424話 目覚めぬラッヘ



「……起きませんね、ラッヘさん」


「うん……」


 私たちがエレガたちを捕まえてから、三日が経った。

 その間、私やルリーちゃんの体調はおおかた戻った。特にルリーちゃんは、ダークエルフと魔大陸は相性がいいみたいなので、回復は早かった。


 魔大陸の環境のせいで魔力暴走を起こしたルリーちゃんは、クロガネ曰くもうあのような心配はないらしい。

 なんか、一度暴走して乗り越えれば体が適応して、もう危なくはなくなるんだとか。すごいね。


 ダークエルフのことはよくわかんないけど、クロガネがそう言うんだから信じようと思う。


 そして……ラッヘは、未だに目を覚まさない。


「三日も全然……目を覚まさないなんて」


 ラッヘは眠ったまま。呼吸はしているけど、目を覚まさない。

 魔力は、少しではあるけど回復している。疲労だって、もう残ってないはずだ。


 それなのに……ラッヘは、目を覚まさない。


「死んではいないんだよね……こういうの、植物状態って言うんだっけ」


「それは、私にはよくわかりませんが……心配です」


 私もルリーちゃんも、クロガネも回復した。むしろこの三人の中で一番回復してないのは私だってくらい、ルリーちゃんもクロガネも元気だ。


 なので、ラッヘさえ起きればすぐにでもこの場所を出発できる。

 ……起きてくれれば。


「さすがに、この状態のラッヘを動かしていいのか、わかんないしねぇ」


 クロガネでも、今のラッヘがどういう状態なのか、詳しくはわからないらしい。


 ラッヘが眠ってしまった原因……ルリーちゃんを止めているときの、爆発的な魔力の゙上昇が原因だと思う。

 それはクロガネが言うには、限界魔力オーバーブーストというエルフ族ならば誰でも知っている技みたいだ。


 使えば、自分の魔力を爆発的に上昇……正確には、すべての魔力をその一瞬に使い切るというもの。

 だから、使い終わった後は魔力が空っぽになってしまう。なので、好んで使うエルフ族はいないらしい。


 魔力が空っぽになる。それは、私も同じ頃に経験したものだ。

 でも、私のはほとんどを使い切ったという形だから……空っぽとは、ちょっと違うか。


「ラッヘさん、まだ目を覚まさないのですね」


「ガローシャ」


 部屋の扉が開き、ガローシャが入ってくる。

 彼女もまた、眠ったままのラッヘを看病してくれている。


 ……看病といっても、やれることは少ないんだけどね。


「この状態、どうなってるんだろ。なんにも食べなくても、飲まなくても……弱ってる様子は、ないんだよね」


 今のラッヘは、なにも口にしなくても問題がない状態だ。

 理由はわからない。はじめのうちは、なにも口にしないし、無理矢理にでも食べさせようとしたものだ。


 なにかを口に入れても、飲み込む素振りすらない。それもある。

 けれど、なにも栄養を得ていないのに、体は健康体のままだ。衰弱している様子はない。


 それでも、このままでいいのかはわからない。だからガローシャには、液状にした食べ物を持ってきてもらって、それを口から流し込んでいる。

 結局、飲み込まずに口から漏れるだけだけど。


「魔力も、心拍数も安定しています」


「状態としては、眠っている……それだけなんだよね。

 問題は、三日も眠り続けてるってことで。……あいつらの方は、どう?」


「特に、なにも。だんまりを決め込んでいるだけです」


 食事を載せたお盆をテーブルに置きつつ、ガローシャは答える。

 あいつら、とは捕まえたエレガたちのことだ。


 エレガたちを拘束し、私たちの準備ができ次第出発するつもりだった。

 だけど、結果としてラッヘは眠り続け、出発できないでいる。


 なので、あいつらを閉じ込めておく場所が必要だということで、ガローシャにこの塔の牢屋部屋を使わせてもらっている。

 部屋はたくさんあったから、四人別々に閉じ込めている。一緒にすると危ないからね。


「そっか。クロガネも、妙な気配は感じないって言ってるよ」


 クロガネには、今は召喚の魔法陣の中で休んでもらっている。

 ずっと召喚されっぱなしだと、クロガネも私も疲れてしまう。だから、必要なとき以外はこうして、魔法陣の中にいてもらっている。


 それでも、外の状況はわかるらしく。エレガたちが妙なことをすれば、それはクロガネに伝わるらしい。


 すごいね。


「だんまり、か。私もたまに様子見に行ってるけどさぁ」


 私のこの三日の行動範囲は、ほぼラッヘの看病とエレガたちの様子を見に行くくらいだ。

 外に出てもやることはないし、だったらここでラッヘの目覚めを待っているほうがいい。


 ルリーちゃんには、エレガたちのところには行かせてない。

 あいつらはダークエルフのルリーちゃんを一人、魔大陸に送って殺そうとした。あんなやつらとルリーちゃんを引き合わせたら、なにを言われるかわかったもんじゃない。


 私はあいつらのところに行っては、いろいろ聞いてるんだけど……どの質問にも、黙ったままだ。

 ただ、ビジーが私を見るたび、遊ぼうだのなんだのと言ってくるけど。


「いっそ、拷問でもして吐かせたいこと吐かせますか?」


「おっとりと怖いこと言うなぁ。

 ……まあ、それもなくはないけど」


 魔族の拷問って、考えるだけでも恐ろしいな。

 効果があるならそれもありだけど、あいつらに拷問が効くとも思えないんだよなぁ。


 ……ラッヘの現状が、今は最優先。

 とはいっても、私たちにできることは、こうして祈ることだけなんだけど……

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