383話 魔物の目的



 クロガネの拳が、魔物のボディに炸裂した。

 意外と武闘派のクロガネに、驚きを隠せないよ私は。


 皮膚を覆う黒い鱗は、当然手にもある。私たちの攻撃が通じないほどの硬さを持つ防御力だ。

 その防御力を、攻撃に転じる……硬さはそのまま、威力の高い攻撃力へと変換される。


「ギェエエエ!」


「わっ……このっ、なにやられてやがる!」



 ピシッ



「ギィイイイ!」


 クロガネに殴られ、そのせいでバランスを崩した魔族は、再び魔物の背中にムチを叩きつける。

 その悲痛な叫び声は、とても聞いていたいものじゃない。


「待ってクロガネ!」


『む?』


 再び攻撃を加えようとするクロガネに、私は待ったをかける。


『どうした、契約者よ』


「……悪いのは、あの魔族だよ。魔物は、ただ無理やり言うことを聞かせられているだけ。だから……」


『……ふむ。ならば、隙を作ろう』


 このまま魔物を倒したところで、この魔物はただ操られているだけだ。ひどいことをしてしまうことになる。

 なら……元凶を、倒すのが一番だ。


 私の気持ちを察してくれたのか、クロガネはその場で大きく吠える。

 それは再び、魔物の体を硬直させる。


「っ、また……!」


『ワレの圧に耐えられる魔物は、そうはいない。隷属の首輪などで無理やり抑え込んでいる魔物には、特にな』


 魔物の動きが止まり、私はクロガネから魔物の背中へと飛び移る。

 まさか、飛び移ってくるとは思ってなかったんだろう。魔族は虚をつかれたような表情で、私を見ていた。


「ぁ……っ、に、人間風情が……」


「えりゃあ!」


「ぐぶっ!?」


 魔物の顔面に、思い切り右ストレートを打ち込む。もちろん、魔力を込めてのものを。

 今私の体の中には、魔力が溢れている。それも、クロガネと契約したおかげだ。


 使い魔とは、魂で繋がっている。魔力も、お互いにリンクして繋がっているのだ。

 だから、私個人の魔力じゃなく、二人分の魔力を合わせて……それは、膨大な量の魔力になる。


「ぶはっ……! こ、この人間ふぜい……」


「おりゃあ!」


「べひん!」


 続けて、足を振り上げて魔族の顎へと、激突。その衝撃に逆らえず、魔族の体は軽く宙に浮く。

 顎を揺らせば、脳も揺れる。種族は違っても、ほとんどの種族の脳は頭にある。だから、これは魔族にも有効のはずだ。


 現に、魔族は目をパチパチさせながら、フラフラと体を揺らしている。

 私は、魔族の体を押し倒し、その上でムチを奪い取る。


 こんなもので、魔物が……


「よし。これで、もう大丈夫だよ」


「キィイイイ……」


 私の言葉が通じたのかはわからないけど、魔物は応えるように吠えてくれた。

 とりあえず、魔族は気絶するまで殴っておいて、と。


 それにしても、私の中に流れてくるクロガネの魔力は、すごい。

 あれだけ思い切り使っても、魔力は全然減った気がしないもの。


『ワレの契約者は、なかなか容赦がないな……』


「ん?」


 クロガネが、なにやらしみじみと言っている。どうしたんだろう。


 それから、クロガネは魔物から、詳しい話を聞くことに。

 どうやらクロガネは、魔物の言葉がわかるらしい。私にはわからないけど、そこはクロガネを伝って通訳してもらえれば、問題はない。


『……ふむ、なるほどな』


「この魔物、なんだって?」


『この者は、突然魔族に首輪をハメられ、従わざるをえなくなったようだ』


 それは、予想していたのとほとんど同じ答えだった。

 この魔物は、無理やり首輪をハメられて……あのムチと電撃で、言うことを聞かせられていた。


 しかも、それだけではない。


『そもそもの話、魔族と魔物は別物の存在だ』


「え、そうなの? 名前が似てるからてっきり……」


『魔族は、あの魔物たちを捕まえ従わせようとしている。そして魔物たちは、あの大群は明確な目的地を定め移動しているという』


 魔物と魔族……同じような言葉だから、関係があると思ったけど、違ったんだ。

 今の話を聞く限り、全面的に魔族が悪いように思う。ただそこにいるだけの魔物を、無理やり抑えつけようとしている。


 なんで、従わせようとしているのか……そして魔物たちは、どこへ向かっているのか。


「魔族の目的と、魔物の目的地。それ、わかる?」


「キィイイ……」


『……魔族の目的は、わからぬ。ただ、魔物が向かっているのは……人間の住まう大陸だ』


「……え?」


 クロガネの、言葉に……私は一瞬、意識が飛んでいた。それほどに、すぐには理解できない言葉。

 あの魔物の大群は、目的地を目指している。その目的地が……人間の住んでいる大陸、だって?


「それって、もしかして……」


 それを聞いて、私には一つの予感があった。

 多分、ルリーちゃんも同じだろう。表情は青ざめて、ゆっくりと私と視線があった。


 人のいる大陸……それは、私たちが元々いた、あの……


「みんな……!?」


 こんなたくさんの魔物がなだれこめば、ただでは済まない。

 魔物一匹一匹ならば、難なく対処できるだろうけど……集団であれば、クロガネの攻撃と同等の威力が出せる連中だ。


 こんなたくさんの魔物、人のいるところに行ってしまえば、その被害は甚大だ。


「止めないと……!」

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