509話 人魚の能力



 この国の人たちを洗脳しているのが新しい国王なら、会いに行ったところで私たちも洗脳されてしまうのではないか。

 その疑問が生まれた。今私たちが無事なのは、私たちが国から出ていたからだろう。


 なのに、わざわざ洗脳されに行くってなったら……なにやってんだって話だ。でも、洗脳を解くには洗脳をかけた本人に会うしかない。

 さてどうしたものかと考えていると、大丈夫だと自信満々に言うリーメイの姿があった。


「大丈夫って……どれは、どういう?」


 同じく疑問に思ったらしいヨルが、リーメイに聞く。

 対してリーメイは、えっへんと言うように腰に手を当て、胸を張っていた。


 ……リーメイの恰好は、認識阻害の魔導具の他に道中買った全身を覆えるほどの大きなコートを身に付けている。

 でないと、いくら認識阻害をしたからって言っても……下半身お魚は絶対怪しまれる。認識阻害ったってフードだし、下半身丸出しはさすがに限度があるだろう。


 それに……リーメイは上半身裸で、おっぱいに貝殻を貼り付けている状態だ。はっきり言って痴女だ。

 なぜか服を着せようとしたら「ヤダーッ」ってめちゃくちゃ拒否するし。


 なので、いろいろ選んだ結果コートならオッケーってことになったので、それを身に付けている。

 上半身ほぼ裸にコートも、なんか充分イケない気がするけど。


「なぜなら、リーには洗脳の類いは効かないかラ!」


「……洗脳の類いは、効かない?」


「要する二……リー、というか人魚族には、状態異常にあたる魔法は効かないんだヨ。

 洗脳、睡眠、重力操作……あと、エランがよく使ってる身体強化とかモ」


 リーメイの説明を、ふむふむとうなずきながら聞いていた。

 状態異常が効かない……とはよく意味がわからなかったけど、つまりは自分の体に変化を及ぼすものか。


 言われてみれば、身体強化の魔法も……自分の体の能力を上昇させるものなんだから、状態異常と言えなくもないのか。


「リーメイ個人じゃなくて、人魚族特有の力ってことか」


「でもそれだと、リーメイは大丈夫でも私とヨルは大丈夫にならなくない?」


「大丈夫。状態異常になってる人の身体にリーが触れることで、触れた人の状態異常も打ち消せるかラ」


「なにそれすっげ」


 触れただけで状態異常を打ち消す……ニンギョ族すげーな。

 じゃあ、身体強化の魔法をかけてもリーメイに触れられたら、魔法が解除されちゃうってことか。


 いつかリーメイと手合わせして見たかったんだけど、身体強化の魔法は使えないってことになるのか。


「ほほぉ、彼女はニンギョ族なのカ。なんとも珍しいねェ」


 ここまで話を聞いていた筋肉男が、話の流れからリーメイがニンギョ族だとわかってしまったようだ。

 まあ、大勢の前で明らかにしたら騒ぎになるかもってだけで、個人にバレても問題はないんだけどさ。


 それにしても、触れただけで洗脳が解けるなら、国中の人間に触って回れば……みんなの洗脳を解けるのでは?

 ……いや、大元を叩かないと意味ないか。


「……じゃあ、ルリーちゃんの呪いも解けないかな」


 今の話を聞いて、思ったこと。それは、ダークエルフの呪いだ。

 ダークエルフへの嫌悪を、人々は本能に刻まれている。それは、呪いのようなものだ。


 呪いも状態異常みたいなものだし、触れたら呪いが解けたりしないだろうか?

 現にリーメイは、ルリーちゃんに対して嫌悪とかは抱いてないし。


「じゃあ、俺たちがおかしくなったらリーメイに触れてもらうってことでいいのか?」


「ン、いいヨー」


「!」


 おっと、いけないいけない。今は、こっちの問題だ。

 国中の人間の洗脳問題をどうにかしたら、ルリーちゃんのことも相談してみよう。


 とりあえずこれで、洗脳問題については解決したようなものだ。


「ま、せいぜいがんばりたまえよ諸君」


「……うん、いろいろ情報ありがとねー」


「はっはっは、健闘を期待しておくヨ!」


 高笑いをしながら、筋肉男は今度こそ去っていく。

 久しぶりに再会したクラスメイトがあいつだったのはなんとも微妙な気持ちだったけど……まあ、洗脳を受けていなかった人から情報を得られたのは、大きいよね。


「いいのか? 彼もなんか、洗脳されてなかったみたいだし……一緒に来てもらうとかは」


「それはちょっと難しそうかなぁ」


 あの、とにかく自分中心の性格。仮に着いてきてと頼んだところで、素直に応じてくれるとは思えない。

 それに、どのみち着いてきてって頼むつもりはなかったし。


 新しい国王に会うことで、私たちは少なからず目をつけられるだろう。なので、その人数は少ないほうがいい。

 ルリーちゃんやラッへに留守番してもらったのも、それが理由だ。


「じゃ、気を取り直して行こうか」


「オー」


 思わぬ形でクラスメイトと再会して、思わぬ形で情報を得られた。

 それに、リーメイが着いてきてくれたのも結果的にはよかったよね。リーメイのおかげで、私たちが洗脳されたとしてもそれを無力化できるんだし……


 ……そういえば、リーメイが着いてきたいって志願したの、洗脳されてるって情報が入る前だけど……

 ま、タリアさんとの会話で当たりをつけていたんだろう。


「あ、兵士見っけ」


 ともあれ、学園近くに到着。周辺を見張ってる兵士を発見だ。

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