537話 小さい、ってこと?
どん、と腰に手を当てて胸を張るノマちゃん。
とても私と同級生だとは思えない実った果実が、これでもかというほど強調される。ちくちょう。
この格好で外出かぁ……いやまあ、ノマちゃんがいいならいいんですけどね……
「それに、この格好では何度も街にお買い物に行ってるから今更ですわ!」
「遅かった!」
すでにノマちゃんは、メイド服姿で買い物に出たことがあるのだという。
なので、私の指摘は今更だというわけだ。
うぅん……いやうん、メイド服かわいい服だとは思うよ。露出は多いけど、ノマちゃんによく似合ってるし。
でもそれを着て人前に出る勇気は、私にはない。
ノマちゃんはそういった意味でも、度胸の塊みたいな子だ。
「じゃあさ、せっかくだし一緒に買い物しようよ。私もっとノマちゃんと話したかったし」
あの指輪がどういうものか話せない以上、すぐにでも返してもらいたい。
もしあれが魔導具だとは言わなくても、たとえば「指に嵌めたら大変なことになるから絶対にだめだよ」と言ったとしよう。
そしたらノマちゃんの場合……
『大変なこと……ごくり。わたくし、気になりますわ!』
とか言って指に嵌めかねない。
さすがにそこまでしないとは思いたいけど……ノマちゃんだもんなぁ。
ただ指に嵌めるだけならまだしも、なんらかの理由で魔力を発生させるようなことになったら目も当てられない。
返してもらうまで一緒にいる理由……それと、ノマちゃんと一緒にいたいのは本当だし。
「けれど……よろしいんですの? わたくし以外にも、会いたい方がいるのでは?」
「まあ……そうなんだけどね。クレアちゃんには一応会ってきたし、ナタリアちゃんやフィルちゃんにも。
みんなは学園に行けば会えるし、そういう意味じゃノマちゃんには気軽には会えないじゃない?」
「まあ。気軽に会いに来ればいいじゃないですの」
「一応お城だから……ザラハドーラ国王のときだって、一人でお城に来たことはなかったはずだし。多分」
「そうですか……そういうものですわね。
なら、行きましょう」
そんなわけで、私はノマちゃんといっしょに買い物に行くことにした。
私は別に買うものはないけど……街の様子を見て回りたいし、なによりノマちゃんともっと一緒にいたいのは本音だ。
私がいろいろと気になってることがあったのと同じように、ノマちゃんにも気になることはあったようだ。
たとえば、フィルちゃん。元々私とノマちゃんの部屋で預かっていたけど、今はナタリアちゃんにお世話してもらっている。
ノマちゃんが引っ越す際、当然そういうやり取りはあった。私もいないし、フィルちゃんをどうするかということで……ナタリアちゃんが手を上げた。
それで、フィルちゃんはナタリアちゃんに預けられたわけだ。
「それで、フィルちゃんは元気でしたか?」
「もちろん。むしろ前より元気なんじゃないかってくらい」
はじめこそ、学園の生徒でも関係者でもないフィルちゃんという存在に戸惑いもあったが……
一緒に暮らすうち、すっかり仲良くなった。
こうしてフィルちゃんのことを聞いてくるのも、その証拠だ。
預け先のナタリアちゃんを信頼していないわけでは、もちろんない。ただ、それはそれとして心配になるのは、矛盾しない。
「最初は、フィールドさんにしか懐いていませんでしたものね。ママ、ママー、と」
「正直ママ呼びは今でもやめてほしいんだけど……」
「フィールドさんが、フィルちゃんの本当のお母様に似ているとかでは?」
「私に似てる人妻って、かなり子供っぽい感じになっちゃうけど」
私がそもそも、同級生の中でも子供っぽい方なのだ。
周りにはノマちゃんやルリーちゃん……それにクレアちゃんにだって、おっぱいの大きさは負けてるし。
「フィルちゃんのお母さんも、小さいってこと? (おっぱいが)」
「え、まあ……小さいんじゃありませんの? (背が)」
まだ見ぬフィルちゃんのお母さんの姿を想像しながら、私たちは楽しく歩いていた。
フィルちゃんのお母さんなら、美人さんで……やっぱり、白髮黒目なのかな。それとも、そこは関係ないのかな。
白髮黒目が精霊に好かれる資質みたいなものなら、それは遺伝ではないのかもしれない。
「お、ノマちゃん! 今日も買い物かい」
「えぇ、こんにちはですわおじさま」
だんだん人の賑わう場所に出てくると、ノマちゃんに声がかけられる。
それは出店の……お野菜のお店だ……のおっちゃんだった。
ノマちゃんは足取り迷うことなく、おっちゃんのところに向かっていく。
私も、後ろから着いていくようにノマちゃんを追いかける。
「王都の真ん中は人が多いなぁ」
私が帰ってきたときは、周りに人があまりいなかったけど……国中人がいないわけでは、ないらしい。
王城は王都のほぼ中心にある。その王城の近くに人がたくさんいるので、中心あたりはまだ人がたくさんいるみたいだ。
それとも、私が帰ってきた時はたまたま人がいなかっただけかも。
「いつも偉いねぇ、王女様のお付きのメイドだってんだろ?」
「えぇ、まあわたくしなら当然ですわ」
えっへん、とノマちゃんは胸を張る。
ノマちゃん、常にこんな感じなんだな。
話している感じ、常連なのか……コミュニケーション能力すごいな。
「じゃあそんな頑張ってるノマちゃんに、今日も安くしとくよ! 見ていきな!」
「まあ、本当ですの?」
いつもありがとうございますわ、とノマちゃんは前かがみになり、お礼を告げた。
おっちゃんは人の良い笑顔を浮かべていて……
……その目は、ノマちゃんのおっぱいに注がれていた。
このすけべじじい……!
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