378話 ドラゴンの血
私とドラゴン……改め、クロガネ。
契約の儀式を執り行い、お互いに繋がった関係となった。
傍から見れば、使い魔のその主って関係なんだろう。それは間違っては、いない。
でも、私たちは対等な関係だ。
「これで、てめえとドラゴンの契約は成った。まさか、ドラゴンを使い魔にする奴がいるとは……見たことも聞いたこともねえよ」
「エランさん……」
ルリーちゃんが、うっとりした目で私を見ている。なんだかちょっと、恥ずかしい。
ともあれ、ラッヘの言う通り、これで契約は完了だ。
なんか、クロガネとの絆を感じられるような気がする。
『これが、契約というやつか……ふむ、悪くはないな』
「あれ、なんかクロガネの声が、さっきよりスムーズに聞こえるようになった気がするけど」
『それも、契約における恩恵の一つだろう。魂が繋がったことで、よりはっきりとワレの言葉を感じられるようになった』
「なるほど」
さっきまでは、クロガネの言葉はカタコトしていた。でも、今は違う。
聞こえるだけなら、私以外にも相性のいい相手にはそう聞こえるのかもしれない。でも、契約をしたことで、二人の関係は強固になり、言葉も聞きやすくなった、と。
ただ、当然だけど二人には、クロガネの声は聞こえないようだ。
「こうやって言葉も通わせられるし、その気になれば頭の中で会話もできるんだよね」
「そういうこったな」
「ふふん。ラッヘ、ありがとね! 召喚魔術の、むつかしい術式とかやってくれてさ!」
「……別に、礼を言われることでもねえだろ。この魔大陸を、私らだけで旅するよりは、戦力が多いに越したことはないと思っただけだ」
ラッヘがいなかったら、クロガネとの契約はできなかっただろう。
ラッヘは私を嫌っているだろうけど、やっぱり優しい。
「ん、んん……」
そのとき、誰かのうめくような声が聞こえた。
それは、縛り上げていた魔族のものだ。
目を、覚ましたのだ。
「ん……?」
「おーおー、ずいぶん長く眠ってたようで」
魔族の目が覚めたことに、ラッへも気づいたようだ。大股で魔族の前へと立ち、腰に手を当て睨みつける。
魔族は、状況を確認しているみたいだ。あちこちに、首を動かして目をやり。
視線は、正面に立つラッへへ。
「……どういう状況?」
その疑問も、まあ当然とは言えるよね。
私たちと、クロガネが一緒になって、魔族を見下ろしているのだから。
そして、自分が縛られていることに、魔族は気づいたようだ。ギシギシと、縄を外そうとしている。
でも、そんなやわな縛り方はしていない。
「ちっ。なにが目的だ」
「そりゃこっちのセリフだ。この村の魔族を殺したり、ドラゴンをおびき寄せたり、私らを殺そうとしたり……まあ、私にとっちゃ、どうでもいいことなんだがな」
「なんで、そんなことをしたの」
この魔族は、この村に暮らしていた他の魔族を殺したという。それも、理由はクロガネをおびき寄せるため。
結果、クロガネを地下へと封じていた。
今私たちは、他のことに気を取られている場合ではない。でも、なんだか……胸の奥が、もやもやするのだ。
「なんで、ね……そりゃ、そのドラゴンを使えば、いろんなことができる。知ってるか、ドラゴンの血には様々な効果がある。不老不死、万物に効く薬、そこいらの石ころを莫大な金に変える……
そいつを閉じ込めて、後々利用しようと思ってただけさ」
「……それだけ?」
「あぁ」
魔族は、悪びれた様子もなく、自分の目的を話す。
それは、私が予想していたものではなかった。なんかこう、もっと壮大な……いや、これも壮大ではあるのかもしれないけど。
なんて、子供っぽい……あぁ、この魔族子供か。
子供が夢見るような、ものを。
「はぁ、アホくさ。んな理由で殺された魔族連中は浮かばれねえな」
まあ魔族のことなんざどうでもいいが、とラッへは吐き捨てる。
ラッへの言う通りだな……そんな理由で殺されたら、かわいそうなんてもんじゃない。
「クロガネの血って、そんな効果があるの?」
『さてな。他の種族にとって、ワレらの血は希少だとは耳に挟んだことがある』
自分の血が特別だなんて、よくわかんないよね。
そういえば、クロガネって……始まりの四種族の竜族、ってやつでいいんだろうか。
伝説の生き物って話だし、多分そうだろうな。
伝説、はぁいい響きだ。そんな珍しいモンスターと、契約を結んだわ、た、し!
「……クロガネ、って、まさかそのドラゴンの名前か?」
「ん? そうだけど」
「……ドラゴンと、契約できる人間がいるなんてな」
私とクロガネを見比べて、魔族は言う。
魔族にとっても、やっぱり珍しいことなのか。人間とドラゴンの契約って。
てことは、だ。……ふふん、ドラゴンと契約したんだよって、クレアちゃんやノマちゃん、ナタリアちゃんと、みんなに話したら、どんな顔をするだろう!
……みんな、あれからどうしただろう。ちゃんと、無事だよね。
「そろそろ行くぞ。そいつから得られるようなもんは、なにもねえよ」
「そうだね」
さて、この魔族の扱いをどうするか……だけど。
さすがに、はいここで殺しましょうとはならない。私たちを殺そうとしたけど、返り討ちにしたし。
クロガネを封じていたのは許せないけど、こいつがそんなことをしなければ、私はクロガネと出会えてなかったかもしれないし。
そこは、プラマイゼロってことでいこう。
この村の魔族を、殺したことについては……正直、どうでもいいっていうのが本音だ。
ひどいかもしれないけど、関わりもない魔族が死んでいたところで、だからなんだって話だ。
「おい、こっからどっか行くなら、この縄ほどいてくれよ」
「ほどいた瞬間襲われてもかなわねえから、だめだ。がんばりゃ、そのうちほどけんだろ。飢え死にするまでにはな」
魔大陸を旅するには、魔大陸に詳しい人がいたほうがいい。でも、危険をおかしてまで魔族を連れて行く必要もない。
なので、魔族はここに置いていく。
こんなんじゃ全然足りないけど、他の種族を殺した罰、ということだ。
「なあ、クロガネの背中に乗って飛んでけば、あっという間に大陸を抜けられるんじゃねえか?」
「それは……名案ですけど、いいんでしょうか?」
「いいかな、クロガネ」
『それくらいは造作もない』
私たちは、クロガネの背中に乗せてもらい……魔大陸を渡ることを、決めた。
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