褐色だって、それだけのパーツで見ればありふれている。


 手伝いのためとはいえ、こんな目立つような恰好をするなんて。

 いや、似合っているんだけどさ。それに、認識阻害の魔導具フードで耳と銀髪は隠したまま。ラッヘも同じく。


 しかしこうして見ると……フードで顔を隠しているだけで、こうもダークエルフだということを隠せるとは。

 さすがは魔導具ってところか。私やナタリアちゃんみたいに、正体を知らない人なら騙せるってわけだ。


「本当、大助かりだよ。でも二人とももっと顔を出したらいいのに」


「ふ、二人とも肌が弱くて!?」


「店内なのにかい?」


 ただ、それが魔導具だとはわからなくてもフードであることには違いないので、フードを脱がない理由付けが大変だけど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る