415話 短絡的なやつ



「おらおらっ、どうしたどうした! 避けてばっかかぁ!?」


「っ……」


 繰り出される、拳のラッシュ。

 エレガの拳は……というか能力は、防御無視の攻撃を放つというもの。


 どれだけ魔力で体を覆っても、どれだけ体が固くても……エレガの前には、それは無意味だっていうことだ。

 それに、エレガは身体強化の魔法を使っているので、速度もある。油断したら拳の嵐が入る。


「オラオラオラァ!」


「ちっ、いちいちうるさいやつ……!」


 この分じゃ、当たっちゃいけない私のほうが、神経がすり減らされる……!


「ハハァ! 分身とはいえ実体はあんのか!

 魔物や魔獣は、ぶっ殺しゃ死体も残さず消えるが! 分身魔法てめえはどうなんだ!?

 分身だから殺しゃ片方は消えんのか! それとも死体は残ったままか! 残ったままなら、いったいどっちがてめえ自身なんだろうな!」


「っ、興味、ないね!」


 こいつ、なんて物騒なこと考えるんだ!


 ……実際には、分身には実体はあるけど、分身がやられれば死体は残らない。

 魔物や魔獣と同じ……って言うと嫌な感じだけど。


 分身にあった意識は消えて、最終的には最後に残った一人のものになる……

 理屈はわかんないけど、まあこんな感じだ。素直に答えてやるつもりは、ないけど。


「すばしっこいな!」


「……ここ!」


 しばらく避け続けて、わかったことがある。

 エレガには、癖のようなものがある。拳を連打して、私がわざと隙を見せた瞬間……大振りになるんだ。


 その瞬間を見逃さず、私は避けると同時に伸びた腕を絡め取り……本来曲がる方向とは逆側、つまり曲げてはいけない方向に腕を曲げる。


「っ! い、いでででで!」


「へぇ、これは効くんだ」


 やっぱりか……エレガの能力は、あくまで防御無視。

 エレガの攻撃力が上がったとか、エレガの身体が固いものに包まれているとか、そういうことではないらしい。


 もちろん、魔力強化を使っているから、素の状態よりは体も固い。

 けれど、魔力強化を使っているのは、私も同じだ。


「あと、魔力強化しても防御力が上がるだけで、腕の関節とか曲がる部分に影響はないから楽に曲げられる……って、聞いてる?」


「ぐぃででで! は、なせちくしょう!」


 やろうと思えば、関節の逆側には簡単に腕を曲げられる。

 逆側に曲げてしまえば骨は折れるし、そうでなくても痛みでそへどころではない。


 ボキッと音がしたような気がするし、多分折れてる。回復魔術が使えれば、折れた腕も治るんだろうけど……


「キミたち、回復魔術とか使えるのかな」


「……っ」


 そもそも、こいつら魔術を使えるんだろうか……

 魔法はたくさん使ってるけど、魔術を使っているのを見たことがないような?


 あちこちをめちゃくちゃに暴れまわっているような奴らに、精霊さんが力を貸すとも思えない。


「ぐっ……いい加減に……!」


「おっと」


 エレガが、捕まっているほうとは逆の手で、拳を繰り出してくる。

 けれどそれは、先ほどまでの速さも勢いもない。


 腕を解放し、避けるのは簡単だった。


「やっぱり、片腕折れてちゃ満足に動けない?」


「っせぇ! クソガキが……!」


 人の腕を折るのは、初めてだけど……案外、なにも感じないもんだな。

 相手はルリーちゃんや他のみんなをめちゃくちゃにしたやつだ。同情の余地なんてないけど。


 ……もう一本の腕も折れば、おとなしくなるかな。


「あっはははは! イキっといていいようにやられてんじゃん!

 手ぇ貸してあげよっか?」


「黙ってろクソが!」


 味方のはずのジェラは、やられているエレガを見て愉快そうに笑っている。

 やっぱりこいつらに仲間意識はない……さっき手を出してきたのも、本当にエレガもろともに攻撃を当てるつもりだったのか。


 エレガは息を荒くして、私を睨みつけている。

 四人の中で、一番扱いやすかったのがレジーだけど……エレガも、短絡的というか、一度崩せば扱いやすい。


「ほら、さっきから吠えてるだけ? さっさと来なよ」


「っ……ぶっ殺す!」


 私は、わかりやすく挑発してみることにした。

 右手をエレガに差し出して、手の先を自分の方へとクイクイと曲げる。「ほら早く来いよ」みたいな感じ。


 それを見たエレガは、予想通りというか予想以上というか……目を血走らせ、私に突進してきた。


「……」


 学園にも、こういうタイプはいた。こういうタイプは、自分の力をとにかく誇示したいのだ。

 その上で、自分が圧倒的な勝利を収める。それが彼らの理想。


 だから、少しでも思い描いたものと違うことがあれば、困惑する。攻撃すべて避けられて、カウンター代わりに腕を折られて……

 エレガのプライド的なやつは、ズタズタだろう。


「プライドを刺激してやるのが一番、か」


「なにごちゃごちゃ言ってやがる!」


 そして、一刻も早く私を倒したいエレガの動きは……単調になってくる。加えて、片腕は使えないのだ。

 ご自慢のラッシュをかわされてやられたのだから、どうにかして自分の拳で勝負を決めたい。それがわかる。


 だから……


「ふっ……」


 声もなく繰り出された拳を、私は少し顔をそらして避ける。

 単調な動きのものほど、避けるのは簡単だ。そして……


 私は、無防備にがら空きとなったエレガの顔面に、体を捻らせ勢いを乗せた蹴りを、おみまいした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る