510話 これがイロジカケ……!?



 さてさてさーて。

 ある程度の情報を集めたところで、魔導学園付近に到着。そして、見張りの兵士も発見。


「なあ。今更なんだけど、俺たちが脱走したことバレてると思うか?」


「どうだろうねぇ」


 ヨルが言うのは、地下牢に閉じ込めていた私たちが逃げたことが、果たしてバレているのかというものだ。

 それに関しては、予想でしかわからない。


 私たちが脱走してから……うーん、どれくらいの時間が経っただろう。一時間? 二時間?

 まあそんくらいだ。


「脱走したってバレてたら、もう少し騒ぎになってそうなものだけど……その様子もないよね」


「そうだなー」


「ま、バレてようがバレてまいが、どのみち姿を出すことには変わりないし」


 私たちの脱走がバレているのかいないのか、それでわかるのはせいぜい警備の甘さくらいだ。

 そんなことは今の私たちにはどうでもいいわけで。


 よし、じゃあ行こうか。


「じゃ、まず私が声かけるから、あとから来てよ」


「おう。でも、声かけるたってどう……」


「もしもーし、そこの兵士さーん」


「そんな友達みたいに!?」


 私は物陰から飛び出し、ひらひらと手を振りながら兵士に近づく。

 話しかけられた兵士は私の姿を見て、目を丸くしていた。


「え、黒髪黒目……えっ」


 そりゃそうか。捕まえろと指示されている黒髪黒目の人間が、自分からやってきたんだから。

 見た感じ、若い兵士さんだな。私と同じ……いやちょっと上かな。


 てっきり、おじさんばかりだと思っていたよ。


「すいません、国王のとこ連れてってほしいんですけど」


「え……はっ、え……?」


 あらら、混乱しちゃってる。黒髪黒目の人間は捕まえろとは言われてても、自分からやってきた場合どうしろってことは言われてないんだろうな。

 慌てちゃって、なんだかかわいいなぁ。


 兵士がうろたえているのが面白いけど、とりあえずみんなを呼ぼう。


「おぉーい」


「お、いいのか? てか、別にエランだけ出ていく必要なかったろ」


「だって、いっぺんに出て行ったら驚かせちゃう……」


「うわぁああっ、増えたぁあああ!」


「……どのみち驚いてるじゃねえか」


 私に続いて、黒髪黒目の人間一人と、フードで顔を隠した五人が現れる。

 それを見て、兵士さんは驚いてしまったようだ。


 別に取って食ったりしないってのに。


「え、えっと、お、応援を……」


「待った待ったお兄さん。私たち、国王のところに案内してほしいだけなんだって」


 パニックになっている兵士さんの手を、そっと握り締める。もちろん、優しくだよ。握り潰したりなんかしないよ。

 手を握ったのは、腰に差してある剣を取らせないためだ。それに、どこかから魔導の杖を取り出すかもしれない。


 それを防ぐために。でも、それを悟らせないように。


「え、あ、手……じゃなくて、こ、国王様のところに……」


「そうそう。国王様から、私たちを捕まえろって指示が出てるんでしょ?

 だったら、私たちを国王様の所に直接連れて行った方が、いいと思わない?」


 正直、自分でもどうだろうというくらいのめちゃくちゃな理論。

 だけど、相手に考える余地を与えないために、畳みかける。


「ね? そうすればお兄さん、黒髪黒目の人間を二人も捕まえた英雄だよ。褒められること間違いなしだよ」


「そ……そう、なのか?」


「そうそう!」


「……さっき洗脳がどうとか言ってたが、こっちの方がよっぽど洗脳っぽいぞ」


 おいこら聞こえてるぞヨル。

 いいんだよとりあえずその気にさせとけば。


「私たちは国王様に会いたい、あなたは私たちを連行して褒められる。ウィンウィンじゃない?」


「うぃんうぃん……?」


「そっ。だから……」


 うーん、自分でもなに言ってるのかわからなくなってきた。

 でも、相手をその気にさせる言葉を並べとけば交渉事はうまくいくって、師匠は言ってた。


 あと、大切なことは……そう、これだ!


「ね、お願い!」


「!」


 私は、身長的に上目遣いで見ることになる兵士さんに、ウインクをする。

 ウインクには、人の警戒心を解く要素が含まれている……と支障が言っていたような気がする。多分。きっと。


 半信半疑だったけど……兵士さんは、徐々に顔を赤くしていく。

 もしかして、怒らせてしまっただろうか?


「わ、わかった。案内するから、離れなさいっ」


「おっと」


 兵士さんは顔をそらし、手を振り払った。

 その乱暴な様子に、やっぱり怒らせてしまったか……と心配になったけど、案内はしてくれるようだ。


 そうやら、怒らせたわけではないのか?


「なんにせよ、よかったねヨル! リーメイ!」


「……お前それ天然なの?」


「なにが?」


 振り向いた先にいたヨルは、なぜか複雑そうな表情を浮かべていた。

 天然とはなんの話だろうか。


 一方のリーメイは、目を輝かせていた。


「これが、噂に聞くイロジカケ……エラン大人ダ!」


「?」


 なんだか、よくわかんないけど……まあ、うまくいったってことでいいんだろう。

 兵士さんは案内してくれるみたいだし、私たちはその後ろを着いていけばいいのだ。


 それから兵士さんは、近くにいた別の兵士と話をして……持ち場を離れることとなり、移動を開始した。

 よぉし、いよいよ王城へ向かうぞ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る