427話 意味が分からない



 この部屋には、エレガたちや敵国の魔族など、まあいろんな人が捕まっているわけだけど。

 その中でも、エレガたちは特殊だ。そもそも、他の魔族はこいつらのこと知ってるんだろうか。


 そんな、どうでもいいことを考えていた時……


「ていうか、理由理由って、そんなに理由が必要か?」


「は?」


 エレガが、私を見ていた。


「それは……理由があれば良いってわけじゃ、当然ないけど。理由もなしに、あんなことしないでしょ」


「ははぁ、真面目だねぇ」


 にやにやと笑うその笑顔が、妙に気持ち悪くて。

 私は、思わず顔をそらしそうに、なってしまう。


 なんだか、こいつらと話しているのは……あんまり、よくない気がする。


「っ、じゃあ私、行くから」


「なんだよ、せっかく来たんだ。もう少しゆっくりしていけよ」


「なにも話す気のない人たちと話を続けるほど、私は暇じゃない」


「あのエルフが目覚めるのを待つ以外、やることもないのにか?」


「っ!」


 背を向け、歩き出そうとした私の背中に、エレガの言葉がぶつけられる。

 やたらと楽しそうなその言葉が、いやに不快に感じた。


「同じ黒髪黒目の、仲じゃないか」


「! 一緒にしないで!」


 たまらず私は、振り返り……叫んでしまった。

 牢屋の中にいる相手の言葉に、反応する必要なんてない。そんなこと、わかっているのに。


 別に、気にすることなんてない。


「いや、一緒だろ。あれだろ、お前も転生してこの世界にやって来たんだろ」


「はぁ?」


 そしてこいつは、また意味の分からないことを言い出した。

 そういえば、ヨルも同じようなことを言っていたけど……私には、なんのことだかさっぱりだ。


 なのに、エレガはそれが当たり前……前提のような認識で、話を続ける。


「とぼけんなよ。てか、記憶喪失ってのもどこまで本当か……

 あれか、自分はこの世界の人間だって設定とか?」


「意味が分からない」


「んなことはねえだろ。俺も、ジェラもレジーもビジーも、他にも……あぁ、魔導学園のヨルってやつもだっけ。

 黒髪黒目の人間は、全員が転生者だ。お前も同じ特徴なんだし、一緒だと思うだろ」


 こいつら、ヨルのことまで調べてるのか……

 エレガが言うには、黒髪黒目の人間には、共通点があるらしい。


 それが……テンセイシャってワード。


「なんなの、そのテンセイシャって」


「なにって……元は別の世界で生きてたがなんかの要因で死んだやつが、この世界に生まれ変わるってことだろうが。なに、記憶喪失ってマジなん?」


 ……別の世界? 死んだ? 生まれ変わり?

 牢屋の中で、やけになって適当な話を……


 ……している、目じゃない。


「でもお姉ちゃん、たまーに白髪になるよね。あれなんなの?」


 いつの間にか、ビジーが河合に加わっていた。


「それな。なんだよあれ、髪の色が変わるとか。気味悪いわ」


「お前に、気味が悪いとか言われたくないけど」


 髪の色が、変わる……それは、私自身意識していなかったことだ。

 ただ、ルリーちゃんやラッヘが言うには、魔導大会の最中に私の髪の色が、変わっていったらしい。黒から、白へ。


 この魔大陸でも、何度かそういうことがあった。

 そしてそういう時は決まって、気分が高揚していた。テンションが上がって、自分が自分じゃないみたいな。


 白髪黒目の、特徴……そしてその特徴を持つ子を、私は一人知っている。


「フィルちゃん……」


 私は口の中で、小さく呟いた。

 魔導学園の敷地内で出会った、小さな女の子。初めて会った彼女は、きれいな白髪をしていて……なぜか私のことを、ママと呼んだ、


 ……フィルちゃんは、ルリーちゃんをクレアちゃんが見てくれていた。でも、大会があんなことになって……

 あの子は、無事だろうか。


「テンセイシャがどうとか、髪の色がなんだとかは知らないけど、これだけは教えて。

 みんなは、無事なの?」


「さてね」


「……!」


 即答……こいつ、私の知りたいことに、答えてくれるつもりは、ないようだ。

 こいつらが私たちを魔大陸に転送した後、すぐにその場を離れたのなら、問題ないけど……!


「てか、わざわざ戻る必要あんのか?」


「! 当然でしょ」


「戻って、どうすんだ。少なくとも、お前のお友達は、ダークエルフの女に敵意むき出しだったみたいだが?」


「!」


 煽るような、エレガの言葉……それは、確実に私を抉ってくる。

 それはおそらく、クレアちゃんを指した言葉。


「ひでぇ話だよなぁ。今までお友達と思っていた相手が、ダークエルフ……しかもそれを、隠していたってんだから。裏切りだ裏切り」


「っ、それは……」


「おまけに、ダークエルフの闇の魔術で、生者かも死者かもわからねえ存在に、帰られちまって。

 いやぁ、さすがにあそこまでおもしれえものは、そうそう見れないわ。

 そういや、お前はよくここに来るのに、あのダークエルフは全然来ねえな。なあ、どうしてだ? ん?」


「っ……知らない!」


 これ以上話していても、自分の感情がぐちゃぐちゃになるだけだ。

 戻ったらどうするか? そんなの……ルリーちゃんとクレアちゃんを仲直りさせて、それから……


 ……本当に、そんなことができるのか?


「ちっ……!」


 ダメだ、余計なことを考えるな。自分の気持ちを制御しろ。

 魔獣と戦った時、負の感情を煽られて、精神に負荷がかかった。あれが、まだ残っているんだ、きっと。

 少し、一人になろう。頭を冷やそう。

 

 結局、ここで得られたのは、テンセイシャとかいうわけのわからない言葉だけだった。

 後ろで、鬱陶しい笑い声が聞こえる中で……私は、牢屋部屋を後にした。

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