480話 エランは秘密を話した



 泣いちゃったルリーちゃんを、なんとか泣き止ませた。


「落ち着いた?」


「うぅ、はい……すみません、変なところをお見せして」


「あははは」


 とりあえず、落ち着きはしたけどまだルリーちゃんは納得してない様子だ。

 ぷくっとほっぺたを膨らませて、私をじっと見ている。


 うぅん、このままじゃ納得してくれそうにないなぁ。

 ……仕方ないか。


「特訓相手は、ダルマスだよ」


「ダルマス……

 ……? ……?


 観念したように私がその人物を告げると、ルリーちゃんは名前を復唱したあと、じっと考え込む。

 そして、眉を寄せて考え込んでいる。


 目を泳がせている姿は、なにを言われなくてもわかる。

 覚えてないのかな。


「まあ、ルリーちゃんクラス違うもんね」


 思い出させるには、入学試験前の出来事を話すのが一番なんだけど……

 わざわざ忘れている嫌な記憶を思い出させる必要もないか。


 というか、ダルマスについて私はルリーちゃんから教えてもらったんだけど。

 嫌いな相手すぎて、そのへんの記憶家柄ごとゴミ箱に捨てちゃったんだろうか。


「……男、ですか」


「そうだよ」


「へぇえー」


 ……なんだいその目は。


「そのダルマス、魔導剣士ってやつなんだけど……魔力の扱い方を、私に相談してきたんだよ。で、放課後に人で訓練することになったの」


「……三人、というのは?」


「同じクラスのキリアちゃんって子に、訓練の様子を見られちゃってね。

 黙ってもらうかわりに、キリアちゃんも加わったってこと」


 私としても、秘密訓練は秘密のままにしておきたかったけど……まあ、ルリーちゃんなら大丈夫だろう。

 クラスも別だし、とりあえず納得さえしてもらえれば。


 それを聞いたルリーちゃんは、まだ納得はしていないと言わんばかりにほっぺたを膨らませていたけれど……


「……わかりました」


 納得したと、そう言うようにうなずいてくれた。


「そっか、よかった」


 でも、なんでルリーちゃんはちょっと不機嫌なんだ。なにを納得させるんだ。

 そんな私の疑問は、多分答えてもらえそうにないな。


「でも、水臭いです。私にも、教えてほしかったです」


「いや、だから秘密の……あぁ、うん、そうだね……」


 じーっとルリーちゃんに見られるので、これ以上なにも言えない。

 要は、私が隠し事をしていたのがまずかったのかな?


 でもなぁ、一応私のことを頼ってきてくれた子が、秘密にしたいと言っていたのだから、それは無下に出来ないし……


「見ていて面白いなぁ、キミ達は」


 腕を組んだまま、魔女さんが笑う。


「……とにかく、これは秘密だからね。一応、ダルマスのプライドのためにも」


「その男のプライドは私には関係ありませんが、エランさんがそう言うならそうします」


 辛辣ぅ!

 ダルマスごめん、秘密守れなかったよ! でもまあ、仕方ないときっていうのは誰にでもあるものだと思うんだ。


 とりあえずルリーちゃんは人の秘密をペラペラ話すような人ではない。相手が嫌いな人だったとしても。

 それは、自分がダークエルフだという秘密を抱えているルリーちゃんには、よくわかっているはずだ。


「まあ、それもこれも帰ってからの話ではあるけどね」


「そうですね」


 しっかし……こうして、歩いているだけでもかなり時間がかかっているのに、行く先々でこうしてのんびりしていたら、果たして国にたどり着くのはいつになってしまうのだろう。


 そんなことを考え、足をプラプラと動かす。

 やっぱり、クロガネに乗って飛んでったほうがいいかなぁ。


「でも、クロガネが飛んだらみんなびっくりしちゃうもんねぇ」


「なんだ、そんな理由で歩いて旅をしていたのか」


「そんな理由て……結構深刻だよ? 下手に刺激して、攻撃されちゃったら大変だし」


「ならば、ドラゴンごと透明化すればいいのではないか?」


 ケロッと簡単そうに言うなぁ、この魔女さんは。

 確かに、人一人くらいなら魔法で、透明にできないこともないけど。


「それはさすがに無理だよー。クロガネ大きすぎるもん」


 透明魔法は、普通の魔法よりもかなりの神経と集中力、なにより莫大な魔力を使う。

 私でも、せいぜい人一人を透明にすることができるくらいだ。


 それに、透明にしても体から流れる魔力や気配は消せない。

 ただ見えなくなるだけの魔法。私は進んで使おうとは思わない。一応、魔力が鈍らないためにたまに試しに使ったりはするけど。


「なんだ、キミはできないのか」


「……それ、魔女さんはできるみたいな言い方だよね」


「問題ないと思うが」


「え」


 衝撃の言葉に、私は開いた口が塞がらない。

 クロガネほどの巨体を透明化できる……だって? そんな、だってまさか……!?


「そのドラゴンの大きさは、実際に見てみないことにはわからないが。問題はないと思うぞ」


「そ、その根拠は……」


「さっきも言ったが、私はこの村においてはほぼなんでもできる。それに、透明化魔法は得意でね……よく魔物の隙をつくのに使っていた」


「魔物って、姿を消しても気配とかに敏感なんじゃ……」


「だったら、気配も消せばいいだけだろう」


 ……なんということでしょう。まさか魔物相手に、透明化の練習を重ねて精度を上げていたなんて。

 私は、いつも師匠と一緒に倒したり、真正面から挑んでとにかく魔力を向上させてたから……


 それに、気配を消すなんて……魔物は気配に敏感だから、ちょっとやそっとじゃ気づかれる。

 それを、この人は……魔物に気づかれないように、やってのけているっていうのか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る