422話 結末



 思いの外アグレッシブだったお嬢様、ガローシャ。

 なんにせよ彼女のおかげで、助かったわけだ。彼女が助けに入ってくれなかったら、私は魔族にやられていた。


「まだまだだなぁ」


 ポツリと、つぶやいた。

 魔大陸の環境とか、魔法と魔術の組み合わせで魔力をほとんど持ってかれたとか、理由はいろいろあるけど……


 私がもっと強かったら、こんな結果にはならなかったはずだ。

 ルリーちゃんや、ラッヘだって……気絶するようなことに、ならなかったはずだ。


「あまり、ご自分を責めるようなことがあってはいけませんよ」


「!」


 眠っているルリーちゃんの額を撫でる……そんな私に、ガローシャが話しかけてくる。

 まるで、私の考えていることが、わかったかのように。


「私、今口に出してた?」


「いいえ。姫という立場上、相手の顔色をうかがうことが多いもので」


「あ、やっぱりお姫様なんだ」


 ……私、そんなわかりやすい顔してたのかな。

 いや、単にガローシャが顔色うかがうの上手なだけだな。うん。


 それにしても……


「下の様子は、どう?」


「はい。問題なく勝てそうです」


 下では、未だに魔族同士の争いが続いている。

 私には、どっちがどっちの勢力なのかわからないけど……魔族が着ている鎧に、それぞれ二種類のマークが刻んである。


 一方がガローシャ側の、一方が相手側の勢力ってことだろう。


「……魔族の戦争はよくわかんないけどさ。勝てそうで良かったね」


「ありがとうございます。でも、魔族も人間も、戦争をするなんて愚かな行為ですよ」


 一泊させてくれた音もあるし、ご飯も食べさせてもらった。良くしてもらったけど、私は彼女たちの事情に、積極的に介入するつもりはない。

 ガローシャにも、そうしてくれって頼まれたわけではない。


 元々、魔族同士の戦争。

 私たちがここに留まるようお願いされたのは、戦争に介入してくるエレガたちを食い止めることだ。


 私たちも、エレガたちに用があったからその条件を飲んだ……

 本人たちの実力はもとより、あんな魔獣たちを出されては、そりゃ魔族側は滅ぼされちゃうよな。


「彼らは、どうなさるんですか?」


「今上で、"私"があいつらまとめて拘束してるとこ」


「?」


「あはは、わかんないよね」


 分身魔法のことを知らないと、今の言葉の意味はわからないだろうな。

 でも、とりあえず捕まえてるってことは伝わったみたい。


「ガローシャたちは、あいつらいる? いらないよね?」


「言い方がすごいですね……

 私たちは、そもそも彼らのことを知りませんので」


 もしガローシャが、エレガたちになにか用があるなら……と思っていたけど、その心配はなさそうだ。

 じゃああいつらは、ふん縛って持って帰ろう。


 あいつらがしたこと……ルリーちゃんの故郷のこととかあるけど、魔導大会に介入してパニックを引き起こしたことだけでも、充分な罪に問えそうだ。


「あいつら、なんで魔族やエルフ族を、滅ぼそうとしてたんだろ」


 ジェラは、それに対して面白いから、と言っていた。

 深い意味なんかないのかもしれない。ただ、面白いから……ジェラ以外の三人も、そんなことを思っているんだろうか。


 もしそうだとしたら、やっぱり許せない。


「みんなのことも、気になるし」


 結局聞きそびれてしまったが、あの場にいたみんなはどうなったのか。

 クレアちゃん、ノマちゃん、ナタリアちゃん、ゴルさん、フィルちゃん……他にも、たくさんの人がいた。


 みんな、無事だとは思うけど。ちょっと、モヤモヤする。


「二人が起きたら、私たちはここを発つよ。なんか、お返しもなにもできないけど……」


「そんなこと、気にする必要はありません。彼らを引き止めてくれたことで、充分助かりましたから」


 正直な話、ルリーちゃんとラッヘが起きなくても、クロガネに乗って移動することはできる。けど……

 クロガネと私にも、休息が必要だ。特にクロガネには、無理をさせた。


 魔力があんなに減るなんて初めてだ、って言ってたもんな。

 なのに、空っぽになってないあたり、やっぱりクロガネの元々の魔力量はすごい。しかも魔大陸にも適応しているから、休んでたら魔力も回復するだろう。


 できれば、また一晩……ここに、世話になりたい。


「ま、空がずっと変わらないから、今がいつなのかわからないけど」


 空を見上げれば、そこに広がっているのは紫色の空。太陽の光は差し込まず、明るくも暗くもならない。

 なので、今が朝なのか、昼なのか……それとも夜なのか。それは、わからない。


 そもそも、昼夜の概念があるのだろうか。この場所では。

 時間も、この魔大陸に転移してきてからどれだけの時間が経ったか……正確には、わからない。


「うぉおおおおお!」


「!」


 ふと、下から声がした。それは、雄叫びだ。

 首を動かして下を見ると、魔族たちが手を上げ叫んでいた。見たところ、たくさんの魔族の半数が雄叫び、半数が倒れていた。


 これって……


「終わったみたいです」


 ガローシャが、つぶやく。

 魔族の争いが、終わったということだ。そしてガローシャよ反応から、勝ったのはこちらの勢力らしい。


 下では歓喜に、打ち震えているみたいだ。

 よかった……なんにせよこれで、このあとゆっくり休める、ってことだよね……

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