506話 クラスメイトとの再会



 さて。『ペチュニア』から出て、学園への道を歩く。

 周囲に人の気配は……ないどころか、それなりに人通りが多い。普通の一日……と言えばそうだ。


 このベルザ王国は、他国との交流もそれなりにある。

 国の人じゃなくて、旅人や商人……外から来た人も結構いるから、人手賑わうのも当然だ。


「これだけの人数がいれば、さすがに目立たないだろ。

 ……と、思ってたけど」


「ま、しょうがないよねー」


 私たちは、この国で珍しい黒髪をしている。いや、国どころか世界かな。

 なので、普通に歩いているだけでも注目の的だ。


 あー、この感じ懐かしい。学園でも、こんな感じだったよ。

 私の場合、そこに凄腕美少女魔導士とグレイシア・フィールドの弟子、って肩書がまた注目を集めていたんだけどね。

 えっへん。


「大丈夫? リーのフード被ル?」


「ありがと。でも、リーメイはちゃんと被っててね」


 学園に向かっているのは、私とヨル、リーメイ、そして黒髪黒目四人組。

 私とヨル以外は、認識阻害の魔導具を身に付けている。ここにいないルリーちゃんとラッヘの魔導具を借りなかったのは……


 ……さすがに、ダークエルフとエルフだと明かした状態で置いていくなんてことはできなかったから。


「そういえば、この国で人魚は見たことないよな。エルフに人魚なんて、異世界物の王道だってのに……この国には、そのどっちもいないなんて」


 隣でヨルがぶつぶつ言っているが、ニンギョというのはこの国にはいない。

 そんなリーメイが大手を振って歩いていたら、注目を浴びてしまうこと間違いないなし。ニンギョっていうのがどんな扱いなのか、わからないし。


 黒髪黒目四人組だってそうだ。

 私とヨルだけでもこの状態なのに、さらに黒髪黒目が四人増えるなんてもう考えるだけでとんでもないよ。


「ふわぁ、これが人間の国……人、建物、いっぱイ……!」


 そしてリーメイは、さっきから目を輝かせてばかりだ。

 なんか、ここに来るまでも同じ反応していたけど……飽きないのかな。


 もしかして、人間の国がもっと見てみたいって理由でついてきたわけじゃあ……?


「でも……これなら、さっきあんなにこそこそ移動する必要なかったね」


 周囲を見ながら、つぶやく。

 王城の地下室から脱走して、『ペチュニア』に移動するとき、身を隠しながら移動していたわけだけど。


 注目にさらされていても、それだけだ。危惧していた兵士も、全然見かけない。

 てっきり、定期的に兵士が見回りしているかと思ったのに。見つかってはダメだと考えていたさっきとは違い、むしろ見つけてくれとさえ思っているのに。

 だーれもいやしない。


「それならそれで、楽じゃないか。学園に行けば、確実に兵士はいるんだし」


「まあ、ね」


 それにしたって……普通、の光景だよな。

 国王が死んで、新しい国王が誕生した。しかも死んだザラハドーラ国王は、慕われていたのに。


 ……普通過ぎる。


「……もしかして、エラン・フィールド?」


「!」


 ふと、私の名前を呼ぶ声が聞こえた。私は足を止める。

 この黒髪は、目立つけど……相手からすれば、すぐに私だとわかる特徴でもある。


 聞き覚えのある、男の子の声だ。もしかして、魔導学園クラスメイトの誰か?

 そうだ、ここはもう魔大陸じゃない。私のことを知っている人ばかりなんだ。クラスメイトじゃなくても、学園の……私のことを、知ってくれている人!


 ピアさんに続いて、再会できた相手に……私は胸を高鳴らせながら、振り向いて……


「やぁ、随分と留守にしていたじゃないカ。たった数日なのに、もうずいぶんと時が経った気がするヨ」


「お前かよぉおおおおお!」


 振り向いた先にいた見覚えのある男の姿に、私はここが街中であることも忘れ地面に膝をつく。

 確かに知り合いで……クラスメイトでは、あるけど……!


 なんでここでお前だよ! こういうのってもっとこう……ゴルさん、は重傷らしいから難しいけど。

 コーロランとかダルマスとか、生徒会の先輩とか『ペチュニア』の常連の冒険者ガルデさんたちとか! もっと有名どころいるじゃん!


「えっと……エラン、この人は? なんか胸板ぱっつぱつなんだけど」


「おや、キミも有名人だねェ……ミスター・ヨル。

 ワタシはそこのレィディ、エラン・フィールドのクラスメイトサ。ま、よろしくと言っておこウ」


 キザったらいく笑うその男……筋肉男は、いつも見る制服ではなく私服だ。

 その私服も、はち切れそうなほどに悲鳴を上げている。


 名前は……なんだっけ、筋肉男で認識してたからなぁ。


「誰も覚えてないよ! なんでそんな奴出してくるの!」


「おぉ……どうした急に」


「あっはっはっハ、相変わらず面白いねぇミス・フィールド。

 ちなみにワタシは、ブラドワール・アレクシャン。よぉく覚えたまえ、ブラドワール・アレクシャンさ諸君」


「誰に言ってんの!?」


「ブラドワー……」


「もういいよ!」


 ベルザ王国に戻ってきて、一番最初に再会したクラスメイトがクレアちゃんやダルマスではなく、よりによってこいつかよ……!

 なんか最初の方濃いインパクト与えるだけ与えてフェードアウトしていったじゃん! なんでこのタイミングで出てくるのさ!

 私はなんで気付いたかって? そりゃあコレと毎日教室で顔合わせてたらね!


 地面に拳を打ち突けている私と、それを見ているヨルたち。そして高笑いを続ける筋肉男。

 周囲にはさぞ、滑稽に思っていたことだろう。

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