第286話 話せない話
元が人間の魔獣……それが、"魔人"と呼ばれる存在。
マーチさんは、推測……仮定の話だと言っていたけど。そんな話が出てくる時点で、可能性としてはかなりあるのだ。
それに、カゼルが言ったことにも一理ある。わざわざ"魔人"なんて呼ばれ方、なにかあるとしか思えない。
「……そう、なるかな」
先ほどの王様の言葉。レジーが召喚したオミクロンも、元は人間だったのではないか……その問いかけに、マーチさんは固い表情でうなずいた。
今の推測が、仮定でなく真実だった場合。王都で暴れたあの魔獣は人間だったということになる。
そして、それを討ち取ったのは先生と……ここにいる、ゴルさんだ。
「……」
ゴルさんは、さっきから押し黙ったままだ。いったい、なにを考えているんだろう。
魔獣とはいえ、元は人間。それを殺してしまった形になってしまったということだ。
「元は人間……それが本当ならば、その衝撃は推し量ることなどできませぬ。しかし、すでに魔獣となり暴れ回っていたものを、討伐したゴルドーラ様に非はありますまい」
ゴルさんが気にしていると思ったのか、アルミルがフォローするように口を開く。
元が人間でも、魔獣になってしまえばそこに意思などない。だから、気にする必要はないと。
……本当に、それで割り切れるだろうか。
「気遣いは無用だ。アレが元は人間だったとしても、あのまま放置していればより多くの命が失われた。俺は、それを防いだだけだ」
ゴルさんは、こう言っているけど。先生もおんなじような理由を言いそうだなぁ。
倒した魔獣は元々は人だった……それはつまり、人間を殺めたと言われてしまっても、不思議じゃない。
だというのに、ゴルさんには動揺は見えない。さすがと言えばいいのかどうか。
「白い魔獣か……」
……そういえば、以前魔導学園に現れた魔獣。ルリーちゃんを狙っていた、ルランが召喚したというあの魔獣は。
あいつも、"魔人"だったりするんだろうか。数多くの"魔死事件"を起こしたルラン、そこにノマちゃんのように生き延びた人がいてもおかしくはないし、もしかしたら……
確かあの魔獣は、氷漬けにしたのを学園で管理しているんだったか。あれ以来見にも行ってなかったし、今度見せてもらおうかな。
「それで……白い魔獣が元は人間だった可能性がある。それが、今回我々に報告したかったことか?」
「そうだね。内容が内容だけに、あまり大勢に聞かせたい話じゃない。だからここにいる、メンバーだけの共有にしてほしいの」
「なるほど……」
マーチさんの危惧することはもっともだ。魔獣が元々は人間だったかもしれない……そんな話が切れたら、国中が大混乱になるだろう。
それがたとえ白い魔獣だけだとしても、そんなのは関係ない。そして、みんなはゴルさんのようには強くない。
だからもし魔獣と遭遇しても、ただでさえ強大な力に加えて相手が人だったと認識してしまったら。ますますなにもできずに、やられてしまうかもしれない。
「あの、この話、ノマちゃんには……」
「……話したほうがいいとは、思う。でも、判断はエランちゃんに任せるよ」
"魔人"となったノマちゃんは、いずれ魔獣になってしまう可能性がある……それは、本人に伝えるべきか。
本当なら、本人に伝えたほうがいい話だとは思う。だって、自分の体の異変を知りたくない人はいないだろう。
だけど、本当にそれでいいのか? 知ってしまえば、自分がいつ魔獣になってしまうかもはされない恐怖がつきまとう。
いくらノマちゃんでも、そんな重荷に耐えられるとは……思えない。
私が……私は、ノマちゃんに話したほうがいいと、思っているのか? それとも、そう思ってはいないのか?
「その"最上位種"ってのは、どうしてみんな白いんだよ」
「それは、わからない。けど、こちらとしても区別化はできる。
……逆に言えば、魔獣になっていない人は、それが"魔人"なのか区別できない」
人と魔の血が混ざりあっているなど、外からではわからない情報だ。見た目で白い魔獣のように、なにかわかるものがあればいいのだけど。
判別するものがないということは……
町中で、隣を歩いている人がいつ魔獣になるかもわからない、ということだ。
こんなこと、大っぴらに発表できるわけもない。
「人が魔獣になる現象、か。それは、どの程度の時間を有するのかはわかっているのか?」
「……人が魔獣になるまでの時間は、わかっていない。魔石の魔力と混ざりあった当日や数日後……なんてことはないと思う、けど」
そう言いながら、マーチさんはチラリと私を見る。
もしも血が混ざりあってすぐに魔獣になってしまうのなら、数日ノマちゃんを検査しているときになにかあるはずだ。
ノマちゃんに今もなにもないということは、そういうことだと思う……でも……
「それも、個人差があるかもしれないから、わからない」
これまでに調べることができたのは、ノマちゃん一人。それは、確定と言えるほどに情報が集まっているわけじゃあない。
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