505話 新国王に会いに行こう



 新しい国王に会いに行こう、ということになった。

 ただ、会おうと思ってすんなり会えるものでもないだろう。


 ……普通ならね。


「エランちゃん、そんな大それたこと……大丈夫なのかい?」


 当然、今の話だけを聞いたタリアさんは心配してくる。

 いきなり帰ってきて、新しい国王に会おうなんて実行できるとは思えないだろう。


 でも、私とヨルならそれができるはずだ。学園に行けば、兵士がいる。

 私はその兵士に、王城の地下牢まで連れて行かれたんだ。つまりは、地下牢ではなくて王城の中……新しい国王がいる部屋まで行ってしまえばいい。


 平和的に行くなら兵士に連れて行ってもらえばいいし……


「いざとなったら、実力行使で……」


「だ、だめよそれは!」


 おっと声に出ちゃってたか。失敗失敗。

 タリアさんっては、そんな心配しなくても大丈夫だって。


「冗談ですよぅ、あはははは」


「目が笑ってないですけど……」


 実際問題、力押しで行けちゃう気はするんだよな……

 魔力がなくても兵士の一人や二人余裕なわけだし、魔法が使える今なら相手が誰だって負ける気はしない。


 でも、そんなことをしたら騒ぎになるからね。今度こそ国中に黒髪黒目の人間は敵だ、なんて言われたら溜まったもんじゃない。

 一番怖いのは、力じゃない。権力だもん。


 だから、今の状況をなんとかしないといけない。


「そうと決まれば……」


「エランさん、私たちも……」


 立ち上がる私に、ルリーちゃんが言う。

 自分たちも、手伝ってくれるという意思がわかる。それはありがたいことだ。


 その気持ちは嬉しい。でも……


「ううん、今回は私とヨルで行くよ」


「! どうして……」


 ルリーちゃんたちがいてくれたほうが、心強いのは確かだ。

 でも、私たちはあくまで話をしに行くんだ。エレガたちを突き出して、黒髪黒目を捕まえるなんて指示を撤回してもらいに。


 大勢で行ったら、警戒させてしまうだけだろう。


「一応平和的に解決するためだから、私たちだけで充分だよ。それに、もし荒事になったとしても、大勢いたんじゃヨルに魔力吸われちゃうかもしれないし?」


「失礼な。そんな見境なくするわけないだろう」


 魔導大会で、ヨルは対象の魔力を吸い取るという芸当を見せた。

 ただ、それも見境なくではないはず。魔力を吸い取る対象は選べるはずだ。


 だからこれは、方便だ。

 あと、こんな状況だからこそルリーちゃんたちにはおとなしくしていてもらいたい気持ちがある。


 認識阻害の魔導具を身につけているとはいえ、相手がどんなのかもわからないところに、ダークエルフやエルフを連れて行くのは……なんだか、危険な気がする。

 特に、ラッへは記憶を失っている。


 これまでは魔大陸から帰ってくるため、行動を共にするしかなかった。

 でも、ベルザ国に帰ってきたんだ。ひとまずは、安全なところで落ち着いていてほしい。


「私たちは大丈夫だから。いざとなったら、魔術ぶっ放したときにルリーちゃんたちを巻き込んじゃうかもしれないし」


「まるで俺なら巻き込んでもいいみたいな言い方!」


 人数が少ないほうが、いろいろ動きやすいのは確かだし。

 なるべく穏便には済ませるつもりだけど……逃げるってなっても私だけなら、浮遊魔法や分身魔法などいくらでもやり方はある。


 ヨルは……ま、なんとかできるでしょ。


「……わかり、ました」


 渋々といった感じだけど、ルリーちゃんはうなずいてくれた。

 じゃあ、後の二人も……


「リーは行ク!」


 ……そこに、はいっと手を上げるリーメイの姿があった。


「えっと……リーメイ? リーメイも、待っててほしいなって……」


「いヤ! 行ク!」


 はいっ、と手を上げたまま、下げる気配がない。

 リーメイは長い時間を生きているけど、中身は子供っぽい。だから今回も、子供のわがまま的なものかと思った。


 なんとか諭すようにと、言葉を考えていたのだけど……


「……」


 リーメイの目は……わがままとかそんなんじゃなく、真剣だった。

 思いつきでついてきたいと言っているわけじゃない。なんだか、強い意思みたいなものを感じさせる。


「なにか、ついてきたい理由があるの?」


「んー、理由カー。リーがそう思ったから、じゃだメ?

 それに、リー役に立つと思うヨ?」


 ついてきたい理由は、そう思ったから……か。

 なんていうか、リーメイらしいかも。


 役に立つ、という言葉を……まあ、信じるとしよう。

 こんな目をされたら、置いていくわけにもいかないか。リーメイには、ルリーちゃんとラッへを頼みたかったんだけど……


「タリアさん、二人をお願いできる?」


「そりゃあいいけど……本当に行くのかい? 危ないんじゃないかい?」


 心配してくれるのは、ありがたい。でも、行かなきゃいけないと思うから。

 大丈夫だという意味を込めて、力強くうなずいた。


「エランさん……」


「大丈夫。ちゃんと帰ってくるから」


 もしまた魔力封じの手枷をつけられそうになったら、そのときは逃げよう。全速力で。


 私と、ヨルと、リーメイで。

 こんな組み合わせ、少し前まで想像してなかったな。ニンギョなんて国外で初めて会って。ヨルのことは……今も苦手だけど。


 ヨルは悔しいけど強いし、リーメイも水を使った魔法に関しては一級だ。ぜひとも、落ち着いた頃に手合わせしてみたいな。

 特にヨルは、あのゴルさんと引き分けたんだから。


「さ、行こうか!」


 目指すは魔導学園。直接王城に行ってもいいけど、それだと問答無用で不審者扱いされそうだ。

 まずは、向こうから新国王のところに案内してくれるように、仕向けるとしよう。

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