538話 一人増えてる!



 ノマちゃんと買い物を続けていく中で、わかったことがある。

 わかっていたことではあるけど、ノマちゃんは人と話すのがうまい。なんて言えばいいのかな……嫌味がない、って言うのかな。


 ノマちゃんのお嬢様口調は、あんまり偉そうに聞こえない。それがいいことか悪いことかはともかくとして。

 誰に対しても態度を変えないから、裏表がなく信用もできる。

 なにより、いつも笑っているからその笑顔に惹かれる。


 お店の人たちも、みんな笑顔だ。


「ノマちゃんは、人を笑顔にする力があるよね」


「まあ、おだててもなにも出ませんわよ」


 おだてているのではなく本音なんだけど……まあいいか。

 それに、こうして見ていると……やっぱりいい身体してるなぁ。


 って、私は変態か!


「ていかノマちゃん、そういう食費ってお城から出るんでしょう? わざわざ値切りしなくてもいいんじゃない?」


「いいえ、今のご時世安いに越したことはありませんもの。それに、あるからって無駄に使っていい理由にはなりませんわ」


 わぁ、なんてしっかりしているんだろう。嫁にほしい。

 そういえば魔導学園でも、ちょいちょい節約していたような……


 いい意味でお嬢様っぽくはないな。

 なんていうか、身に付けているものは豪華なものが多いけど、それ以外だと節約している……?


「それにお母様が言ってましたわ。いい女は、値切りのできる女だと」


「そ、そうなんだ?」


 ノマちゃんのお母さんには会ったことがないけど、なかなかすごいことを子供に教える人だな。

 ……ノマちゃんのお母さんかぁ。


『こちら、わたくしのお母様ですわ!』


『わたくしが、ノマのお母様ですわ!』


 …………なんか、うるさそうだなぁ。


「どうしましたのフィールドさん」


「いや、ノマちゃんってお母さん似なのかなと思って」


「ふむ……どちらかと言えば、お父様似だと言われますわね」


 お母さんじゃなくてお父さん似、だと!?


『こちら、わたくしのお父様ですわ!』


『わがはいが、ノマのお父様ですわ!』


 …………ぬぅ。


「どうしましたの、まるでとびきり酸っぱいものを食べたかのような顔をして」


「いや……あんまり深く考えるのはやめようかなって」


「?」


 その後も買い物を続け、終わるころには人の賑わいも落ち着いていた。

 結構買ったもんだなぁ。


 こういうのって、お城の人たちが用意してくれるもんじゃないかと思ったけど……ノマちゃん自ら、名乗り出たらしい。


「……こうしていると、普通なんだけどな」


 私もそれなりに人と話したり、ノマちゃんとの話を聞いていたけど……この国の人たちは、普通だ。

 あんなことがあったのに。立ち直りが早いと言えば、そうなんだろうけど。


 それに……今の国王については、やっぱり受け入れているようだった。


「ところでフィールドさん、あのリーメイ……と言う方は、いったいどんな方ですの?」


「リーメイ?」


 帰り道、ふとノマちゃんがそんなことを聞いてきた。

 リーメイがどんな子なのか、か……


 ニンギョとかって、勝手に話しちゃってもいいものか。


「でも、どうしていきなり?」


「いえ、なんだかわたくし、彼女に敵視されているような気がして」


「てきし……」


 ノマちゃんの言葉に、私はじっと考える。

 敵視なんて、そんな穏やかじゃないこと、リーメイがするとは思えないけど……


 ……でも、確かにリーメイの方から突っかかったり、していたような?


「リーメイはいい子だよ。ノマちゃんの気のせいじゃない?」


「だと、いいんですけれど……」


 ふむ……ノマちゃんは、誰かに敵視されたり、嫌われるのは結構堪えるみたいだな。

 それが平気な人なんて、いないだろうけど。


「ノマちゃん、荷物持とうか?」


「あら、ありがとうございます。でも大丈夫ですわ、フィールドさんに持たせるわけにいきませんもの」


「では、私が代わりにお持ちします」


「あら、ではお願いしますわ」


「はっ」


 こうしてただ歩いている時間も、いいものだ。

 これまで魔大陸を延々と歩いたり、飛んだり、大陸の端から歩いたり……散々だったもんなぁ。


 それを思い返せば、今はもういい思い出だ。

 でも、やっぱりこうして三人で歩いている時間も、私は……


「ん? 三人?」


「どうしましたの、フィールドさん」


「どうかいたしましたか、フィールド様」


「なんか一人増えてる!」


 私は立ち止まり、隣を見た。

 そこにいるのは、ノマちゃん……だけのはずだ。でも、その向こう側にもう一人いた。


 そこいたのは……見知らぬ男の子。

 いや……なーんか見覚えがあるぞ。


「あ! 入寮初日に部屋に侵入してきた変態!」


「まあ、ひどい言われよですわよカゲ」


「心外です」


 そこにいた白髪美形は、魔導学園に入学した初日……寮の部屋で一晩明かした私たちの部屋に侵入してきた、イケメンだ!

 確か、ノマちゃんに仕えているっていう……名前はえっと……


「恋愛対象が男の人!」


「まあ、こんな場所でそんな大声で」


「カゲ・シノビノです。名前を覚えていないのなら、素直にそう言ってください」


 ここにいるのは当然、といった顔でそこにいるのは、カゲ・シノビノくんだ。

 そうそう、ノマちゃんのお世話係だった人だよ。いやあ懐かしいな。


 というか、この人その後全然見かけなかったんだけど。


「ちゃんと生きてたんだ」


「フィールド様、私へのあたりきつくありませんか?」


 そりゃ、そっちにも事情があったとはいえ、学園生活初日に向けて目を覚ましたら知らない男がいるんだもん……びっくりだよ。

 そしてこの場にいるのもびっくりだよ。


「いつからいたのさ」


「私はノマお嬢様の忠実なるしもべ。いついかなる時も、常にノマお嬢様のお側に付き従っております」


 …………え、怖い。

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