第253話 デリカシーなしエルフ
身体強化に使っていた魔力が、引き剥がされた! これも魔力である以上、さっき撃った魔法と変わらないってことか。
やば、身体強化が解けたら、素の状態だ。丸腰で相手の懐に飛び込むなんて……
「魔力で身体を強化しようが、それが魔力である以上オレオレには通用しないよ。そして魔力で強化されていない拳じゃオレオレにとって蚊が刺したようなもんだ。
残念だっ……」
「おらぁあああ!!」
「ぶへぁらぁ!?」
反撃されたら、私には抵抗する手段がない。ならば、破れかぶれでやってやる!
そう思って、思い切り振り抜いた拳は……エルフの頬に、めり込んだ。
そのまま、力の限りに腕を振り抜き、エルフは吹っ飛んでいった。
「あぅあっ……いっだだだ! なんだよこの馬鹿力……」
「誰が馬鹿力じゃあ!」
「!?」
吹っ飛んでいくエルフを追いかけるように私は走り、エルフが倒れ動きが止まったところで、私は飛びかかる。
相手の実力を見たい気持ちと、その横っ面に何発か入れたい気持ちで、私の心は揺れていた。
結局後者が押し勝ち、飛びかかった私はエルフに蹴りをおみまいする。
「せいや!」
「女の子が、はしたないよ!」
「わっ」
またも顔面を狙ったけど、今度は足首を掴まれ、蹴りを当てる前に止められてしまった。
……って、今の私足おっぴろげてる状態じゃん!
「は、離せ変態! 女の子の脚ジロジロ見るなんて!」
「仕掛けてきたのはキミだろう。それに、オレオレらエルフにとって、キミくらいの年の人間なんて赤子も同然だ。
それともキミは、赤子のオムツを見て性的興奮を感じるタイプ?」
「デリカシー!!」
私は杖を構え、デリカシーなしエルフに向けて至近距離から魔法を撃ち込む。火の玉をイメージして、それを放つ。
するとエルフは、私の足から手を離して……その場から飛び退き、"避けた"。
「避けた? 魔法は魔力に変換されるんじゃないの?」
今のは、ダメ元で撃った魔法だけど……それを、エルフは避けた。さっきまでなら、避けるどころか動く素振りもなかったっていうのに。
そんな私の疑問に答えるかのように、エルフは笑う。
「いやぁ、今のはびっくりした。すげー威力じゃん」
「?」
すげー威力? 今の魔法が? いつも通りの魔法だぞ?
魔法は自分の魔力の込め具合で威力が変わるけど、今のはとっさに撃ったから、称賛されるほど高い威力じゃないはずだけど。
ただ、一つわかったことがある……"すげー威力の魔法"を避けるってことは、魔力に変換されるアレも、魔力の上限があるってことだ。
あまりに高い魔力の塊は、変換できない! じゃあ、魔術も普通に通用するのかな。
「ずいぶんとずいぶんと珍しいもの持ってんじゃないの。
いや別に、そいつを持ち込んだからって卑怯だとか言うつもりはないよ」
ただ、エルフの言葉はあんまり理解できない。すげー威力の魔法だとか、珍しいもの持ち込んだとか。
私は別に、今回の勝負になにも持ち込んでなんて……
「……あ」
あったわ、持ち込んだもの。正確には、外すのを忘れてて持ち込んでしまう形になってしまったもの。
この、右手の中指にはめてある、指輪……魔導具だ。
国宝の魔導具"賢者の石"。指輪についている宝石が魔導具で、身に付けている人の魔力を底上げしてくれているらしい。
指輪についているそれ、とりあえず指にはめとけば効果が発揮されるみたいだけど……今私、"賢者の石"の力を使っていたの?
私はそのつもりではない。というか、今の今まで忘れてすらいたんだし。つまり、無意識に魔力が底上げされていたというわけで。
それとは別に、氷の槍は普通の魔力だった。ってことはだ……
「私が意識してないのに、勝手に強化される魔法もあれば、そうじゃない魔法もあるってこと? なにそれやりづら」
魔導具を使いこなすことができれば、むしろやりやすくはなるんだろうけど。ピアさんの
ただ、それとは勝手が違うし、どうすればいいのかわかんないんだけど。
思えば、魔導具使ったのなんてあの時が初めてだったもんな。魔導具の使い方についてピアさんにも聞いておけばよかった。
「いいさいいさ、別になにを持ち込もうが、使おうが構わない。
キミの全力で挑んできてくれ」
「涼しい顔しちゃって……」
この魔導具は、うっかり事故みたいな形で持ってきちゃったけど……王様に貰ったものだし、もう私のものだし、エルフもああ言ってるし。
存分に使わせてもらおう!
多分、こういうのって念じれば、魔力が強くなるはず……!
「ぬぬぬぬ……えいや!」
イメージするのは火の玉、それをもっと強くなれもっと強くなれ……と念じていく。なんだか、自分の中の力が大きくなっていくような気がする。
それを魔法として展開し……杖を振り、放つ!
巨大な火の玉は、まっすぐにエルフへと向かっていく。
確かに、いつもよりも使用した魔力以上の威力が出ているような気がする!
「オーケーオーケー、素晴らしいね。なら、こっちもそろそろ行かせてもらおうかな」
迫りくる火の玉に焦る様子はまったくなく、エルフは杖を構えた。そして、軽く振る。まるで、演奏を指揮する指揮者のように、軽く。
すると、火の玉は、杖が振られた方向へと起動を変えた。その先は空だ。
上空へと放たれた火の玉は、そのまま天へ……
「はいどーん」
……向かうことなく、爆発した。
今の、こいつがやったのか……!
杖を持ち直し、うっすらと笑うエルフは……どこか不気味に、舌なめずりをしていた。
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