第254話 魔力に長けた種族



「魔法の威力を上げれば、オレオレの魔法殺しの壁は突破できる。

 けれど、それだけじゃあダメダメだ。力押しじゃ、オレオレには通用しないよ」


 私の放った魔法は、いつもよりも威力が上がっていたおかげか、先ほどのように魔力に変換され消えてしまうことはなかった。

 だけど、魔法の起動を変えられた。エルフに一直線だったはずの魔法を。


 放った魔法は基本、放った本人以外が操作するなんてことはできない。それができるとすれば、よほど魔力というものに精通している人物か……


「さすがはエルフってことか」


 魔法は魔力の塊……だから、魔力の扱いがうまいと言われているエルフなら、他人の魔法を操作できても不思議じゃないってことだ。

 師匠も、同じことをしていた。私の魔法を、まるで自分のものみたいに扱ってたっけ。


 たくさんの火の玉を放ったら、それをお手玉みたいにしてかわされたのは今はいい思い出だ。

 ……それと、だ。


「魔法殺しの壁……?」


 今、この男すごい物騒なことを言った気がするんだけど。なんだよ、魔法殺しって。

 ただまあ、そのニュアンスはなんとなく、わかる。


「そそ、キミ不思議がってたでしょ。オレオレに届く前に、魔法が消えちゃう現象。それはオレオレが、自分の一定距離に入り込んだ魔法を、魔力に分解する壁みたいなのを展開してるから。

 ネーミングは適当につけただけだから、気にしないでよ」


「……わざわざ教えてくれるんだ?」


「察しはついてたっしょ。それに、わかったからって簡単に対処できるもんでもない。

 分解する魔法も、魔力が一定以上あれば効果は受けないけど、その場合は今みたいに弾けばいいだけだしね」


 ご丁寧にネタバラシをしてくれるけど……エルフの言う通り、答えを聞いたところで対処が思いつくわけではない。

 半端な魔法は、あの壁の前に防がれる。威力を上げて壁を突破しても、魔法を操作されて当たらない。


 なるほど、魔導士にとってはこれ以上やりにくい相手はいないだろう。


「面白い……!」


「!」


 エルフとの勝負。これまでの、魔導のぶつかり合いとはまた違った勝負。

 これまで、魔導について知識を深めてきたし、技術だって磨いてきた。それが、まったく意味をなさない相手。


 なのに、どうしてこうも、ワクワクが止まらないのだろうか!


「この状況で笑うとか……キミもずいぶん変わり者みたいだねぇ」


「そりゃどう、も!」


 私はもう一度、魔力で身体強化をして、エルフの懐に突っ込む。ただし、今回は全身ではなく、足のみの強化だ。

 どうせある程度近づけば、魔力を剥がされてしまうのなら……全身纏うよりも、足だけにしておいたほうがいい。


 また私が突進してくるとは思ってなかったのか、エルフは驚いた様子だ。

 予想通り、ある程度近づけば身体強化の魔法は解除されてしまうが……それは、折り込み済みだ。


「へぇ、また突っ込んでくるとは。いったい今度はなにを……」


「どせぇえええい!」


「うぉお!?」


 余裕を浮かべたその面に、思い切り拳を振り抜く。けれど、今度は寸前に避けられてしまった。

 くそ、あと少しだったのに。わずかばかり警戒していたってことか。


「おいおいおいおい、またそれかよ。女の子なんだからそんな野蛮なことは……」


「いっぱしの魔導士は体も鍛えてこそ! 師匠の教えだよ!」


 拳はかわされたけど、構わず追撃をする。拳を、蹴りを、エルフの顔面目掛けて打ち放っていく。

 魔力で強化はできないけど、それでも結構素早く攻撃できているはずだ。


「っ、確かにこれなら、オレオレの魔法殺しの壁も意味なし。考えたね」


「魔法が使えないなら、拳だよ!」


「悪くないが……やっぱり、まだまだ!」


 繰り出した拳を寸前でかわされ、逆に掴まれて……背負投げの要領で、ぶん投げられてしまう。

 空中にぶん投げられた私は、身動きがとれない。だけど、エルフが私に向けて杖を構えているのが見えた。


 エルフが魔法を放っても、私にはエルフの魔法を防ぐ術はない。

 ……だったら。


「……の……を永久とこしえに……」


「……っ、魔術の詠唱か! いつの間に!」


 投げられた直後に、めっちゃ早口で、だよ!


永久凍結エターナルブリザード!!!」


 杖をかざし、魔術の詠唱を終える。杖の先端が淡く光り、魔術が放たれる。

 強烈な冷気を纏ったそれは、あの魔獣も凍らせたほど強力なものだ。いくらなんでも、これをくらっては無事ではいられないだろう。


 それに、これはただ単純に弾けばいいという問題でもない。強烈な冷気だ、近づいただけでもただでは済まない。

 さあ、どうする……


「これが、例の魔術を倒したという魔術か! それも、火属性と水属性の魔術を合わせた複合魔術……素晴らしい! さすがグレイ師匠の弟子を名乗るだけはあるな!」


 なぜか、嬉しそうに瞳を輝かせている。ただでさえきれいな緑色の瞳が、よりいっそうの輝きを持つ。

 魔術の腕を褒められるのは嬉しいけど、ずいぶんと余裕な態度で……


「"キャンセル"」


「……はっ?」


 次の瞬間……放たれた冷気が、弾かれたように消えた。先ほどの魔法と同様……いや、少し違う。

 先ほどの魔法は、近づいただけで消えていたけど……今回は、なにか言葉を言っていた。


 いったい、なにを……したんだ?


「ん〜、魔法も魔術も、魔導の腕はなかなかだ。けど、それだけじゃあ足りない、足りないねぇ」


 実に腹の立つ顔で、笑っていた。

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