414話 魔力纏う人間たち



 分身魔法により、私はクロガネと対峙する白い魔獣プサイ、ルリーちゃんとラッヘを襲おうとするエレガとジェラを相手に、それぞれわかれた。

 二人にわかれているので、魔力などの力は本来の二分の一だ。


 でも、今はこれが最善。だと思う。


『契約者よ、問題はないのか?』


「うん。ありがとクロガネ」


 クロガネは、私を気にしてくれてる。契約したとはいえ、会ってからまだ一日も経ってないのに、いい子だ。


 分身体とは、視界を共有している。

 だから、私はクロガネと一緒に戦えると同時に、エレガやジェラと戦うこともできる。


 ただ、視界を共有するってことは思った以上に難しいことだ。どっちがどっちの視界かごちゃごちゃしちゃうからね。

 だから、分身を増やしすぎるのは、力が減少する以上にオススメはできない。


 本来なら、二つの視界を共有して同時に動くだけでも、難しいのだから。


「いざとなれば、クロガネとも共有できるってことなのかな……」


 ……使い魔とも、視界は共有できる。

 やろうと思えば、分身とクロガネの視界も共有できたりするんだろうか。


 ……まあ、そんなことをすればますます混乱するから、しないけどね。


「ブォオオオ……!」


「俺たちを一度に相手にしようなんて、舐めた真似をしてくれるじゃねぇか!」


 雄叫びを上げる魔獣と、エレガが動き出すのは同時だ。

 まず魔獣への対処は、クロガネ主体で任せることになる。私はあくまで、クロガネのサポートだ。


 対して、エレガ&ジェラを相手にするには、私が積極的に動かないといけない。

 もちろん、クロガネ側にも気を配らないといけないけど……


『契約者よ、契約者はあの人間どもを倒すことを優先するといい。

 時折サポートを頼む』


「オッケー!」


 心強いクロガネのおかげで、私はエレガたちに専念できる。

 エレガとジェラは、二手に分かれて私を翻弄している。


 二人とも、身体強化の魔法を使っているのか、スピードが速い。

 ……二人とも人間なのに、魔力は普通に使えているのか。


 身体強化の魔法は、燃費がいいけど自分の体に持続的に魔力を流さないといけないから、回復手段が限られる場所では使い勝手がよくないともされている。


「そんなの関係ない、ってか」


 私とクロガネのように、魔大陸にも適応したモンスターと契約している……という線も考えられる。

 もしくは、"魔獣を操っている"こと自体、なにか関係しているのか……


 とにかく、魔力切れを期待するのは、やめたほうがよさそうだ。


「死ねぇ!」


「!」


 私を翻弄するかのように動き回ったあと、私の刺客からエレガが迫ってくる。

 全身を魔力強化で包み、特に手の先に魔力が集中している。


 私はとっさに振り向き、その勢いで蹴りを放つ。

 エレガの拳と、私の蹴りとが衝突する。


「ちっ」


「……!」


 エレガの手の先は、魔力により固められて……まるで、鉤爪のような形をしている。

 ただ魔力を纏わせるだけじゃなくて、形を模して武器にしている。


 こいつ、魔力の使い方も相当……


「!」


 その瞬間、背後から凄まじい魔力の気配。

 私は振り向くこともせずに、その場から離れる。少し遅れて、エレガも「おっ」と離れた。


 その直後、離れた場所が爆発した。魔力弾によるものだ。


「っぶねえなジェラ! 俺も巻き込む気か!」


「避けてんじゃない」


 今の攻撃を放ってきたのは、ジェラか……私を狙って、エレガもろとも。

 仲間意識がないのは、レジーを見てわかっていたけど……こいつら、本当に……


 それでも、本当に嫌い合っていたら、一緒に行動なんてしていないだろう。

 なんだかよくわからない関係だ。どうでもいいけど。


「なら……!」


 二人がいがみあっている、今がチャンスだ!

 私は浮遊魔法を使い、自在に空中を移動し二人と距離を詰める。


 私の接近に気づいてか、二人は距離を取る。

 二手にわかれて……そりゃそうだよね。だったらまずは……


「片方から、叩く!」


「俺かよ!」


 標的を、エレガに設定。

 距離を取るエレガに対して、私はぐんぐん距離を縮めていく。


「っ、魔力が半分になってんじゃねぇのかよ……!」


 分身魔法により、私の力は半分になっている。

 それでも距離を詰められることに、エレガは不思議に思ってるみたいだけど……


「元々、それだけの力の差があったってことじゃない?」


「あぁ!?」


 まあ、今の私はクロガネと契約してるおかげで、普段の何倍も魔力が上昇してるんだけどね。

 だから、膨れ上がった分半分になろうと、大して痛くはない!


「おりゃあ!」


 エレガの眼前にまで迫り、私は拳を突きつける。

 寸前に顔をそらしたエレガ、けれど頬にかすった感覚はあった。


 その一方で、エレガはカウンターを決めてきた。

 私のお腹に、拳を放つ。魔力でガードしているから、そんなに痛くないはずなのに……


「ぐっ……!?」


 衝撃が、体全体を突き抜ける。

 魔力の防御なんて、関係ない……そう言うように、エレガの拳は私の中にまで衝撃を伝えてくる。


 防御無視の、一撃……!


「はっ、てめえがどんだけ魔力で固めようが、俺の拳には通用しねえよ!」


「!」


 理屈はわからないけど、エレガの攻撃をこれ以上受けるのはまずい。

 だから私は、繰り出される拳のラッシュを、ただ避けるしかなかった。

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