第276話 魔導士冒険者



 白い獣との戦い。私自身に不可思議な現象が起きながらも、なんとか勝つことはできた。

 それも、ガルデさんが連れてきてくれた、同じ冒険者であるフェルニンさんのおかげだ。冒険者の中には少ないという魔導士で、すごい魔術を見せてくれた。


「魔術が、使えなかった?」


「うん……あ、はい……」


「楽な話し方でいい、そういう煩わしいのは好きじゃないんだ」


 獣との戦闘中、魔術を使えなかったことを話す。それを聞いて、フェルニンさんに、起こった出来事を話す。

 普通の魔物とも魔獣とも違う感じがしたこと、魔術が使えなかったこと、魔法を吸収したこと……


 さすがに、腕を食い千切られて、あろうことがその腕がいつの間にか生えてきた、なんてことは話していないけど。

 そんなことを話したら……不気味だと、思われてしまうかもしれない。それに、今はなんともないわけだし。


「それにしても、異質な獣、か」


 軽くではあるけど私の話を聞いて、フェルニンさんは倒れている獣に視線を移す。

 魔物や魔獣は、死んでしまえばその体は黒いもやになって消える。だけどこの獣は消えておらず、死体が残っている。


 その理由は……ただ、雷を受けて気絶しているだけだからだ。


「気絶させられれば、魔物とかも調べることはできるんだよね」


 ただ、簡単に気絶させるとはいっても、それはとても難しい。なにせ、相手はこちらを殺すつもりで来るのだ。

 殺されないために、抵抗しようとすれば、それだけうっかり……ということにもなる。


 そうでなくとも、魔物などの耐久力ってやつは計れない。ちょっとの攻撃で死んでしまうこともある。

 かと思えば、気絶していたと思ったら気絶したふりだったとか、途中で目覚めて大騒ぎに、なんてこともあるみたいだ。


 なので、殺さず捕らえるのは、案外難しい。


「アレを持ち帰って、異変を調べる、か」


「その方が良いと思う」


 どうやら、他に魔物はいない。今回の依頼内容は魔物討伐、魔物かもわからないこの獣が対象かはわからない。

 ただ、対象じゃなくてもこいつをギルドに持ち帰ることには、大きな意味がある。


 私が、変な獣がいたって報告するだけよりも、実物を持って帰って見せたほうが早いし確実だ。

 獣を調べて、どういう生態なのか……似た獣が生息しているのか。まだ危険ならばこの森は封鎖したほうがいいとか。

 いろいろあるのだ。それを決めるのは私じゃないけど。


「だが、大丈夫かそいつは?」


「なんだ、男のくせにビビっているのか?」


「! だ、誰が!」


 気絶している獣を見てガルデさんが不安そうにしていたが、フェルニンさんの言葉に反応する。そのやり取りを見るに、なんとも気安い仲、といった感じだ。

 まだ会って数分だけど、なんとなく二人の関係性がわかってきたかもしれない。ガルデさんはあれだ、尻に敷かれてるってやつだな多分。


 ……それにしても……


「そんなに仲良いなら、フェルニンさんをガルデさんのパーティーに入れるのはダメなの?」


「今のやり取りを見て仲が良いと思われたのには物申したい気分だが……」


 二人の様子を見るに、少なくとも仲は悪くない。それに、実際ガルデさんが助太刀を頼み、それにフェルニンさんは応えてくれた。

 だったら、頼めばパーティーに入ってくれるんじゃないだろうか?


 そう思ったんだけど……


「こいつは冒険者で少ない魔導士、それもAランクだからな。引く手あまたもあまたで、あちこちから声かけられているんだ」


「ウチに入ってくれ、こっちの待遇はいいぞ、などいろいろ言われてな。

 もうめんどくさいから、ソロで活動することにしたんだ。パーティーに誘われても、一時的に入るだけで継続はしない」


 ガルデさん、そしてフェルニンさんが続いて答える。

 ほほぉ、フェルニンさんはAランクの冒険者なのか。確か冒険者のランク制度は、D、C、B、Aランクと一つずつ上がっていくんだったな。


 その上に、最高位のSランク。Sランクは、ガルデさんたちが会ったことがないほど希少らしく、それでもそんなランクがあるのは有名なくらい。

 そして、そのSランク冒険者こそなにを隠そう、私の師匠、グレイシア・フィールドなのだ!


「なんでこの子は、鼻をふくらませてちょっと自慢げなんだ?」


「気にするな。

 ……もう本当に、魔物とかはいなさそうだな」


 周囲を確認すると、変な感じはしない。魔物や魔獣がいる気配はないし、もう本当に大丈夫そうだ。

 ただ、念のために五分、この場に滞在する。無事を確認してから、私たちはギルドへと足を向けた。


「フェルニンさんくらいの実力があれば、もしパーティーに本格的に入ったら、そのパーティーが恨みを買いそうだね」


「あまりうぬぼれた物言いは好きではないが、そうなる可能性が高いな。私を取り合ってくだらん争いが起こるのもつまらん」


「だから、争いの種をなくすためにソロに……なんかかっこいい!」


 獣はガルデさんが担ぎ、帰り道を私とフェルニンさんはおしゃべりしながら歩く。

 もし獣が気絶から目を覚ましてもいいように、しっかりと拘束はしているので大丈夫だ。


 なんていうか、学園関係者以外で、年上の女性とあまり話すことはなかったから、新鮮な感じだ。タリアさんはもうお母さんってレベルだし。


「冒険者には魔導士が少ない。そもそも、こいつらのように魔導のことがよくわかってない奴らが結構いる。

 だから、こうして話ができて嬉しいよ」


 気難しい人かと思ったけど、話してみるととてもいい人だ。なんか、頼りになるお姉さんって感じ。

 こうして見てると……少し、興味は出てくるよなぁ。冒険者。

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