第280話 集められた理由



 生徒会でのあれこれを終えた私は、自分の部屋へと帰宅した。

 部屋の中身こそ前の部屋とおんなじだけど、場所は違うため、ついつい前の部屋に帰る感じで歩いていってしまう。


 それはノマちゃんも同じみたいで、道間違えちゃうよね〜、とお互い笑いあったものだ。


 ……そして、現在はそれから数日後。私は王城に呼ばれ、とある一室に招かれていた。

 前回は、ゴルさんや先生、それにコロニアちゃんが着いてきてくれたけど。今回はゴルさん、コロニアちゃん、そしてコーロラン。つまり、王子王女が。


 その人たちが呼ばれるならともかく、どうして私まで、と思わないことはない。ていうか思いまくっている。

 けれど、呼び出しを拒否できるはずもなく、城へやって来た。ところが、一緒に来た三人は王様に呼ばれて王の間へ行ってしまい、現在は私一人別の場所に案内されたわけで……


「……」


 王の間ほどではないけど部屋は大きい。その中心に丸いテーブルが置かれていて、それぞれ席が用意されている。

 今更だけど、あの部屋どんだけ大きかったんだよって思う。


 案内役の兵士さんに案内され、そのうちの一つの椅子に座った私は、このピリピリした空気に圧倒されていた。

 自分でも言うのもなんだけど、柄にもなく私は肩を縮めていた。だって……


「まったく最近の若いもんは、年上に対する礼儀っちゅうんがなっとらんな」


「ハッ、長生きしてることが偉いと勘違いしてるジジババはすぐに一括りにする。礼を尽くされたければまずは相応の成果を挙げたらどうだ」


「その結果として、今のこの国がある。わしらが苦心して作ってきたこの時代を、なんの苦心もなくぬくぬくと生きているクソガキがよぉ吠えるのぉ」


「過去の栄光をいつまでも引きずってんなよ、思い出話はよそでやりな」


「言うことだけは一人前じゃのぅクソ若造ごときが」


「お互いだろクソジジイ」


「帰りたいなぁ」


 今部屋にいるのは、私と他に二人。

 丸テーブルの対面に座る形で、それぞれ白髪のおじいちゃんと、灰髪オールバックの若者が、睨みを効かせていた。


 部屋に入って数分、すでに空気が重い。私は、自分でも明るいムードメーカー的なところがあると自負しているけど、この空気には耐えられそうもない。

 王様からの呼び出しじゃなかったら、もう帰っているところだ。いや、そうじゃなくてももう十割くらい帰りたくなっている。


 誰だろう、この人たち。二人ともなんか高そうな服着ているけど……


「皆、すまない。待たせたな」


 早く誰か来てくれないかな、と思っていたタイミングで、扉が開く。扉の向こう側から姿を現すのは、王様だ。

 その姿を見た瞬間、若者とおじいちゃんが立ち上がりお辞儀をする。いきなりのことに驚いたけど、一応私も倣っておく。


 王様は「固くならなくて良い」と言葉を返すと、一番奥の席に歩く。

 王様の後ろからは、ゴルさん、コロニアちゃん、コーロラン、そしてジャスミルのおじいちゃんが部屋の中に入ってくる。


 さらに、ジャスミルのおじいちゃんの隣にいるのは、マーチさんだった。


「国王陛下、これはご機嫌麗しゅう」


「固くならなくて良いと言ったろう、力を抜けアルミル」


「はっ」


 王様が固くならなくて良いと言ったにも関わらず、おじいちゃん……アルミルと呼ばれたその人は、王様が着席するまでずっと頭を下げていた。

 うーん、王様より年上っぽいのに、すごい敬ってるな。


 一方で、若者は早々と席に座っていた。

 私はどうしたらいいのかわからないので、頭は上げて立ったままだ。


「王子、王女、それにリベリアン殿まで。皆、立派なお姿になられて」


「相変わらずだなお前は。それに、最近も会ったばかりだろう。まあ座れ」


 それぞれに礼をしつつ、ここにいる面子にも挨拶をしていく。そんなアルミルおじいちゃんに、ジャスミルおじいちゃんが落ち着かせるため声をかける。

 どうやら、二人は気安い関係のようだ。


 みんなが席について、ようやく一息つける。あと三分あのままだったら、私ゃ帰ってたところだったよ。


「それで、わざわざこのメンバー……なんの集まりなんだよ陛下?」


「! 貴様、国王陛下に向かってそのような口を……!」


 この場にいるのは、王族とその秘書、謎のおじいちゃんになぜか私……そして謎の若者だ。

 その若者は、椅子の背もたれによりかかり、頭の後ろで手を組んでいる。王族の、それも王様の前でそんな態度を取れるなんて……私でも、さすがにしない。


 案の定、それを見たアルミルおじいちゃんは怒っている。額に青筋が浮かんでいる。


「二人とも落ち着きなさい。アルミルはすぐに怒らない。カゼルは、国王陛下に対して言葉遣いを改めるように」


「へいへーい」


 注意されたアルミルおじいちゃん、そして若者の名前はカゼルという。

 ジャスミルおじいちゃんの注意に、顔をそらしながらも返事はしている。ただ、本当にわかっているのだろうか。


 そんな二人を見ても、王様はなにも言わない。ただ、これから本題に入る……というのは、なんとなくわかった。

 それに構ってられないから、ジャスミルおじいちゃんも軽い注意で済ませたってことか。


 場が静まったのを確認して、王様は口を開いた。


「今日、諸君らに集まってもらったのは、諸君らに伝えておきたい事柄があったからだ。

 先日、そこのエラン・フィールドが倒した、獣について」


 私の名前が出た瞬間、みんなの視線が私に向く。

 な、なんか緊張するなぁ。


 というか、獣、ってあの白い獣のことだよね。ギルドに渡して調べてもらっていたはずだけど……その結果を、王様から伝えられるなんて。

 だから私はここに呼ばれたのかな。でも、あの獣を倒したのはフェルニンさんだ。彼女の姿は、ここにはない。


「そそ。あの獣……いや、魔獣について、わかったことがあるんだよ」


 王様の言葉を引き継いで、マーチさんが話す。確か、有名な研究者って話だったよな。

 ノマちゃんの体についても調べてくれた人。この人も、獣を調べてくれていたのか。


 ……って、獣じゃなくて、魔獣って言ったのか、今。

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