409話 魔力を喰らう



 ……ルリーちゃんのことは、ラッヘに任せた。本当なら、私が救ってあげたいけど。

 適材適所。ラッヘにはラッヘの、私には私のできることがある。


 クロガネを助けるため、上にいるエレガたちに向かって移動していく。

 その途中、立ち塞がったビジーちゃんに向かって、魔力弾を放った……


「アーン!」


「!?」


 ビジーちゃんは大きく口を開けて……それから思い切り、口を閉じた。

 その瞬間、私の放った魔力弾が、弾けて……消えた。


 消滅したのだ。魔法は、一度放ったらなにかにぶつかるまでは基本的には消滅しない。

 同じ魔法で相殺するとか、そういうことでもない限り、魔法が消滅することはない。


 なのに……


「今の……」


「もぐもぐ……ごくっ。

 んんっ、やっぱりお姉ちゃんの魔力さいっこぉ!」


 ビジーちゃんの口元が、動いている。そして、まるでなにかを食べて……咀嚼して、飲み込んだような。

 そんな姿が、見えた。


 今のって……いや、まさか……でも、そうとしか思えない。


「私の魔力を……食べたの!?」


「んー、そうだよー?」


 ぺろり、と舌なめずりをして、ビジーちゃんは恍惚とした表情でうなずいた。

 認めた……私の魔力を、食べたって。


 いや、でも、魔力を食べるってどういう意味だ……

 あれか、原理としては、魔石を食べるモンスターや魔物に近いのかな。あれも、魔石に込められた魔力に惹かれているんだろうし。


 そういう意味では、魔力を食べるって行為自体は、不思議ではないのか……?


「ぷはっ……ねぇ、もっとちょうだいよ」


「!」


 ビジーちゃんが、にたりと笑った。

 あれは……だめだ。なんでかはよくわからないけど、とにかくあれ以上、ビジーちゃんに魔力を喰わせてはだめだ。


 遠距離からの魔法攻撃だと、さっきみたいに魔力を喰われる。

 なら、接近してしまえば……!


「今のお姉ちゃんとまともにやりあっても勝てないよね。だから……むん!」


「!」


 ビジーちゃんへと急接近し、拳を繰り出す……その瞬間に、ビジーちゃんの魔力がどっと上昇する。

 急激な魔力の増加……それだけではない。


 この魔力……って、私の……?


「とりゃ!」


 私の拳を、ビジーちゃんは受け止める。


「それって……」


「ひひっ、驚いた? 私は、食べた魔力を自分のものにできるんだよ」


 食べた魔力を、自分のものにだって……?

 それって、さっき私の魔力を食べたから、私の魔力を自分の力にした……ってこと?


 そのせいか、拳を受け止めるビジーちゃんの手を、押しきれない。

 それに……だ。触れたところから、魔力が吸われて……


「っ」


「あっ、もう気づいたんだ。ちぇー」


 私はとっさに、ビジーちゃんから距離を取る。

 今、魔力を……喰われていた。口からだけではない。手からも魔力を、喰えるのか。


 私は、クロガネとの契約のおかげで、飛躍的に魔力が上昇している。

 対してビジーちゃんは、相手の魔力を喰らい自分の力にすることができる……


 相性、最悪じゃないか。


「それでも……」


 私は、止まらない。止まれない。

 クロガネが、ルリーちゃんが、ラッヘが。待っているから。ここで止まるわけには、いかないんだ。


 ……やってみるか。


「はぁーっ!」


 私は、自分の中に流れる魔力に集中し、一気に跳ね上げる。

 自分一人じゃ、ここまでの魔力を出すことはできない……自分でも、未知の領域。


 そして、これだけの魔力があれば……さっき、クロガネがやっていたことを、私も実践できる。

 ルリーちゃんの力は、暴食……魔力を喰らう力。それが食べる力なら……食べきれないほどの量を、ぶつけてしまえばいい。


 現にさっきルリーちゃんは、クロガネの魔力を「お腹いっぱい」と途中で魔力を喰らうのを中断した。


「せいや!」


「!」


 さっきと同じように、ビジーちゃんに向かって拳を突き出す。

 それを、ビジーちゃんは手のひらで受け止めるけど……その直後、なにかに気づいたように距離を取った。


 触れた部分からも魔力を喰えるというのなら、拳を防ぐのだって効果は発動しているはず。


「魔力を……」


「これなら、どうだ!」


 やっぱり、大きすぎる魔力はビジーちゃんにとって、よくないものみたいだ。

 魔大陸とはいえクロガネと契約している今の私なら、多分魔力の上限はない。可能な限り、魔力を引き上げられる。


 だから……


「ビジーちゃんのことは、好きだったけど……」


「くっ……」


 私は距離を詰めて、ビジーちゃんとの接近戦に持ち込む。

 本当なら、体が触れ合うだけで魔力を吸い取られる。でも、魔力を吸い続けると、ビジーちゃんに影響が出る。


 私の魔力を自分の力にするよりも先に、お腹いっぱいの限界がくる……!


「せやぁ!」


「くぁっ……!」


 何度も拳を繰り出し、意識を私の手に集中させたところで、体を回転させて蹴りを、放つ。

 放たれた蹴りは、ビジーちゃんの首元へと直撃した。


 魔力を喰われるという心配がなければ……体術で、私はビジーちゃんに負けない。


「あ、ぅ……」


 蹴りが良いところに入ったのか、そのままビジーちゃんの意識は刈り取られた。

 それを確認して、私は結界を作り、ビジーちゃんを閉じ込める。


 これで、一人目……!

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